四
「アリーチェ様どうしたの?こんなに目を腫らせて・・」
「・・・」
次の日の朝、見事に両目を腫らした私に同じ部屋のシシィ様が驚いたように声を出した。
「婚約者の方に、何か言われましたの?」
「・・・」
「アリーチェ様・・」
昨日の事を思い出してまた涙が溢れる・・
私は昨日の事をシシィ様に話した。
自分の気持ちも全て・・
シシィ様は驚いていた。婚約者にそんな冷たい態度を取られていたの?と・・
そして、それを当たり前なんだと思い込んでいた自分に悲しくなった。
シシィ様には婚約者が高位貴族の嫡男であるとしか伝えなかった。
「これからどうなさるの?」
「・・・」
私は少し考えながら決意した事をシシィ様に伝えた。
「もう我慢はやめる事に致します。あの方がどう思うかわかりません。婚約を解消されるかも知れません。ですがもう良いのです」
「アリーチェさま・・」
もう、良いのです・・
「僕の婚約者になるなら僕の隣に立てるよう努力して欲しい」
「・・・」
「もちろん僕も君が隣に立ちたいと思えるよう努力をするから」
「・・サリド様のご迷惑にならぬよう、精進したします・・」
夢を見た。初めてサリド様と会った時に言われた言葉を思い出した。あの時サリド様は確かにそう言った。
サリド様も努力すると・・
「貴方の努力は私との距離を取る事だったのですか・・・」
私はベッドから起き上がると顔を洗いに洗面所へ足を向けた。
サリド様からは何の連絡も無い。
もともと連絡など来なかったから気にもならないが・・
「申し訳ありませんがこちら取って頂いても?」
「アリーチェ嬢、どちらですか?」
私は更に男女問わずクラスメイトに声を掛けるようにした。今までは挨拶程度でそれ以上の会話は極力遠慮していたから。
もちろん声をかける際は細心の注意を払っていたけれど、それもしなくなった。
「最近のアリーチェ嬢、明るくなったよな」
「ああ、初めは挨拶程度しか会話も無かったけど、よく見ると可愛いし」
「・・・」
「アリーチェ嬢、ちょっと急過ぎませんか?」
「何がでしょうか?」
私とシシィ様がランチをしていると、ハンズ様が同じテーブルへとやって来た。
もちろん席は私の隣に腰掛ける。
「最近は貴女の事でもちきりですよ?特に男性陣に」
「あらっ、どんな噂かしら!」
「もちろん可愛くなった!てっ噂よね?」
私とシシィ様が笑うとハンズ様は少し困ったような顔をする。
「確かに表情が明るくなって、笑顔も増えたと思います。そのせいで貴女を狙う男が増えたんですよ!」
「ですが私にはまだ婚約者がおりますから、困りますわ」
手紙を書かなくなって二月が過ぎた。が、サリド様からは何の連絡もない。
そんなもんだよね?
と思いながら私はクラスメイトと楽しい日々を過ごしていた。
そんなある日・・
「アリーチェ様!大変よ、早く!早く」
シシィ様と教室へ向かう途中でクラスメイトに声をかけられた。何事かと思い後をつけると、階段下の掲示板にたくさんの生徒が集まっていた。
何だろう・・
私たちも近づくとそこには
ハンズ・コールセン子息とアリーチェ・フィット令嬢の秘密の交際!!
と書かれた紙が貼られていた。内容もあの日の事が詳しく書かれており一瞬にして血の気が引いてしまった。
「誰だ!こんなイタズラをしたのは!!」
ハンズ様が人だかりを押し退けて紙を破り取る。一瞬目が合ったように思えたがそれどころでは無かった。なぜなら・・
「サリドさま・・」
掲示板の・・ハンズ様が破り取る側にいたのだ。
そして私の声に気付いたように振り返ると、目が合ってしまった。
私は急いで目を逸らしその場から走って教室へと逃げ込んだ。が・・クラスメイトの視線は冷たいものだった・・
「アリーチェ様、待って・・って皆んなどうしたの?」
後ろから走って追いかけて来たシシィ様も、クラスの様子が変な事に気が付いた。
「あの紙に書かれていた事は・・本当ですか?」
「違います!」
「ですが誰もいない教室から二人で出て来たって・・」
クラスのほとんどの人がヒソヒソと話している。
「ハンズ様とは本当に何もありません!」
ハンズ様のためにもハッキリと答えると
「そんなにハッキリ言われるのも寂しいですね。ですが本当に何もありませんでしたよ」
「じゃあ何で誰もいない教室から二人で出て来るんだよ!」
「その日は先生に頼まれて全員の課題を持って行ったんだ。放課後だったからね、教室へ戻ったら誰もいなかった。ただそれだけだよ」
クラスが静まりかえる。
「まぁ僕としては何かあっても良かったんですけどね!」
「・・!!」
最後に爆弾発言をしたが、そのおかげで?クラスへのわだかまりは消えたように感じた。
問題は・・サリド様だ。
会ったのは一度きりだったけど、あのお顔は間違いなくサリド様・・
「何か言ってくるかしら?それとも私の顔など忘れてそのままかしら?」
とりあえず何か言ってくるまで待ちましょう・・




