一
新連載です。
楽しんで頂けるよう頑張ります!
「僕の婚約者になるなら僕の隣に立てるよう努力して欲しい」
婚約誓約書にサインしたあと二人で庭園を散歩している時にこう言ったのは、婚約者となった サリド・ルーベント侯爵令息十二歳。
そして私は アリーチェ・フィット子爵令嬢十二歳。
お祖父様がルーベント侯爵を金銭的に援助した事で結ばれた婚約だった。
ロット子爵家は海に面した領地のおかげで貿易事業が成功し、莫大な財を得た。そのお陰?で私を望む釣書は後を絶たなかった・・のに。
「・・サリド様のご迷惑にならぬよう、精進したします・・」
格上からの申し入れに断れるはずも無く、仕方なく縁を結ぶ事となった。
サリド様にとってはご自身の意思とは関係なく結ばれた縁。正直納得していないであろう事は、この時の態度で嫌と言うほど伝わってきた・・
それでも婚約者となった以上いずれは侯爵夫人となる為、侯爵家から家庭教師なる者が派遣されて来た。
アメリア・フィーズ伯爵夫人。
フィーズ伯爵が亡くなり今はご子息が伯爵位を継いだと聞かされた、魅力的な夫人だった。
ただ侯爵夫人と親しい関係での抜擢だと、メイドから聞かされた。
夫人の勉強はとても厳しく、また課題も多い為いつも睡眠時間が五時間程しか取れなかった。
私の母はいつも夫人に
「もう少し睡眠時間を与えていただきますか?」
と訴えていたが、夫人からの言葉は
「お嬢様には決して難しい課題を出してはおりませんが?」
だった。案に私のやり方が下手なのだ、と言わんばかりの言い方に母も口を出すのを止めた。
その代わり栄養のある物、疲れが取れる物を用意してくださっていた。
サリド様からの連絡も月に一度だったのが三ヶ月、半年、空いていき気付けば学園へ入学する十五歳の時には二年近く連絡を取っていなかった。
ただ、夫人の勉強が厳しかったおかげで学園への入学試験は簡単に合格出来たことは感謝ではあった。
「アリーチェ様、ご入学おめでとうございます。将来の侯爵夫人となられる為にも今後とも勉学にお励みくださいませ。それと、サリド様もご入学されますが決してお声は掛けられませんように」
「えっ?何故ですか?」
「貴女様は何しに学園へ行かれるのですか?サリド様も次期侯爵様となられる為に学園へ入られるのです。邪魔するようであれば入学はご辞退なさいませ」
「・・・」
私の反応を見た夫人はフーッとため息を吐き
「入学される学園ではご自身を試されます。私が教えた事を忘れず侯爵家のご迷惑にならない行動をお取りくださいませ」
そう言い残し屋敷を後にした。
婚約を結んでから四年目。
直接お会いしたのは婚約を結んだ日だけだった婚約者。
こんなの婚約者同士なんて言えないわね・・
理不尽な婚約と思っているのはサリド様だけでは無い・・かと言って格下から解消など口が裂けても言えない・・
(こんな事ならサリド様から解消して貰うように伝えなければ・・)
私は心の中で固い決意を抱き、学園へと入学した。
その年は第二王子殿下を筆頭に、公爵家や侯爵家、伯爵家の方々も多く入学しており、子爵家である私はとてもサリド様に近づく事など出来なかった。
サリド様はとても優秀な方で、常に成績も上位にいて三年生には生徒会の役員の一員となられていた。
私は家庭教師であったフィーズ夫人の言いつけを守り、一度もサリド様に声を掛けなかった。
いえ、掛けられなかった。
それが良く無かったのか・・
気付けば生徒会役員の周りには常に高位貴族のご令嬢たちが取り囲んでいた。
「今日も役員の方々には色とりどりの蝶が舞っているわね」
「面白い例えをされるのね、シシィ様は」
シシィ様は同じ子爵令嬢で私と同室の令嬢だ。
「だって見てみなさいアリーチェ様。甘い蜜を吸おうと皆一生懸命よ!」
言われるがままに見ると確かに綺麗な花に吸い寄せられるように令嬢たちが集まっている。
「でも不思議よね?皆さん婚約者がおられるのに、誰一人として名を出していないのよ?私だったら嫌だわ!あの中に婚約者がいたとしたら・・」
「そうね・・」
シシィ様の言う事も間違っていない。
四年ぶりにお会いしたサリド様はとても素敵な方に成長しており、正直お会いするのも緊張したほどだ。
お会いしたと言っても数分で、交わした言葉は
「昔、私が言った言葉を覚えているか?」
「・・はい、覚えております」
「なら良い。クラスは階級ごとに別れるから一緒になる事も無い。今まで同様に励んで欲しい」
そう言うと私に背を向け去って行った・・
あの方は何故今も私と婚約を結んでいるのだろう・・
確かに金銭的な援助はしたけれど、今は返済も済んでいてこの婚約を続ける意味がわからない。
私は入学以来、一度しか言葉を交わしていない婚約者に別れを告げようと決心した。




