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第7話 そして、スパイは愛される

「次元盗賊団のボスと幹部ってところね。こいつらが帰還しなければアジトは自然分解ね」


 盗賊達を1人づつ鉄線で縛り、戦地を後にしようとした、ちょうどその時だった。 


 ──ドドドドッ!! 


 地面を蹴る音、武具が打ち鳴らされる音とともに現れたのは、数十人規模の兵士と、数人の冒険者。


「敵はどこだッ!?」

「侵入者の反応はこのあたり──」


「っ……!!」


 彼らは動きを止め、湯気の向こうの木々の裂け目に目を凝らす。


 そこに立っていたのは、ただ一人。


 無傷の私と、足元には次元盗賊団の討ち取られた痕跡。


「な、なんだこれは……!?」

「全部、あの娘さんひとりで……?」


 呆然と立ち尽くす者、感嘆の声を漏らす者。 


 ──そして。 


「ミライさ~~~ん!!」


 ぱたぱたと走り寄ってきたのは、見覚えのある栗色のポニーテール。

 ギルドの新人受付嬢だった。


「あれ、みんなやられちゃってる……え、まさか、ミライさんがお一人で!?」


 新人受付嬢の目にみるみる感動の涙があふれる。


「すごいすごいすごい!!素敵ぃぃぃ!!私、ミライさんのこと超尊敬しますぅぅぅ!!!」 


 顔を真っ赤にして、手をブンブン振る受付嬢。


 私は、顔色一つ変えず、静かに答えた。


「……私は、別に誰かに感謝されるために動いてるわけじゃない」


(そう、初任務から潜入国の資産価値が落ちるのを阻止しただけ…)


 そして、わらわらと寄ってくる兵士と冒険者たち。


 口々に「ありがとう!」「助かった!」と礼を言う声。


(……呑気なバスランドの国民性。まったく……世話が焼けるわね) 


 無邪気にはしゃぐ民衆を見て私は、知らないうちに微笑んでいた。


「このままここにいると、胴上げでもされかねないわね…」


 無言で立ち去ろうとした瞬間、不意に呼び止められる。


「ミライ殿!お待ちください!」 


 背後からキリッとした低音が響いた。

 振り返ると、さきほど王宮で王の側にいたガチムチの将軍が数人を従えて歩み寄ってくる。


「王より、改めて感謝の意を伝えたいとの勅命です!城まで同行を願う」


(……まさか、また呼ばれるとは) 


 断る理由はない。だが。 


(騒ぎが、また大きくなりそうね) 


 私は小さくため息をついて、兵士たちに並ぶように城に向かって歩き出した。


 街に差し掛かると次元盗賊団討伐の噂はすでに広まっていた。


「あっ!サメ野郎追い払ったお姉さんだ!」

「またあの姉ちゃんか!すっげぇ!!」


 歩くだけで、視線が集まる。笑顔。歓声。感謝の嵐。


「おお、嬢ちゃん!また焼き芋食うか!?」

「キャー!お姉様、こっち見て〜!」


 焼き芋を持って手を振る獣人のおじさん。物陰から手を振る子ども。ハンカチを差し出してくる老婆?どういう意味?焼き芋って!?


「この国は…あんたに救われたよ……」 


 私は無言で頷き返すだけだった。


 だが、胸の奥がじわりと熱くなるのを、どうしても止められなかった。


(……これはまずい。これはスパイには不要な感情)


 苦笑しながら、私は目を伏せた。 


 **********


 案内された謁見の間にはすでに数名の兵と文官、そして王が穏やかな表情で玉座に座っていた。


「再三の呼び出しに、よう応じてくれたミライ殿」


 その声に刺々しさは一切ない。


 むしろ、この地の温泉のようにじんわりと染み込むような、優しさすらあった。


(いや、王が白でも大臣や側近に腹黒いやつとか、普通いるでしょ!?盗賊団を引き入れた裏切り者とかさぁ!」


「この国を、バスランドを、救ってくれてありがとう」


 王は立ち上がると、自ら玉座を下り私の前で頭を深々と下げた。


(……まただ。やめて。そんな真っ直ぐな感謝、向けないで)


 私は思わず視線を逸らす。


 ──だが、それを遮るように王が続けた。


「この国はな、戦うことが得意ではない。だが、それは弱さではないと、私は信じておる」


(甘い…)


「我々が守りたいのは、笑って暮らせる日常であり、民の子らの未来」


(でも守るには、力が必要なのよ…)


 「そのために、そなたのような者がいてくれたこと、まさしく奇跡のような巡りであった」


(そうね、私がいれば多少は…って、違う違う…)


 しかし、その目は純粋そのものだった。誰かを欺くような嘘の色は、どこにもない。


「して、正式に王より申し出がある」


「っは…謹んで…」


(金銀財宝でも積むのか?まあ、貰えるものは貰っておくとするか)


「我が娘となり、王女として向かい入れたい!!」


「…は?」


少しの沈黙


「…はぁぁぁぁぁぁぁ!????」


(しまった……!あまりの申し出に、声に出してしまった!)


 顔に出したら負けだ。そう思ってるのに、開いた口が閉まらない。

 王は満面の笑みでうなずき、その隣で将軍も兵士も、文官たちも全員がニッコニコしながら拍手していた。


(なんで…誰も異を唱えないのよ……!?) 


 空気が、完全に「めでたい方向」に流れていく。


 どれだけ冷静を装っても、この状況にツッコミたくて仕方ない自分が心の中で思わず叫んでいた。


(っていうか、王女ってスパイの潜伏職として、あり得るの……!?)


 私とした事が、王からの先制攻撃に呆然と立ち尽くす事しか出来なかった…。

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