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聖彩の泉  作者: Sunder
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聖泉に沈む夢

「なんなんだよ、あいつ。」


疑念を抱えたルイフは、近くの酒場に足を運んだ。つまらない試合を忘れるために、一杯飲もうと思ったのだ。


そのとき、一人の男が店に入ってきた。手に提げた袋は小ぶりのバイオリンが入っていそうな形。昼間の試合に出ていたあの男だった。


「ウォームムーンを一杯、それとチョコレートナッツを一皿。砂糖抜きで。」


女主人は、上が細く下が広いグラスを取り出し、トングで光る石を一つ、グラスの底のくぼみに落とした。そして濃い色のチェリー酒を注ぎ、最後に生クリームで口を封じた。輝く石は酒の中で夜の月のように光り、グラスの模様と相まって非常に上品だった。


ルイフも同じものを注文したが、ナッツは砂糖ありにした。ほんのり熱を持ったチェリー酒からは、強いチェリーの香りが立ち上る。チョコレートナッツにはざらついた砂糖粉がまぶされ、苦味と甘味が絶妙に調和していて、三層に分かれた食感がたまらなく贅沢だった。


「パグ、もう引退しなよ。若者のアイデアや情熱にはついていけないでしょ?今じゃ誰もあなたにスポンサーなんてつかないし、昔の賞金でとっとと楽隠居しなよ。」

女主人がため息混じりに言った。


ルイフは最初はぽかんとし、それから驚愕した。パグといえば昔の準優勝者。だが、当時の優勝者に完膚なきまでに叩きのめされてからは、見る影もなくなり、回を重ねるごとに成績は低迷――まさかまだ試合に出ようとしていたとは。


「俺のことはいい。お前だって昔はスター歌手だったじゃないか。若いうちに試合に出ればよかったのに、年を取ってから参加して、若い娘に負けて、そのまま音楽界から逃げるように消えて――今はここで酒場なんて開いて。」


「『逃げた』なんて言い方やめてよ。最初から自分の店を持って、好きなように生きるつもりだったの。」


「お前、若い頃は全然違ったろ。あの頃は気が強くて、試合なんて他人と一緒に演奏する舞台は認めないって言って、誰とも比べられたくないって息巻いてたじゃないか。」


女主人――いや、シンナは不機嫌そうに眉をしかめた。


「なによ、“若い頃”って。今だって私は若いわよ。それよりあなた、あの若者と一緒じゃなかったの?あの子、結構才能あったと思うけど。あなたと組むのは時間の無駄だったんじゃない?」


「無駄なんかじゃないさ。俺はアイツにいろんなことを教えてやったんだ。追いつけなかったのはあっちの方だ。だから俺がチームを解散した。あいつ、泣きながら『もう一度組んでくれ』って頼んできたんだからな!」


話を打ち切りたかったのか、パグはナッツを適当に口に放り込み、酒を一気に飲み干すと、足早に店を後にした。


「シンナさん、あなたとあの方は、お知り合いなんですね?」


「『シンナさん』なんて呼ばないで。それに彼のことも『あの方』とか丁寧に言わなくていいわ。私はシンナ、彼はパグ、それだけよ。」


そう言ってシンナは酒を一口含み、静かに語り出した。


「あなた、聖泉を飲んだことはないでしょ?」


「確かに、ありません。でも試合はもう何度も観戦して――」


「見るのと出るのは、全く別物よ。ましてや、聖泉の力を理解するなんて程遠い話。あれは“自分”の本質を引き出す液体。心が傷ついていると、逆にその力は持ち主自身を引き裂くの。だからね、どんな性格でも、音楽家はみんな“自分”に自信を持っていなければならないし、そうでなければならないのよ。」


「じゃあ、パグさん――いや、さっきの彼は?」


「自信がなくて、でも情熱だけはあるの。現実にその情熱が潰された時、彼は長い歴史の中に静かに消えていくのよ。」

シンナの声には重みがあった。


「つまり、技術がある程度の水準に達したら――次に問われるのは“心”よ。すべての偉大さは、一つ一つ積み上げられた信念から築かれている。それを見て初めて、“本当の輝き”が分かるようになるの。」

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