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エデンハイド物語   作者: Franz Liszt
王国の章『水の都編』
33/51

第26節『地獄の幕開け』

「いやぁ、まさかこんなに早く縄を解いてもらえるなんてね」


 ウィンリアーヌの命によってクレスとソフィアの拘束が解かれ、ゼクスたちに水の都の中でのそれなりの自由が許された。


「クレス良かったですね。これでもう、放置プレイは終わりだそうです」

「そ、ソフィア。そんなこと言っちゃダメだよ」

「うふふ、いいではありませんか。わたくし、縛られたのは初めての体験だったので、少々興奮気味でして」


 どす黒いオーラを撒き散らしながら、ソフィアがニコニコと笑った。能面を貼り付けたようなそら恐ろしい笑みだ。

 そうあれだ、夜叉だ。


「そそそれだと、いつもは縛ってるみたいな言い方じゃないか……」

「あら、クレス。知りたいのですか?」

「え、いや、うん。またの機会にしておこうかな」


 このままでは自分が危ういと察し、クレスは丁重にお断りを入れた。幼馴染の趣味には決して口を出すまいと、固く心に刻み込みながら。


「クレスぅー! 早く遊ぼうぜ!」


 向こうでウンディーネたち相手に遊んでいるゼクスの声が聞こえてきた。そういえば先ほど縄を解いてくれたウンディーネが言っていた気がする、「ゼクシードが呼んでる」と。

 なるほど、ゼクスは持ち前の性格からウンディーネたちとも打ち解け始め、彼女らに遊びというものを教えているようだ。ウンディーネたちは人間の遊びは知らないようで、皆楽しさと驚きを感じている表情だった。


「あぁ、今行くよ!」


 クレスはそう返事をしてから、さっそくゼクスたちのところへ向かった。

 走りながら、そういえばと思う。そういえば、団長の姿が見えない。そしてあそこでゼクスとアリスもいる。自分たちも解放された。これらの意味する事はただ一つ。交渉が成立したのだ。おそらく今は団長とウィンリアーヌ殿が話し合いえもしているのだろう。

 楽しくなりそうだ。


「ソフィアも行くかい?」

「わたくしはいいです。行ってらっしゃい、クレス」


 ソフィアが呼び捨てで呼ぶのは、クレスだけだ。そんな彼女は、一人で黙々とマンガを読んでいるアリスの下へ歩いていった。


「あははっ、ゼクシード! また鬼ねぇ~」

「本当にバカなのだな、お前は……」

「私たち初めてなのにねぇ~」

「うっせぇー、もう一回だぁ!」

「きゃぁー、逃げましょう!」


 ウンディーネたちとゼクスは、白熱するかくれんぼをやっているようだ。遊びというものをほとんど知らないウンディーネたちにとって、ゼクスの提案する遊びはとても新鮮でとても面白いものだった。しかし一度遊び方を教えると、ゼクスがほとんどのウンディーネに負けるという素晴らしい結果となっていた。

 頭隠して尻隠さずは、常識的なものになりつつあるほどに。


「ゼクス、僕も逃げていいかい?」

「あっ、クレス! クレスはダメに決まってんじゃん! 俺と一緒に鬼な!」

「えぇ~」

「頼む! クレス! 俺だけじゃダメなんだっ!」

「はいはい。じゃあ、数えなおそうか」

「よっしゃ! さすがクレスだぜ! おーい、みんなぁ~、クレスも鬼だからな!」

「「「はーい」」」


 ウンディーネの性別は女だけだ。それもかなりの美少女という出で立ちで、人間とほとんど変わらない。また彼女らは薄着で、人間の女性が着そうもないほど際どいものだ。

 そんな中でクレスは妙な気恥ずかしさを覚えたが、全く無頓着なゼクスがさっそく数え始めたので、いい加減覚悟を決めて自分も数えることにした。



「アリスさんはゼクス君たちと遊ばないのですか?」


 ソフィアは木陰に座るアリスの隣に腰を下ろすと、マンガの上から覗き込むように彼女のことを見た。


「ええ、私はいいんです」

「でも、それこの前読んでいたマンガですよね?」


 ソフィアが水の都への道中に貸してあげたマンガを、アリスはまた読んでいるようだった。そんなに気に入ったのだろうか……。


「はい、でも他にすることもないので」

「遊びは嫌いなのですか?」

「えと、私は遊んだことがないんです。だから遊び方も判らないし、かといってゼクスに教えてもらうのも、なんだか釈然としなくて」


 唇を尖らせて言うアリスは、幼い子供のような印象だった。


「あらあら、ふふっ……」

「ソフィアさんこそ行かないのですか? 私と居てもつまらないでしょう?」


 マンガから完全に視線を離し、ソフィアのことを見つめながら問いかけるアリス。そんな彼女は、ちょっとだけ、いじけているようにも見受けられた。

 それがソフィアのスイッチとなってしまう。乙女モードのスイッチだ。


「ああ、もう! ほんっとにアリスさんは可愛らしいですわね。ゼクス君には後できつーく言っておきますから、こんな可愛い子を放っておいてなにやってるんですの! って」

「や、やめてくださいよ、ソフィアさん。恥ずかしいです」

「いやぁん、やっぱり可愛らしいですわぁ~。ちょっと頬ずりさせてくださいませ」

「え、いや、ちょっと、ソフィアさん!?」

「すりすり~、すりすり~」


 本当に頬ずりを始めてしまうソフィアに、タジタジのアリスはされるがままになっていた。ソフィアの亜麻色の髪と、アリスの闇色の髪が混ざり合うかのように乱れる。


 そんな時――。


「へぇ~、ゼクシードってけっこう筋肉あるんだぁ~」

「うわっ、やめろって! くすぐったい!」


 ウンディーネの一人がゼクスの身体にペタペタと触っている光景が、アリスの目に飛び込んできた。白い肌を惜しげもなく(さら)す彼女に、ゼクスはタジタジになっているような気がしてくる。いや、気がするんじゃなくて、実際にそうだ。そうに違いない。


「あぁ、ホントだぁ~」

「私たちと違って固いんですね!」


 見ていると、他のウンディーネたちも顔を赤くしながら、同じようなことをやり始めていた。やはりこれまた裸のような衣装を着ただけの彼女らに、ゼクスが顔を紅潮させているのが見て取れた。


 ――ムカ。


 そしてこれまた同じように、クレスのところにもウンディーネたちが群がっていて。ソフィアの目にも、美女に囲まれ、満更でもなさそうなクレスの姿が映っていた。


 ――ムカムカムカッ!


 瞬間、アリスとソフィアの二人はゆらりと立ち上がった。どす黒いオーラが全身から滲み出ている。彼女らはゆらゆらと彷徨(さまよ)うかのように、ウハウハなゼクスとクレスへ近付いてゆく。

 もう天国(ヘヴン)の安らぎは終わりだ。これからは地獄(ヘル)の苦悩の幕開けである。


「ゼクス~、……ちょっといいかしら?」

「おっ、アリスじゃん。一緒に遊ぶ気になったのか?」

「いいから、少しこちらへいらっしゃい」

「あぁー、ゼクシード待ってぇ~」

「ちょっとゼクス――いえ、ゼクシードをお借りするだけですので、少々お待ちを……」


 ニッコリと微笑むアリス。

 しかし目が全然笑っていなくて、完全に据わっている。その様は口をニンマリしているだけに、とても恐ろしい。そんなアリスのあまりの迫力に、群がっていたウンディーネたちは一歩どころか、そそくさと距離を取り退散していった。


「クレスも、いいですわよね?」

「え、そ、ソフィア……どうしたの?」

「あら嫌ですわ、クレス。分かっていらっしゃるくせに……。ではこちらも少々、お借りいたしますね。オホホホホホォー」


 ずるずるとボロキレのように引き摺られてゆくクレス。体重が67キロもあるクレスを軽々と引き摺る、ソフィアはかなりの力持ちのようだ。華奢な身体のいったいどこにそんな力があるのだろうか、それともこれが火事場の馬鹿力というものなのだろうか……。

 そして物陰にゼクスとクレスを押し込んだところで、アリスとソフィアは黒一色の笑みを零した。


「覚悟はいいかしら、ゼクス様?」

「さ、さま? いったい、なにが始まるんだよ?」

「さぁ、ぼ、僕に聞かれても……」

「あらあら、まだお分かりになられないのですか? 騎士でありながら、不埒(ふらち)なマネを喜ぶ変態に、愛の(こも)ったオ・シ・オ・キ(ハート)をするだけですわ。いいですね、クレス?」


 いったいどこから取り出したのか、どこからともなく革製の(むち)を二本取り出し、一本をアリスへ渡しているソフィア。

 怖い、怖すぎる。

 ゼクスとクレスは、もはや声も出すこと叶わずに震えていた。本能が警鐘を打ち鳴らし、生存本能が彼らの足を無意識に後ろへ引こうとさせる。だが途中で夜叉女(やしゃめ)に足首を(つか)まれ、あっけなく捕まってしまった。

 そして彼女らの愛(?) の鞭が振るわれようとしていた瞬間――。


『キャー!!』


 甲高(かんだか)い悲鳴が響き渡った――。



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