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エデンハイド物語   作者: Franz Liszt
王国の章『水の都編』
29/51

間奏『アラモ砦と入口と』

 空は快晴。任務も順調。ゼクスたちは昼食を取るために国境砦に立ち寄った。

 ゼクスは目の前に(そび)え立つ巨大な砦を見上げ、元気一杯の喚声を上げている。


「すっげぇー! なんだこのでっかい建物!」

「これは王国が所有する一大砦――アラモ砦です。建国以来一度たりとも陥落したことのない難攻不落の要塞ですよ」

「へぇー、すごいんですねぇ~」


『アラモ砦』は千年以上前に建てられたもので、人間と精霊との大戦争の傷跡を今に伝える大事な建造物である。特に敵対が激しかったウンディーネの領土と、シュレイグ王国の領土の境ギリギリに位置し、ウンディーネの監視と防衛の意味も込めて今も必ず王国騎士たち数百人が駐屯している。


「貴方、本当に知らなかったの?」


 アリスがいつものポーズを取りながら、やはり偉そうに言ってきた。


「知らなかったぞ」

「はぁ……相変わらず無学な人。まだまだ『教育』はやめられそうもないわね」


 大げさに呆れるアリスにすかさず言い返してやろうと思ったが、彼女が他の団員とともにさっさと中へ入っていってしまったため、言うタイミングを失ってしまった。その代わりに地団駄を踏んでおく。 

 まるでガキだ。まんまガキである。


 砦の前では二人の衛兵が気だるそうに立っていたが、ロイドを認めるとすぐに敬礼してみせた。


「これはロイド殿ではありませんか、お久しぶりです」

「はい、お久しぶりです。また一杯やりましょうと言いたいところですが、今日は取り敢えず中へ入らせてもらえますか?」


 気安く話し合う二人。どうやら彼らは互いに面識があるようだった。会話から推察するに、かつて杯を交し合った仲なのだろう……。


「ええ、いいですとも。しかし本日はいかがされたので?」

「水の都に国書を届けるよう、ラファエル様から言い付かったのです」

「水精の集落ですか……。それは大任ですね。ご武運を祈っております」


 ウンディーネは別名『水精』である。


「ありがとうございます。食堂は確か、中に入ってすぐ右に曲がったところでしたよね?」

「ええ、そうです。今日はおろしのハンバーグがおススメですよ」


 最後に茶目っ気を感じさせる言葉で会話を終え、ロイドたちは砦の中へ入っていった。

 砦の中の食堂でランチを取り、2時ちょっと過ぎには砦を後にした。このまま順調に行けば、夕方には宿泊予定のクーレル村に着くことだろう。



 一行は村で一泊した後、街道をひたすら歩きに歩いた。といってもアリスは聖女(マリア・ステラ)で体力的な不安もあったので、時々休みを挟んだ。

 そして砦を越えて二日後にようやく水の都の入り口に辿り着いた。



 水の都の入り口は特別守りの兵が立っているわけでも、(いか)つい門があるわけでもなかった。ただ木々に囲まれた場所に、ぽつんと湖があるだけだ。とても生活できそうな場所など見当たらない。

 もし(あらかじ)め知っていなければ、ここが水の都の入り口だと言われて納得できる者はおそらくいないだろう。


「ちょっと団長、ここが本当に水の都なんですかぁー? 間違ったんじゃ……」


 ゼクスは辺りを見渡して、疑わしそうな声を上げた。彼の言い分も大いに分かる。


「いいえ、間違っておりませんよ。いいですか、この硬貨を湖の中へ投げると――」


 言ってロイドは、手にしているあの不思議な硬貨を湖へ投げ入れた。

 途端にひときわ大きな泣き声が響いたかと思うと、湖の水面が急にこぽりと音を立てて大きく盛り上がり、人間の腕のそれを形作った。

 思わぬ事態にゼクスは息を呑み、弾かれたように剣を引き抜いて切り裂こうとしたが、それよりも水の腕が動くのが早い。

 信じられないほどの速さでゼクスたちの身体へと伸びた水の腕は、ぐるりと彼らの身体に巻きついて予想以上に強い力でぐいっと身体を引っ張った。

 そして彼らを湖の中へと引き|摺≪ず≫り込む。

 誰にも、逆らう間すら与えられなかった。



 大きな水音と共にゼクスたちが湖の中へと沈んだ後、湖は何事もなかったかのように静まり返っていた。


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