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エデンハイド物語   作者: Franz Liszt
王国の章『水の都編』
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第21節『いざ出発!』

 明日も遅刻しようものなら、またアリスに何を言われるか分かったものではない。

 彼女に文句を言われないためにも、絶対に遅れまいと誓ったゼクスはその夜。仲間たちに借りられるだけの目覚まし時計を借りまくって、さらには保険としてアランに起こしてもらえるよう頼み込み、またクレスにも行く際は寄ってもらえるように頼んでおいた。

 これだけした甲斐があってか、時間ピッタリに起きることができたのだった。


「おっ、ゼクス。ちゃんと起きられたみたいだね」


 部屋の前で待っていてくれたクレスが好意的な笑みを零した。

 朝っぱらから爽やかな表情の青年の隣には、まるで当然のようにソフィアも立っている。彼女もまた「おはようございます、ゼクス君」と微笑んだ。


 どうもゼクスには不思議な魅力があるようで、敬意など全く示してこないのに、どうしてか嫌ではなく、むしろ良い意味で一緒にいても疲れなかった。

 こうして部屋に散乱する多くの目覚まし時計と、アランやクレスの存在が、それを如実に物語っているだろう。


「もちだぜ! 今回は気合の入り方が違うんだ」

「ははっ、そうかそうか」

「元気なことは、とても良いことですわ」


 そう元気よく言ったゼクスとクレスとソフィアは、仲良く三人で集合場所へ向かった。



 まだ完全に夜が明けきらないシュレイグ城下町を意気揚々と歩くゼクス。するとずっと先を歩く人影があった。

 ――アリスだ。

 すぐさまゼクスは競歩のような足取りでアリスたちとの距離を詰めると、鼻息も荒くそのまま抜き去ってゆく。擦れ違いざまに、アリスの顔をニヤニヤと見てやる。もし彼女が張り合ってきたら、すぐさま全力疾走をする準備はできていた。

 しかしアリスが歩く早さを変えることはなく、マイペースを貫いていた。


(さてはアリスのヤツ、俺に勝てっこないって悟りやがったな)


 油断したゼクスは少しだけ歩調を緩めた。

 その瞬間――アリスがニィッと笑って猛然とダッシュした。

 纏ったローブの裾を翻して、あっという間にゼクスを追い抜かす。固まったゼクスと擦れ違いざまに、「ばーか!」と言っておくことも忘れない。

 アリスはゼクスと一緒にいることが多くなるにつれて、少し子供っぽくなったところがある。以前の彼女だったら、このようなおふざけに付き合うことはせず、淡々と歩いていたところだろう。

 慌ててゼクスも追いかけるも、すでにアリスが集合場所に到着した後だった。


「ちくしょー! アリス卑怯だぞ!」

「あら、途中で気を抜いた貴方が悪いのでしょう?」


 たちまち口喧嘩を始める二人。

 それはやっぱりいつも通りの光景だった。

 そんな彼らをクレスとソフィアは優しげな眼差しで見守っている。……いや、ソフィアは「あぁ、アリスティア様とゼクス君たち……とっても可愛らしいですわぁ~」などと口走っており、クレスは必死で耳を塞いで苦笑いをしていた。


「おっはようございまーす、団長」


 性悪聖女(マリア・ステラ)との一戦を終え、気を取り直してゼクスは、目の前で額を押さえていたロイドに挨拶する。


「おはようございます、ゼクスさん。今日は遅刻しませんでしたね。よく頑張りました」

「任せといてくださいよ。もう絶対遅刻なんてしませんから!」


 言って、胸をドンと叩いた。自信満々そうだが、毎回あのような目覚まし時計祭りをするのだろうか、アランが聞けば号泣ものだろう。

 そうとは知らないロイドはニコニコと笑って。


「良い心がけです。これからもその調子で頑張ってください」


 と言った。

 すると隣のアリスが意地悪そうに表情を歪めて、「ゼクス。貴方子供扱いされてるってちゃんと分かってる?」と訊いた。


「なにぃー! 団長、そうだったんですか!?」

「い、いえ、その……そんなことありませんよ?」

「最後の疑問系はなんっすかぁ~」


 へなへなとその場に崩れ落ちるゼクス。

 スノードロップを思わせる白い髪も、元気なく垂れ下がった。まるで生き物みたいな髪である。


「ふふっ、ゼクスは本当に|可笑≪おか≫しいよね」

「ぐぅ……っ!」


 いつも通り瞬時にアリスの追撃が撃ち込まれ、またもダメージを被るゼクス。

 しかしそこでソフィアとクレスも到着し、ソフィアがこう言った。


「ですが、アリスティア様もゼクス君に張り合っていらして、とても可愛らしかったですわ」


 途端に、ボンッと音がなりそうなほど顔を真っ赤に染めたアリスが、「いや、あれはですね……」などと、何やら苦しい言い訳を言い始めた。


「でも、張り合っちゃったのですよね?」


 それを許さないのは黒ソフィア。アリスを完全に愛でているようである。

 そんな彼女の背後に、何か黒いものがモヤモヤと見え隠れしているような気がしたクレスであった。しかし口が裂けても言わないと心に決めている。

 この後もひたすらエンドレスに並べられる、甘い言葉たち。

 そのソフィアの黒い言葉の羅列に、へなへなと下にしゃがみこむアリス。そのまま手で絵をモジモジと書き始めてしまうほどに、いじけまくってしまった。


「ま、まぁまぁ、ソフィアさん。その辺で許して差し上げて……」

「いやですわ、団長。許すもなにも、わたくしはただ愛でているだけですわ。この可愛らしく初々しい新芽を……」

「うっ、あ、はい……」


 キラキラと無駄に輝く茶の瞳を見開くソフィアに、思わずロイドは呻き声を上げ後退した。


「く、クレスさん。なんとかしてください、お願いします」

「む、無茶言わないでくださいよ、団長。俺でもああなったソフィアは止められないですって」


 背中を押し合うロイドとクレスが妙に頼りなく、ゼクスの目に映った。


「っと、いけません、いけません。もう任務は始まっているのです。団長であるわたくしがしっかりせねば!」


 やがて復活したロイドが、あたかも頼りがいのある団長のように力強く言った。


「はいはい、皆さん。そのへんよろしいですか?」


 パンパンと手を叩いて、場を仕切りなおす。

 そして団員全員が頷くのを見届けてから、大きく息を吸った。


「では、これより白光祈騎士団(ルミナス・クロイツ)。ウンディーネとの交友のため、水の都へ出発いたします!」


 宣誓と共に、腕を振り上げるロイド。彼に続くように皆も腕を振り上げる。

 無論、ちゃんとアリスもやっていた。どうやら、団と個人の感情は別のものだと割り切れたようだ。


「よっしゃ! 今回もバリバリやってやるぜ! いざしゅっぱーつっ!!」


 対していつも元気なゼクスだけは、腕を振り上げるだけでは物足らりず、ジャンプまでして余りあるやる気を発散していた。



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