表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エデンハイド物語   作者: Franz Liszt
王国の章『大地の里編』
15/51

第10節『大地の里』

 大地の里と呼ばれる大集落に到着した白光祈騎士団(ルミナス・クロイツ)。これからが任務本番だ。


 ゼクスたちが正門の近くまでやってくると、門よりもさらにずっと上に見張り台があって、そこに地の精霊――ノームの姿があることに気が付いた。


「開けてぇ!」


 ゼクスは見張りのノームに向かって、いつもとなんら変わりない口調で言った。


「断る」


 ところが、上からゼクスに負けないほどぶっきらぼうな答えが降ってきた。まあ、さも当然であろう。


「えぇー、なんでだよ? こちとらシュレイグから遠路遥々やって来たってのに」


 当然ではあるがそれを分かっていないゼクスは、ノームに文句を言い返した。だが、対するノームは鼻で笑い返すと、そっぽを向いてしまった。


「団長、アイツ俺たちに喧嘩売ってますよ」

「それはアンタよっ!」


 スパコーンっといい音が鳴った。見るとアリスが、自分の頭をペチペチと(はた)いていた。そんな彼女の顔は先ほどまでの(ほう)けたものではなく、ツンと澄ましたものである。


「なにすんだよ、アリス!」


 思わず怒鳴るゼクス。


「うわ、きったない。怒鳴らないでよ。唾が飛んできたじゃない!」


 すぐさま言い合いを始める二人。


「まぁまぁゼクスさん、アリスティアさんも。いいですか、ゼクスさん。物事には順序というものがありまして、それに伴って礼儀というものがあるのですよ」

「はぁ……」


 それをロイドは優しく諭すと、ゼクスの前に出た。そして門番に向かって、丁寧に頭を下げる。


「あのー、はじめまして。わたくしはこのたび、シュレイグ城より友好使節護衛に参りました、白光祈騎士団(ルミナス・クロイツ)の者でございます。お手数とは存じますが、こちらの門を開けてはもらえませんでしょうか?」


 ロイドはこれでもかってほどに丁寧に、ノームへ言って聞かせた。何というか、分かってもらおうと必死なのが伝わってくるものだ。


「なんじゃ。護衛の騎士団か。それならそうと、もっとはよ言わんか」


 納得、もしくは満足したらしい見張りのノームは仲間に合図する。


「よし、入れや」


 すると、重厚な門扉(もんぴ)は金属の擦れ合う不快な音をさせることもなく、上方へスライドしていった。

 門を通る時に、ゼクスが上を見上げてみると、上部に固定された門の厚さはかなりのもので、とても丈夫そうに見えた。

 鉄を叩く音。岩を採掘する音。機械が駆動する音。

 大地の里に入った瞬間、さまざまな音が波となって押し寄せてきた。


「うっひゃ~、すっげぇー! すげぇーんだな、ノームって!」


 大地の里の様子を見て、ゼクスはすごいすごいと興奮する。そしてその興奮のままに、勝手に走り出そうとした。


「はしゃがないで、みっともない。子供かっ」


 急いでゼクスの首根っこを掴み引き止めるアリス。聖女の気苦労はやはり絶えない。

 しかし彼女はそうは言いながらも、ゼクスにちょっとだけ感心していた。これだけのものを見ても、物怖じしないどころか、飛び出してゆこうとする姿勢に。アリスはこの凄まじい光景を、自分たちと同じ種ではない精霊のノームが築いているのだと思うと、途方に暮れたように立ちすくんでしまっていた。ロイドも同じなのだろう、その場に固まっている。

 案外、ゼクスは団長のような率先して前に出る職に向いているのかもしれないと、柄にもなく思ってしまった。いやまあ、そうなってもらわねば困るのだが……。


『大地の里』はその名の通り、地の中に造られた里であり王国だった。

 切り立った岩肌や突き出た岩盤に沿うようにして家々が並び、いたるところに橋が掛けられている。どの家も鉄で造られ、屋根からはダクトが伸び、その先端からは黒い煙を吐き出していた。

 ありのままの自然と、圧倒的な技術力の元に築かれた建造物が、なんとも不思議な一体感を醸し出し、そこに悠然と存在しているかのようだった。


「まずは長老のところへ行くんだな。場所はここから真っ直ぐ行ったところにある。ほら、アレだ。見えるだろ? あのデカイ屋敷な」


 見張りのノームは、切り立った崖の頂上にある大きな屋敷を指差した。確かに、他の家々比べ大きい。まさしく長の家といった感じだ。

 ノームたちは皆ふっくらとした体型で、身長こそゼクスの肩にも届いていないが、身体つきは屈強の二文字だけ。まるで筋肉の塊のようである。それだけでも、彼らが有能な戦士だということがよく分かった。

 また彼らは自慢の髭を生やし、さながらサンタクロースの縮図を想起させるものだ。そのこともあってか、ゼクスは面白いなコイツらと思うと同時に、どいつもこいつも同じような顔に見えて仕方がなかった。


「大地の里ってすごいっすね、団長!」

「そうですね。聞いていたよりも、ずっと近代的です」


 ゼクスとロイドは目を輝かせながら、頷きあった。

 ゼクスにとっても、ロイドにとっても、何もかもが珍しく、特にゼクスは先ほどからキョロキョロとしっぱなしだ。これではどこぞの田舎将軍だった。


「あまりキョロキョロしないで。私まで田舎者だと思われるでしょ」

「何でだよ、アリスだってここに来たのは初めてなんだろ?」

「初めてだけど、知識としては持ってるわ。貴方のようにおバカじゃないからね」

「はいはい、どうせ俺はアリス先生よりもバカですよぉ~だ! さすが、アリスティアお嬢様は頭でっかちでいらっしゃる」

「くぅ、コイツ……なんでこう、都合のいい時ばかり本名で……」


 珍しくゼクスに皮肉を言われ、アリスは喉の奥で唸り声をあげた。


「……はぁ」


 ロイドはそんな彼らにため息を洩らし、この犬猿の仲をどうすればいいか考えあぐねいていた。


 そうこうしているうちに、ゼクスたちは長老の家に到着した。

 家は大きく豪奢な造りの三階建てだった。しかし中に入ってみると以外に簡素で、持ち主の趣味の良さがにじみ出ているかのようだ。彫刻はどれも一級品ながら、派手すぎず、周りの調度品としっかりマッチしている。これらはノームたちの腕の良さと、元々の器用さを示しているようであった。


 ロイドがノックした時に出迎えてくれた、女性のノームに連れられてゼクスたちは長老の下へ向かっている。ノームにおける女性と男性の違いは、筋肉と髭の違いぐらいだった。どれもずんぐりむっくりしていて、ゼクスにはこれまたどれも同じヒトのように思えた。非情に失礼なヤツである。

 ゼクスの心の中での思いなど露も知らない彼女は屋敷のメイドらしく接客は手馴れているのか、ゼクスたちの案内中に様々なノームの話にユーモアを交えて聞かせてくれた。

 やがて広い部屋に着き、そこには1人のノームが高い椅子の上に乗っていた。座っていたよりも、こちらの方がしっくりきそうだ。

 このノームこそ、誰の目から見ても長老といった風だった。


「まずは長旅、ご苦労じゃったな。ワシがこの里の長、ドワンノフじゃ」


 ノームの長老はドワンノフと名乗って、ロイドたちを労った。

 ドワンノフの姿は、普通のノームたちより2倍ほど大きく、それでいて彼らよりも尚屈強そうに見えた。そしてそのゴツゴツとした指には、これまた大きな宝石が埋め込まれた指輪がしてあった。しかしそれだけが装飾品のようで、他に目立ったものは何一つ身に着けていない。

 ノームは人間よりも長寿である。ウンディーネの永遠といわれているものほどではないが、それでも悠に数百年は生きるといわれている。ドワンノフの体のいたるところに刻まれた(しわ)は、彼の生き様を物語っているようにも思えた。


「わたくしはシュレイグ王国所属の白光祈騎士団(ルミナス・クロイツ)団長、ロイド・セイ・サーバントと申します。この度の友好使節護衛の任をさせていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 ロイドは恭しく頭を下げた。ゼクスとアリスも急いでそれに倣った。


「サーバントと言やぁ、レイトスのセガレか?」


 ロイドのファミリーネームを聞いた途端、ノームの長が驚いたような声をあげた。


「はい、左様でございます。レイトスは私の父ですが、それが何か?」

「おぉ、おぉ。そうかそうか」


 ロイドがしかと頷くと、ドワンノフの表情が和らいだ。


「父をご存知なのですか?」

「当たり前だ。この大地の里でアヤツの名を知らんもんはおらんよ」

「へぇー、団長のオヤジさんって有名な人なんですね」

「なんだ坊主、お前は騎士のくせに、レイトスを知らんのか?」

「ぜーんぜん」


 首を振るゼクス。彼のことを少しだけ暗い瞳で、アリスは見つめていた。何かを思いつめているような表情だ。


「アヤツは――」


 そしてドワンノフが語りだそうとした時、アリスが我慢ならないとばかりに口を開く。


「やめてください」

「へ?」


 あまりにも冷静でいて、とてつもなく寂しい音色の声だった。

 だからゼクスは思わず、アリスの顔を見やる。俯く彼女の顔つきは、苦渋で歪んでいた。


「す、すいません。席を外します……」


 突然アリスはそう言い残すと、足早に部屋を退出していった。

 呆然とする一同。しかしその中で一番先に立ち直ったのは、ロイドだった。彼はゆっくりと瞳を伏せ、ゆっくりと何かを吟味するかのように開いた。


「ゼクスさん。どうかアリスティアさんのところへ行ってください。ここは私だけでいいですから」


 ロイドも悲しげな声で、ゼクスにそう言った。だがゼクスは彼の言葉を聞き届けるよりも先に、すでに部屋を出て行こうとしていた。


(言う必要なんて、なかったようですね)


 ロイドは何となく、あの喧嘩ばかりしている二人は、実は良いコンビになりそうだと思った。


(それよりも問題は私、ですね……)


 しかしロイドは目の前に長老がいることを思い出し、すぐに思考を切り替える。そして任務の詳しい内容を話し終え、長老と共に明日の予定を立てたのだった。



 部屋を飛び出していったアリスを探すために、ゼクスは走った。すると案外近くに彼女の姿を見つけた。考えてもみれば、この大地の里から出る事はないので、行けるところなど高が知れていたのだが、ゼクスにそこまで回る頭はない。

 近付くにつれて、小さな声が聞こえてきた。間違いなくアリスの声だ。彼女は岩が突き出る里の頂上付近に立っている。


 夕日の光で赤く彩られた岩場がある天辺には、心地よい風が吹き渡っていた。今にも地平線に沈みそうな太陽は、空高く浮かんでいる時よりも何倍も大きく見えた。

 どこか寂しさに溢れた情景。

 その中の一つとして溶けるかのように、アリスは佇んでいる。

 鉄製の補助柵に手を置いて、夕日を眺めながら、何かを呟いているアリス。長い黒髪が風でなびき、またローブが風で捲り上がって彼女の白い膝小僧まで見えたり隠れたり。

 少し遠目からそっと横顔を窺うと、彼女は一心に何かを見据えているようで。その顔は青ざめている。このまま泣き出してしまいそうな表情だった。

 ゼクスは思わず走り寄っていった。


「伯母さん……伯母さんはどうして――」


 台詞の途中で、アリスが振り向いてきた。何者かの足音に気が付いた様子だ。そしてその相手がゼクスだと確認すると、ふいに、少しだけ表情を緩ませた。


「ゼクス……どうしたの? もう話し終わった?」

「知らね。俺も抜け出して来ちまったからな」

「え? ゼクスもって……」

「別にお前のせいじゃねぇよ。俺はバカだからさ、難しい話とかは団長に任せとけばいいっしょ! ってな感じ」


 そう言ってゼクスがニッと微笑むと、釣られたようにアリスも少しだけ笑ってくれた。

 やがてアリスは、もやい鋼のようなものが巻付けてある石の上に座った。そしてちょいちょいとゼクスも隣に腰を下ろすように手招きしてやる。

 ゼクスは指示されるがまま、石の上に腰を落ち着けた。隣ではアリスが一息ついていた。


「ゼクス……」

「大丈夫か?」


 近付いてみて、初めて気が付いた。夏だというのに、彼女の細い体は震えている。額に浮く汗は、暑さによるものでないことぐらいゼクスにも分かった。冷や汗だ。


「おい、ホントに大丈夫かよ。先に宿で休ませてもらうか?」


 ゼクスの言葉に、アリスは首を振った。指を全部手の平の内に握りこんで、膝の上でぎゅっと握りこぶしを作っている。


「ごめん……ゼクス」


 ゼクスは息を呑んだ。聡明な彼女のことだ。きっと自分がついた嘘なんて、完璧に見抜いているのだろう。それでも、謝らなくていいだ、という言葉は喉に(つか)えて声にならなかった。


「心配してくれたんだよね、ゼクスは」


 しなをつくって、アリスが上目遣いで微笑んできた。彼女のそんな態度は珍しく、ゼクスはほんの少しドギマギしてしまう。


「……まぁ、その、なんだ。ほら、アレだ。お前には借りがあるしさ、それに――」

「……それに?」

「俺たち、仲間だろ。同じ団の」


 だけどもう一度、ゼクスはニッとアリスに微笑みかけた。

 これは尊敬する父も言っていたことだ。正確には父が残し姉に教えられた言葉だけど、ゼクスにとって最も心に響いた言葉。


 ――同じ団の仲間は大切にしろ。何があっても、守れ。

 それが聖女(マリア・ステラ)なら尚更だ。

 我々を守護する彼女らは決して――逃げない。


 でも――それだけじゃない。この何ヶ月かアリスといて、きっと俺自身がアリスを守らなきゃいけないって思ったんだ。


 ゼクスの言葉を聴いて、アリスは胸が熱くなった。

 今までに仲間だと言ってくれた者は、ほとんどいなかった。名家のローゼンバーグに生まれ、当たり前のように聖女(マリア・ステラ)になって、当たり前のように人々は賞賛し、敬った。

 それは本当に、アリスティアとしての自分を見てくれていたのではない。


 ――いつだって皆が見ていたのは、ローゼンバーグの家名。私じゃない。


 でも、目の前の少年は違った。

 遠慮なんて全くしないので、最初はムカついていたが、それでもアリス自身を見てくれているように思えた。


 ――私を見てくれる。


 気付くと、涙が溢れそうになった。

 しかしそれをアリスは許さない。泣くなんてみっともないマネを、コイツの前でしたくはなかった。


 ――私は聖女(マリア・ステラ)。シュレイグ王国最高と謳われた、聖女(マリア・ステラ)の名門、ローゼンバーグ家の次期当主だ。

 だから――私はこう言うべきなのだ。


「そうね。貴方は私を守る騎士。私を気に掛けるのも、守るのも。全くもって当然のことね」


 気を取り直したらしいアリスが、やっぱり毒舌を吐いた。相変わらずアリスはアリスなのだと、ゼクスは思った。


 だから――俺はこう返すのがいい。


「うわぁ~、コイツありえねぇ! 守られてるだけじゃん!」

「違うでしょ! アンタは私の教育がぜんっぜん効いてないようね。いい? 聖女(マリア・ステラ)は、貴方たち騎士の補助をするの。分かる? ほ・じょ。私が倒れない限り、白光祈騎士団(ルミナス・クロイツ)に敗北は絶対ないわ。分かりましたか、ゼクシード・ヴァン・エルトロンくん?」


 腰に手を当てて、偉そうにふんぞり返るアリス。完全にいつも彼女に戻っていた。というよりも、『騎士教育』なる拷問の時と同様の先生風味になっている。

 思わず笑い合う二人。


「ははっ、分かりましたよ、アリスせーんせい」


 ゼクスは調子良く手を上げた。

 二人は心地良い風に当たり、少ししてから、長老の屋敷に戻っていった。そしてすでに話を終えたロイドが屋敷の入り口のところで待っており、本日泊まる部屋が与えられたことを教えられた。



ポイント評価ありがとうございます! 今さっき気づきました! 

これからもテンポ良く投稿していきたいと思っているので、どうぞ応援よろしくお願いいたします!

今回話はちょっぴりシリアスでしたが、次回話はかなりコメディ調です。宴会なんかしやっちゃってます。


ではでは~

ボウリングへ行って爪が欠けて痛くはないが、ショックなFranzより 引っ張って千切ったら、少し食い込んでしまった><

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ