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【小説版】勇者にはほしい才能がある  作者: 東龍ベコス
第1話・直行直帰の小説家志望
7/8

⑤足場・趣味・意地

「ギン君……浮いてる?」


 町人の一人が、光弾で出来た足場と共にゆっくり地上に降りてくるギンに訊いた。


「え? ……ちょっと維持するのがタルいですけど、単なる足場ですよ。コレ」


 ギンが、自慢げでも恥ずかしげもなく『好きな食べ物』を訊かれた程度の感覚で答える。


「足場……?」皆がざわつく。

「やっぱ凄いなぁ」

「光るモン出して、みょーんって伸ばしてピョーンでズドーンだもんなぁ」


 ギンは、ここでやっと「もしかして」と気が付いた。普通の人は『足場』なんて出せない事を。


 あの光弾は、そもそも『足場』としての魔法だった。幼少時のギンが、高い所にある本棚の本に手が届かない時に使うもの。あと、暗闇で本を読んだり捜し物をしたい時の、手元の灯りとして。


 割と頻繁に外で使っていたと思うが、そういえばギンは人見知りで基本的にぼっちで活動していたので、誰もその足場など見た事はなかった。


 で、その『足場魔法』を丸めて魔物にぶつけ出したのがいつだったか。気がついたらノリで出せて、気がついたら攻撃魔法にまで発展させていた。望まずとも、そういうところでギンは天才だった。本人的には、別に嬉しくはない。どうでもいい才能。


「ギン兄ちゃーん」


 魔物討伐を離れた所で見学していた町の子供が、自分の異質さに軽く傷心中のギンに近づいてきた。が、子供のおかげでその傷心は吹き飛んだ。


「借してもらった本、おもしろかったよ~」


 そう言いながら子供が手渡してきた本は、ギンがこの子に貸した『子供向けの冒険ファンタジー本』だった。登場人物たちが夜空を見上げている、そんな幻想的な表紙イラストの色彩が美しい。


「……だろぉ?」ギンが、ニカァと笑う。

 戦闘の達者な様子や抜群の運動神経を褒められたり言及されてもどうとも思わないが、本についての話ならギンは大歓迎であった。


「やっぱお前、その作家が好みだって。買えよ」

「貸してもらった三冊とも”当たり”だったもんなぁ、さすがギンにぃ……あ、そうだ」


 子供と目線を合わせるためにしゃがんだギンに、子供が笑う。


「今週も『ヘドロを喰らう』載ってなかったねぇ」


 ギンの笑顔がこわばる。執筆、魔物退治と忙しくて忘却していた、自身のもう一つのライフワーク。プライド。意地。


『ヘドロを喰らう』とは、本好きの町長が道楽として隔週で発行している町内会誌『マチマチヨミヨミ(略してマチヨミ)』……で、ギンが趣味で連載させていただいている小説である。


 ある日、格式高い聖騎士ペドロ様が何者かに襲われ、顔の皮膚を剥がされて路地裏に捨てられる。居場所も妻子も奪われ、スラム街の子供に拾われて生活するはめになる……ギンの書いた『ヘドロを喰らう』は、そんな復讐劇中心のハートフル作品(?)だったりする。


 とにかく、マチヨミは希望・推薦で一般の方が書いた記事やコラム・小説なども載せてくれる雑多な読み物で「読み応えがある」と好評を得ている。


『今日の畑の様子』『遺産相続の悲喜こもごも』『使って良かった格安武器ランキング』『魔物の弱点図鑑』など、毎週きちんと掲載させている律義な物もいるが、大半は飽きて連載をやめたりする。


 しょせん、趣味道楽で作られている冊子なのであまり参考にはされていないが、一応『読者アンケート』がマチヨミには付いている。その読者アンケートで『ヘドロを喰らう』は、まぁまぁの上位にいつも食い込んでいる。ギンの小説を楽しみにしている町人は、一定数いた。


「あんな卑屈なペドロさんの世話をするクレイちゃん、けなげだよねぇ」


 子供がギンの小説をニコニコと褒めるが、それよかギンは「趣味の連載すら滞っている体たらく、遅筆」の事実に酷く落ち込んだ。


 その事に対して「趣味でやってる方の小説なんて、そんな気合い入れて頑張らなくてもいいじゃない」と言われた事もある。


 が『気合い入れて頑張らなくてもいい趣味の小説』だからこそ、ギンはこの『ヘドロを喰らう』をちゃんと余裕で隔週連載させたかった、のだが。

 


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