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【小説版】勇者にはほしい才能がある  作者: 東龍ベコス
第1話・直行直帰の小説家志望
6/8

④空中光弾操作

 魔物の頭部の鋭いツノに体を一突きされたら、ひとたまりもないだろう。現に突進され、そのツノに脇腹をかすめられた冒険者がおびただしい出血をし、地面を赤く濡らしている。茂る森の緑の香りに、鉄臭が混じる。


「もうギン君は呼んじゃダメだって! ギン君は小説を書きたいんだから!」


 魔物の血と肉脂で汚れた鉄の剣を構えながら、ニコが皆に叫ぶ。細身なニコだが、これでも若い頃は魔物討伐の三軍でまぁまぁの活躍はした程の強さはあった。少なくとも、今周りにいる武装した町人ら・冒険者らよか場数は踏んでいた。


「若者の夢の邪魔をしちゃダメだろ?! なぁ、そうだろ?!」


 おぅ、いぇーい、とムサ苦しい気さくな合意の返事が飛ぶ。街の人らは若者──ギンはおろか、実はその父親のキンにもイノシシ退治やスズメバチの巣の駆除、道を塞ぐ岩石の除去などの力仕事を任せきっていたことが一時期あった。


 親子そろって笑顔で「いいよいいよ、やるよ」と朗らかに引き受けてくれるので、つい甘えて頼みすぎてしまう。キンの腰が悪いのは厳密に言えば、それら酷使のせいだけではないのだが、それでも「悪い事をした」とは皆思っていた。


 別にユルシャ親子に頼らずとも、時間をかければ一般人でも魔物の討伐は出来るといえば、出来るのだ。まぁ、怪我人が現に出ているが。時間もかかっているが。

 ……やはり、呼びたい。呼んで、楽をしたい衝動に皆は駆られる。


 しかし、さすがに一日四回も呼び出して執筆の邪魔をするのは、はばかられた。町の人々……特に、ユルシャ親子とは二十年来の付き合いだったりするニコは、もうギンを呼びたくない。

 

 友人であるキンの息子……の趣味嗜好、「文才がないしキャラブレするし表現力が弱いし」とベソかきながらも執筆したり、好きな作家の文体の模写練習をして表現描写力を鍛えようとしている姿を知っていた。


 が、ユルシャ親子は大概、規格外な事をする。父親同様、息子もである。


「──気にせず、呼んでくださいよぉおいっ!」


 ニコの後方にいた牛型のような魔物が、骨が砕け、肉が裂ける生々しい音と共に両断されて地に倒れる。


 そこには、今回は呼んでいないはずのギン・ユルシャ十六歳。何かを食べているのか、咀嚼している。ラフなシャツとズボンな格好なせいで、割と武具をしっかり装備している大人らがまるで滑稽に見えてしまう。


「おぉギン君、ギン君じゃん!」と、町人らが喜びつつも「おい、誰が呼んだんだよ?!」と申し訳なさそうに言い放つ者もいた。


「んん?! ギン君、何で?!」ニコもその一人である。


「魔物の気配を感じたので!!!!!」


 はっきり、そう返された。

 え? お前らの家からここまで、結構な距離なくない? あれ? そっから、気配だけを頼りに走ってきたの? あん? 


 ニコは多少パニクったが「まぁ、アレの息子だしな」とすぐ冷静に戻った。キンの息子なら、仕方ない。乱れた金髪オールバックを、手で撫でつけてため息をつく。


 忙しいのなら、来たくないのなら、聞こえない・気配など感じないフリをして無視すればいいものを、ユルシャ親子はどうしてこうも私事を放棄して駆けてきてくれるのか。


 さすが、『誘拐されて魔界に連れて行かれた一国の姫を、単身助けに行った無鉄砲豪傑の血筋』──勇者の家系、と。

 父親譲りのお人好しで、人様のためにまぁ東奔西走ってか……と、ニコは昔のキンの有様を思い出して──思わず、顔をしかめてしまった。


「悲しいかな、”こっち”の方は超才能があって朝飯前なんですから。こっち」


 朝飯前というか、夕食中だったろうに。若き助っ人の口元にアップルパイだかミートパイだかの、かすが付いている。夕食時に申し訳ない。


 ギンが大きい目で、辺りを見回す。魔物らがこちらの様子をうかがいながら、ジリジリと距離を詰めてきている。


 たくさんの人を避けながら細かい数の魔物を斬っていくの面倒くさいなぁ、と思ったギンは両手に魔力を込めて人の生首くらいの大きさの、白く輝く光弾を作った。周りの人らが「え、何それ?」と訝しんだが、ギンは気付かない。


 ギンはそれをピザ生地のように空中で軽く広げて、それに飛び乗ってそのまま宙に浮いた。光弾で作った足場、である。その上に立ちながら、再度同じ光弾を作り、それを上空から各魔物に向かって何十個も次々に放った。


 光弾が当たった魔物は高い炸裂音と共に爆発し、焼け焦げて散った。光弾は逃げようとする魔物も追い、容赦なく焼いた。辺りに強く、臭い焦げの匂いが漂う。


 ギンは放った光弾を操作しているらしく、高みから腕や指をあちらこちらに動かしていた。汗一つかかず、淡々と数々の光弾を操作し、魔物を追い、殲滅していた。稀に光弾が町人らに当たりそうになるが、ギリギリでそれらをかわし、弧をえがいて魔物にブチ当たる。


「(今、書いているエピソードの前にもう一つ『キャラの性格がわかるようなイベント』でも入れとくかな)」


 細かい精神統一が必要な事をしているように見えるが、むしろギンはアググ・リシュケ大賞に投稿する小説の『これから』を考えていた。


「(ちょっと冗長的になるかもだけど、まぁ審査員にガナイ・ナウ先生がいるんだから、それくらい許してくれそな気がする)」


『ナウ先生』とは、余計な描写を延々と長々と入れる事で有名な作家であった。ギンは、本編が霞むほどに余談を入れてくるその先生の小説が、好きだったりする。


 小説の展開などを考えながら、ギンは光弾を操作して次々に魔物を撃ち殺していく。先程もだったが、ギンは戦闘の方に意識と頭は使っていない。体が勝手になんとかしてくれるので、そちらに労力は回していない。


 ニコを含め、町人ら冒険者らは宙に浮くギンと、あんなに手こずっていたはずの魔物が殲滅されていく様を呆然と眺めた。

 

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