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道は分かたれた

「……結婚?」


彼の目がぱちくりと見開かれる。

考えてもいなかった、とでも言いたげな様子だ。


(いやー、彼女は……エリザベス王女殿下の方は、割と本気みたいですけど?)


何なら、このまま放っておけば国王陛下に言いつけて無理に婚約をどうにかしようとする勢いだ。温度差が、すごい。

王女殿下は本気で、こころからテール様を欲しているというのに、彼は全くそれに気がついていない。

あんな熱量のある想いを向けられていながら全く気がついていないのは、ある意味すごい。


私は、さらに彼に尋ねた。


「年下であることは一旦忘れてください」


そもそも、十も下というわけでもあるまいし。

前の世界なら二十一歳と十七歳という組み合わせは犯罪だが、この世界では至ってふつうだ。

そもそも、十個や二十個の年の差で婚約することだってざらにあるのだから。

どうしてそこまで、彼がエリザベス王女殿下を恋愛対象として見れないのかは分からないが、真剣に考えてもらわなければならない。


「エリザベス王女殿下をひとりの女性として見た時、どう思いますか?……もし、彼女と結婚する、となった時。テール様はどうしますか?」


「どう、って」


彼は困惑した様子を見せた。

ここにきて、ようやく私の話を真剣に聞き始めたようだ。

私は、責めの手を緩めなかった。


「あなたにとって、エリザベス王女殿下は大事な存在なのでしょう?」


私とのお茶会の約束もドタキャンし(エリザベス王女殿下の体調不良はそのほとんどが仮病だと踏んでいる)、夜会だって私を放置するくらいなんだからね!

私の言葉に、テール様は狼狽えたようだ。


「いや……でも、仕事だから」


「仕事、とおっしゃいましても。エリザベス王女殿下は、そうは思っていないようですよ?」


「……エレインもしつこいね。僕は、きみと結婚するんだ。それだけじゃ足りない?」


(……どうして!私のわがままみたいになってるのよー!!)


彼は、私と話す気なんてないのだ。

そもそも、彼は私の言葉をはなから信じていない。

まさかエリザベス王女殿下が自分を好きだとはまっ……たく思っていないのだ。

だから、私の言葉は私が嫉妬に駆られた末のものだと思っている。


(あほらし)


なんだか、真剣になっている私の方が馬鹿のようだ。一気に、肩の力が抜ける。

今日、彼の話を聞いてから判断しようと思っていた。

彼が少しでも真摯に話を聞いてくれたなら、私と向き合ってくれたなら──彼との未来も、有り得たかもしれなかった。


だけど、もう、これ以上頑張ろうとは思えない。

どうして私ひとりが頑張らなければならないのか。


下手に、前世の記憶なんてものを思い出してしまったためか、その理不尽を許容することは、今の私にはできなかった。


(前の私なら……涙を呑んで、我慢していたかもしれないけど)


貴族の娘である以上、下手に騒ぐわけにもいかない。何せ、相手は王家だ。

王家の姫相手に、戦いを挑めるはずがない。

引っ込み思案で内気な私は、お父様に相談することもできずに、エリザベス王女殿下の良いようにされていたことだろう。


テール様と、それ以上会話することを諦めた私は、背もたれに背を預けたままおもむろに顔を上げた。

東屋の天井の向こうに、青空が広がっている。

何となくそれを見つめていると、伺うような声で私の名が呼ばれた。


「……エレイン」


「何ですか?」


顔を上げたまま、ちらりと視線をテール様に向ける。彼は困ったものを見るような目で、私を見ていた。


「……今度、植物園に連れていくから」


機嫌を取るような声だった。

それにまた、いらっとする。

おおかた、私が拗ねて機嫌を損ねた、とでも思っているのだろう。

とことん、馬鹿にしている。

彼にとって所詮私は、未だに幼い少女のままなのだろう。

私は、ため息を噛み殺した。


「……楽しみにしてます」


本心とは、真逆の言葉を口にして。

それが果たされることは、ないというのに。


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