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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
一章:お幸せに、婚約者様。

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王女殿下との結婚、考えてください


彼は私を見ると、眉を寄せた。

不機嫌そうだ。

どちらかというと、不機嫌になりたいのは私の方だった。何回ドタキャンされ、何回お茶会を断られたと思っているんだ。


彼は面倒そうに、私の対面に腰掛けた。

そのまま、テーブルに頬杖をついてちらりと私を見る。涼し気な流し目だ。

流石、近衛一のプレイボーイと言われるだけある。無造作な仕草だというのに、意図したかのような色っぽさがある。

彼は、長い銀の髪を巻き込むようにして腕をついて私を見ていた。


「……で?」


で、とは。

反応を見せない私に焦れたのか、彼が心底面倒そうなため息を吐く。


「今日は何の用なの?あれだけしつこくしてきたんだから、何か用件があるんじゃないの?」


まさか、ないとは言わないよね?とでも言わんばかりの態度だ。

なければ婚約者を呼び出してはいけないのか。婚約者に顔を合わせる時間すら設けてくれないっていうのか。


……そんなに仕事が大好きですか!!


私は咳払いをすると、本題に入ることにした。

もともと、婚約者としての時間を持つために呼び出したのではない。


「王女殿下のことでお話があります」


王女殿下、という言葉に、彼の端正な眉がぴくりと反応した。

彼がなにか言おうと口を開くより先に、先手を打って私は言った。


「王女殿下に、あなたとの婚約を破棄しろと命じられました。殿下は、あなたと愛し合っているから……と。真実ですか?」


私の言葉に、テール様の顔が嫌そうに歪められていく。そして、ため息交じりに彼は乱暴に頭を掻いた。くしゃり、と銀の髪が乱される。


「あのさぁ……。殿下にも言われたんだけど。……きみ、彼女となにか揉めた?」


彼は、私の問いに答えなかった。

彼の言葉に、エリザベス王女殿下は宣言通りに彼に言ったのだろう。

テール様はとても面倒そうに私を見た。厄介事を見る目だ。


「きみは僕の婚約者なんだからさ、もっと王女殿下とも仲良くやって欲しいんだけど」


「…………」


私は、しばらく停止した。

そして、ようやく彼の言葉を理解する。


(は、はぁああ!?)


今、なんて言ったのこのひと!!

僕の婚約者だから、王女と仲良くしろ、ですって!?あなたが原因で、喧嘩売られてるんだけどこっちは!!


私はいらいらしてテール様を見た。

どうしてこの男はなにも分かっていないのだろう。

私が王女殿下に嫌味を言われるのは、彼女がテール様に想いを寄せているからだというのに。

私が彼の婚約者である以上、王女殿下とは仲良くなどできないのだろう。

苛立ちを隠さないまま、私は彼に素っ気なく言った。


「王女殿下があなたを好きである以上、それは無理だと思います」


「好きじゃないよ。あれは、憧れみたいなものでしょ」


テール様は決めつけたかのように言う。

その様子に、私はますます苛立った。


「どうしてそう言い切れるのですか?殿下にそう言われました?」


「……言われてないけど。でも、彼女の気持ちは年上の……従兄弟とか、年の離れた兄に向けるものに近いんじゃない?少なくとも僕は、彼女に恋情があるとは思えないけどなぁ」


何を持ってそう言い切れるのか。

彼女はあんなにも私を敵視しているというのに。


あれが、憧れなわけがない。

あれは完全なる嫉妬だ。


見ている私の方が灼かれてしまいそうな、激しい色の瞳。

あれが嫉妬でないなら何なんだ。

ガチ恋のブラコンでもあるまいし、憧れのひとの婚約者に向ける視線じゃないでしょう、あれ。


私は、王女殿下の気持ちに全く気づいていなさそうなテール様に呆れ果てていた。

近衛一のプレイボーイのくせに、本気でそんなことを思っているのか。

いや、テール様は軽薄そうな見た目とは裏腹に、女遊びは一切していない……はずだ。

少なくとも、私は彼のその手の噂を聞いたことがない。

それはつまり、彼の恋愛経験値が低いことを意味している。


(ま、まさかこのひと……本気で??)


え、本気で、本当の本心から、王女殿下は自分に恋してない、と思っているの?……マジで?

前世、よく使っていた言葉がうっかり飛び出してしまうほどに、私は困惑していた。


まさか、四歳年上の、大人びてかっこいいと思っていた婚約者がこんなにもアホ──もとい、ポンコツだったなんて。


私は頭が痛くなる思いだった。

絶句する私をよそに、テール様は弄ぶようにティーカップを持ち上げ、紅茶を口にしていた。

既に、話は終わりだと言わんばかりの空気を感じる。


だけど待って欲しい。

私はまだこの話を終わらせる気は無いし、そもそもまだ終わってないです。


「王女殿下は、本気ですよ。ほんとうに、あなたに恋をしているんです」


「だから、それが間違いなんだって。というか、きみ、それこそ彼女から聞いたの?本気で、僕に恋してる、って?」


「愛し合っている、と彼女は言ってましたわ」


「子供の、よくある強がりでしょ」


子供、ってねー!!

エリザベス王女殿下と私は、同い年なんだけど!?

私は怒りを噛み殺すために息を細く吐いた。

呼吸を整えてから、顔を上げる。

テール様は変わらず面倒そうに私を見ている。


良く、わかった。

彼は、私のことも、エリザベス王女殿下のことも、子供だと思っているのだ。

二十一歳から見たら、十七歳はたしかに子供に見えるのかもしれない。


だけど、私は一応あなたの婚約者なのだけど?

そして、いずれは夫婦となるのだ。

対等な関係でないと、やってはいけない。


私は真っ直ぐに彼を見つめて尋ねた。


「では、もし王女殿下があなたとの婚約を……結婚を望んだら、どうしますか?」


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