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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
三章:寓話の相違

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ハリボテでも(バレなければ)いいのよ

「遅かったですね。ですが、ここに来た……ということは、心が決まったのでしょうか?」


洞窟の奥には、やはりNPCのごとく──(というか、ずっとここに立っていたのかしら)ジェームズ・グレイスリーが私たちを待っていた。


「そりゃあもちろん。賢者になれる、なんて夢のような話ですしね。国民の憧れですよ、賢者は」


軽い調子で答えるファーレに、気を良くしたのかジェームズ・グレイスリーが朗らかに笑う。


「ふふふ、そうでしょう。しかし、そちらの女性──あなたは、とても珍しいですね」


ジェームズ・グレイスリーに呼びかけられた私は、それに首を傾げた。彼は、魔法で手元に灯りを灯すと、先導するように先を歩き始めた。ジェームズ・グレイスリーの後を、ファーレが続く。


「珍しいとは?」


「魔力が全くない、ということです。普通、魔力が不足していると魔力欠乏症という病にかかります」


「…………魔力欠乏症?」


ちら、とファーレをに視線を向けると、彼は表情を変えなかった。ということは、ファーレはその単語を知っていたということになる。

聞き返した私の言葉に返答したのは、ジェームズ・グレイスリーだ。


「ご存知ありませんか。隣国アルヴェールでは近年、生存すら危うい魔力量を魔力欠乏症と呼びます。アルヴェールでは密かに社会問題となるほどだとか。アーロアでは、あまり聞きませんがね」


「…………」


生存すら危ういほどの魔力量──。


そう言われて思い出すのは、王女殿下、つまりエリザベス王女だ。彼女は生まれつき、体が弱い。魔力量がとても少なく、生きることすら危ういと言われている程。


……アーロアではあまり聞かない話だ。

だからこそ、王女殿下の治療は進まない。苦肉の策で、必要以上に魔力を消費しないよう彼女は城で休んでいることが多いのだとか。


私はぽつりと、ジェームズ・グレイスリーに尋ねた。


「治療法はないのですか?」


「ありますよ。だから、私がいるのです」


その言葉に違和感を覚えた私は眉を寄せ、さらにジェームズ・グレイスリーに尋ねる。


「ではなぜ、王女殿下の治療に携わらないのです?」


素朴な疑問だった。それに、ジェームズ・グレイスリーがおや、という顔をする。


「なぜ、ご存知なのですか?王女殿下が魔力欠乏症だと」


エッ。

思わず私は硬直した。


「…………」


アッ。次の瞬間、私は自身のミスを悟った。

ファーレから白い視線を向けられるのがわかった。


(バッ、バカ~~~~!!)


そうか。そうよね……!!


王女殿下の魔力不足については大々的には知られていないのよね!!

知っているのは社交界に出入りする──貴族か、それに準ずる立場の人間のみ……!!


(あら?それならどうして、テオは──)


『アーロア国の王女様。第五王女……だったか?彼女は体が弱い。彼女は、過去類に見ないほどの虚弱体質らしいね。それも、生存に足る魔力すら不足しているとか』


(……どうして、知っていたの?)


ふと、疑問が浮かんだが、それより今だ。


絶賛ピンチである。

私は焦った、焦ったけれどここで慌てるのは余計状況を悪くする。

それを察するだけの余裕はあったので、私は毅然と言った。


こういうのは堂々としたもん勝ちである。

ハリボテでもいいのよ。それらしく見えれば。


「へえ!本当に、王女殿下は魔力不足──あなたの言葉を借りれば、魔力欠乏症、というものなのですね?」


つまり、今の発言こそカマかけである、というポーズである。背筋を伸ばして言うと、嵌められたと思った……らしい、ジェームズ・グレイスリーが顔をしかめる。


こんな時だけど、初めてジェームズ・グレイスリーの表情が崩れた。


「…………」


「それで?お答えをいただいておりませんわ。あなたはなぜ、王女殿下の治療に当たらないのです?あなたは、貴族なのでしょう?王女殿下を治す手段がありながらそうしないというのは、王家への不敬にあたるのではなくて?」


「あなたは……」


ジェームズ・グレイスリーは思案するように視線を下げた。だけどすぐに、ハッ、と何かに気がついたように顔を上げる。

まじまじと、彼が私を見つめる。


(何……?)


訝しく思っていると、ジェームズ・グレイスリーがぽつりと言った。


「金の髪……緑の瞳……」


ハッとするのは、今度は私の方だった。


(今の私は、元の髪色。そしてジェームズ・グレイスリーは伯爵……!!)


しまった。やはり、ジェームズ・グレイスリーと顔を合わせたのは失敗だった……!


彼は間違いなく、王家の手配書──エレイン・ファルナーの肖像画を見ている。金髪に緑の瞳というのはこのアーロアにおいてそう珍しい配色ではない。


ない、けれど──。


ジェームズ・グレイスリーに気付かれないようにしながらも、ごくりと息を呑む。


彼は皿のように目を細め私を見つめた後、言った。


「あなたは……もしや、エレイン・ファルナー」

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