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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
二章:賢者食い

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テオとアレクサンダー②

「…………」


アレクサンダーは答えなかった。

ただ、笑みを保った【光の王子】の姿を保ったまま、微動だにせず固まっている。


エレイン嬢が、魔法を行使してアレクサンダーから逃げた。

クマの大群には、獰猛なヒグマも数多くいた。優秀な護衛が退路を確保し、アレクサンダー自身、魔法を使えるので大事には至らなかったが、なかなか攻撃的な手だった。若干殺意を感じたと言っても過言ではない。


逃げるだけなら、あのエレインだ。

転移魔法など使えばすぐだろう。それをあえて、クマを呼び寄せるという対応を取ってきたのだから──彼に悪感情を抱いていると考えるべき。


固まったアレクサンダーに、アデルがなんだか、可哀想なものを見る目を向けてきた。困ったように頬に手など当てている。


アレクサンダーは、まさか自分が嫌われる可能性がある、など思っていなかったのだろう。

特に、女性相手には。

好かれることはあれど、その反対など、彼には経験がない。

【光の王子】に好意、羨望、情景の眼差しを向ける女性は数多くいるが、無関心はあれど嫌悪されることは今まで一度もなかったのだ。

それは彼の王族という肩書きに加え、彼の端正な容姿も手伝ってのことだろう。


そもそも、彼とエレインは面識こそあれど挨拶以外の会話をしたことないほど希薄な関係だ。嫌う以前の問題である。


「……エレイン嬢は、男の趣味がおかしい……?」


「おかしいのは殿下の頭の方かと……」


恐縮するようにアデルが言う。

しかし言葉の殺傷力は強い。

アデルの言葉にまたしばらく沈黙していたアレクサンダーだが、やがて深くため息を吐いた。


「え、なんで?僕、何かしたかな。そもそも何かした、というほど関わった覚えないんだけど」


「冗談はさておき、連れ戻されると思ったなら、多少過激な手を取っても不思議ではないでしょう。何の関わりもないのなら、好きだの嫌いだの以前に、殿下のこと何も知らないのですから。……ですが、不思議ですね」


頬に当てていた指を顎に移動させて、アデルが顔を上げる。ちら、と彼女はアレクサンダーを見た。


「魔力探知機は正常に発動しているのに、エレイン嬢の魔力反応を探知しなかった……。機械が故障しているのでしょうか?」


「…………魔術研究所に差し戻すか」


「んー……あそこの人間がいい加減な仕事をするとは思いませんけど……そうした方がいいかもしれませんね。手配しておきますか?」


アレクサンダーが頷くと、アデルはそれで腰を上げた。

彼女ははもともとこの件の進捗を尋ねるために部屋を訪れたのだ。それを無感情に見つめていたアレクサンダーだが、不意に彼は彼女を呼び止めた。


「アデル」


「はい?」


「僕とお前の婚約について、だけど」


「ああ、はい」


すぐに話の内容を理解したようにアデルが頷いた。


「どうします?」


「……トリアム侯爵家とファルナー伯爵家の婚約が破棄されたタイミングで、僕らの婚約も解消されたことを社交界に周知する。トリアムとファルナーの婚約解消がエリザベス主動のもので、その責任を取るためだ、と言えば奴らも納得するだろ」


「…………」


アデルは少し考え込んだようだったが、やがて頷いて答えた。


「少し乱暴ですが、今はそれが最善ですね。分かりました」


「どちらにせよ、そろそろ時期だとは思ってたんだ」


「それは……確かに、そうかもしれませんけど。私はいつでも構いませんわ。もとよりこの命、殿下に捧げると決めましたので」


アデルの言葉に、アレクサンダーが苦笑する。そのまま疲れたように溜息を吐いた。


「果報者だな、僕は。……ありがとう、アデル。僕も、きみの幸福を願っている」


滅多にないアレクサンダーの他者を思いやる言葉に、彼のほんとうの性格を熟知しているアデルはあからさまに顔をしかめる。まるで、腐ったものでも食べたかのような顔だ。


「……何かな、その顔」


「いえ……殿下がそんなことを言うなんて、明日は雪でも降るのではないかと……」


「お前は相変わらず失礼だな……。だいたい、もう秋だ。雪くらいいつ降ってもおかしくない──」


そこまで言って、アレクサンダーがなにかに気がついたようにまつ毛をはね上げさせた。そして、彼は勢いよくソファから腰をあげる。その勢いの良さに、アデルが驚いた様子を見せた。


「そう……そうか。そうだよ、アデル。僕は今いいことを思いついた」


「殿下のいいことは、そのほとんどが悪事だと思いますが……何です?」


「彼女を捕まえる方法だ。アーロアはもうじき秋が深まり、いつ雪が降ってもおかしくない。王都はともかくとして、辺境の地では積雪量もばかにならない」


「うん?」


アデルがこてり、と首を傾げる。

無意識の仕草だったが、長年王子の婚約者を務めることで、淑女らしい振る舞いが身についたのだ。アレクサンダーはアデルを見ると僅かに口端を持ち上げた。


「アデル、父上との謁見の手配をしろ。国境を封鎖するぞ」


「え?いや、でも……エレイン嬢のことですから、国境の関所を使わずとも転移魔法で」


「それだよ。転移魔法を使えばすぐなのに、なぜ彼女は魔法を使わない?魔力探知機の存在に気がついている?その可能性ももちろんあるが……もしかしたら、彼女は今、魔法を使えないんじゃないか?」

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― 新着の感想 ―
なんというか……キモいなぁ、ネチネチしててしつこいのに本心は隠して迫ろうとしてるのがキモいなぁ。 イビってくる王女、娘可愛さに娘の命握ってる令嬢を虐げる王女を諌めない王、信用ならない親と婚約者と帰りた…
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