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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
二章:賢者食い

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第二王子の憂鬱②

バルコニーに向かうと、エリザベス、テールのほかにひとりの女性がいた。

見覚えがある。


(あれは確か──)


娘は、金の髪をしている。

光を編んだような金髪は目立つが、目を惹くのはそれだけだ。

顔のパーツは全体的に小造りで、近くで見れば可愛いのだろうが、遠目から見ると正直パッとしない。

それに無表情だからか、人形のような無気力さを感じた。

覇気がないというか、生命力を感じない、というか。

とにかく、地味で目立たない令嬢だ。


少し考え込んだアレクサンダーは、ややあってから彼女の名前を思い出した。


(ああ、彼女はファルナー伯爵家の娘か)


そういえば、テールの婚約者でもあったな、と併せて記憶を引っ張り出してくる。

エリザベスがテールを引き連れていそいそ向かった先は、テールの婚約者の元だったのだ。我が妹ながら、底意地が悪いというか、性格が悪い。


エリザベスは、テールに飲み物を持ってくるよう言いつけると──いや、ねだると、彼をその場から追い出した。


わずかに、ファルナー伯爵の娘の顔が固くなる。

エリザベスの目的を察したのだろう。


そして、案の定エリザベスはファルナー伯爵の娘……確か、エレインとか言っただろうか。

彼女を口撃し始めた。


「どうして未だに彼の婚約者なの?」


棘のある妹の声が聞こえてくる。


(さーて、どうしようかな……)


自分が割って入って仲裁するべきか。

アレクサンダーはほんの一瞬迷ったが、即座に却下した。

こういう女同士の揉め事は、男が下手に介入すると余計に拗れるのだ。


それにあのエリザベスのことだ。アレクサンダーが、エレインを庇うような発言をすれば、恋愛脳の妹はすぐに、自分が彼女を好いていると勘違いすることだろう。

あの勘違い女の暴走を舐めてはいけない。


妹の暴走は、他人を巻き込む。

国王を味方につけて、なにかと自分の望むように物事を運ばせるのだ。


歳を取ってからの娘だからか、あるいはエリザベスが生まれつき体が弱かったからか。

それとも、未婚の娘がもうエリザベスしか残っていないからか。


もしかしたらその全てが正解なのかもしれない。

とにかく王はエリザベスに甘かった。

猫可愛がりという言葉がまさに正しく、エリザベスがやることなすこと全てを王は肯定した。

結果、あんな自己肯定感の塊みたいな生き物が生まれたのだ。


アレクサンダーは、絡まれるエレインを哀れに思ったが、だからといって積極的に揉め事に関わりたいとも思わなかった。

彼は、バルコニーの柱の影に背を預けていて、エリザベス、エレインは彼に気がついていない。

存在に気づかれていない以上、このまま空気に徹することにしよう。


(さすがに暴力とかは止めるけどさぁ……。まさかエリザベスも、夜会の途中に暴走したりはしないだろ)


エリザベスは、少しでも思い通りにならないと癇癪を起こし、ものを投げたり手を上げたりする。しかし、彼女の思う通りにならない、ということが滅多にないので、エリザベスの短気さはあまり知られていない。


ちら、とアレクサンダーは会話するエリザベスとエレインを見た。

エリザベスは嬉々としてエレインを口撃しており、エレインはそれを️黙って聞いていた。


相手が王族とはいえ、黙っていないで少しは言い返せばいいものを、とアレクサンダーは他人事に思ったが、エレインはぴっちりとくちびるを引き結んだまま。


彼女が言われっぱなしだからこそ、エリザベスも図に乗るのだろう。

何を言っても、この女は言い返してこないと舐めているのだ。


(テールが戻ってくれば収まるだろ)


それまでアレクサンダーも柱の影に隠れ、父親の言いつけ通り、場を見守る役に徹しよう。

そう思い、視線を彼女たちから離し、夜空でも見ようかと思った、その時。


不意に、エレインが手に持っていたグラスをひっくり返した。


ぱしゃ、という軽い音が聞こえる。

エリザベスが驚いたように目を見開き、つらつらと並べていた嫌味も止まる。いや、止めざるを得ないだろう。


なぜなら──エレインは、自分のドレスに、ワインをぶっかけたのだから。


意外な展開に、アレクサンダーも彼女たちに視線を向ける。


エレインは、やはり無表情だった。

言われっぱなしで、悪口に耐えるように黙り込んでいた時とは違い、薄ら寒さを感じる。

自らドレスにワインをかけるなど、ふつうはしない行動だ。


想像もしていなかった行動に、アレクサンダーは意表を突かれた。

エリザベスも呆気にとられているようだ。


静まり返ったバルコニーの中、エレインが静かに言った。


「ドレスが汚れてしまいました。失礼します」


淡々と話し、エレインはさっさとその場を後にしてしまったのだ。

残されたのは、呆然としているエリザベスだけ。


それを見ていたアレクサンダーは、笑いを殺すことができなかった。


「ふっ……くっ、くく……。く、はは、あはははは!」


大声を上げて笑う男の声に、エリザベスがギョッとしてこちらを見た。


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