表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/59

その頃、アーロア国③

「やぁ。実は僕もさっき、父上に呼び出されたんだよね。……きみにも関係することなんだね?」


この先にあるのは、謁見の間だけだ。

今しがた、テールは謁見の間から出てきた。

必然、王の話はテールに関するものだとアレクサンダーは察したのだろう。


アレクサンダーは、柔和な印象を覚える王子だが、テールはそんな彼を胡散臭い、と思っていた。


恐れられる第一王子と反対に、アレクサンダーは人好きする、柔和な雰囲気を持つ人物だった。

その見目麗しい容姿もあり【王家の華】と社交界で呼ばれている。


月の姫君と呼ばれるエリザベスと、光の王子と呼ばれるアレクサンダー。

両方揃えば華やかさが約束されること間違いなしだ。

しかし、ふたりが揃うことはあまりなかった。


なぜなら、アレクサンダーの婚約者、アデルとエリザベスの折り合いが悪いからだ。

エリザベスは、アデルが気に入らないようで彼女を近寄らせなかった。

自然と、アデルと一緒に行動することの多いアレクサンダーとも顔を合わせる機会は減る。


アデルは、表面上はエリザベスを敬ってみせるが、その目の奥が笑っていない……とテールもエリザベスと同じことを考えていた。

アデルが、エリザベスと同じ銀の髪を持っていることも、彼女の気分を害する理由のひとつかもしれなかった。


アレクサンダーは、婚約者とエリザベスの不仲を知っていて放置している。

何を考えているのか、まったくわからない。

テールは彼に、腹の読めない男、という印象を抱いていた。


仕える王族に『胡散臭い』と思うなど、とんでもない非礼だ。

しかし、本能的な感覚なのでこればかりはどうしようもない。


王の話をテールがする前に、アレクサンダーが言った。


「つまり、ファルナー伯爵家の令嬢についての話だ。違う?」


答える前に当てられて、テールは軽く目を見開く。その反応に、アレクサンダーが笑った。


「当たりか。じゃあ、おおかた、きみとエレイン嬢の婚約が解消されるのかな。それで、僕と組ませようって考えなのかな、父上は」


どこか楽しそうに話すアレクサンダーに、テールはきつく拳を握った。

ぎりぎりと指の先が白くなるほど拳を握り、彼が絞り出したような低い声で答えた。


「……婚約は解消されていません」


「ふぅん?まあいいよ。エリザベスときみのことなんて、僕はどうでもいいし」


こういうところだ。

柔和で優しげな印象に誤魔化されてしまいがちだが、彼はこうした冷めたところがある。

見るからに冷たそうな──例えば、第一王子のような人間より、一見優男に見えるこの手の男の方がよほど食えない。


「後は妹と父から話を聞くからいいよ。じゃあね」


それだけ言うと、アレクサンダーは回廊の先──謁見の間に消えていった。




アレクサンダーが謁見の間に入室すると、途端、女の怒鳴り声が聞こえてきた。


「どうして!どうしてよ!!なんで、お父様はそんなにあの女のことを構うの!?あんな女、いてもいなくてもいいじゃない!たかが魔力が多いってだけでしょう!?」


地団駄を踏まんばかりに怒りを見せるのは、アレクサンダーの実妹でもある、エリザベスだ。

入室してすぐの怒声に、アレクサンダーの薄水色の瞳がすっと冷える。

エリザベスと話している王は、娘の怒りに手を焼いているようだ。


「ベス、あまり興奮してはいけないよ。また熱が出る」


「今はそんなもの、どうでもいいのよ!!」


アレクサンダーは、そんなふたりのやり取りを見ていたが、やがて静かに王に声をかけた。


「父上、お呼びと聞きましたが」


反応したのは、王ではなくエリザベスだ。

パッとアレクサンダーを振り向いた彼女は見るからに目を輝かせている。

そして飛びつかんばかりにアレクサンダーのもとに駆けてきた。


「お兄様、待ってたのよ!ねえ、お兄様。エレインと婚約してあげて?」


「……エレイン?エレイン・ファルナー?」


わざとらしく、彼はフルネームをあげた。

エリザベスがくちびるを尖らせて彼を見た。


「そうよ。それしかないに決まってるでしょ?ね、エレインはテールと婚約破棄するの。でも、エレインは王国に残さなきゃならないのでしょ?だから、お兄様がもらってあげて?妾でも第二夫人でも、お兄様の好きなようにしていいから!」


エリザベスの怒涛の言葉を、アレクサンダーは冷めた顔で聞き流した。

そしてちらり、と父である国王に視線を向ける。

愛娘の暴走に、父王は、困りきった顔をしている。


「……と、エリザベスは言っていますが。父上、ファルナー伯爵家はなんと?そもそも、エレイン・ファルナーとテール・トリアムの婚約は既に解消されているのですか?」


「だから……!」


なおも言い募ろうとするエリザベスに、アレクサンダーは短く言った。


「僕は今、父上に聞いている。お前は黙っていなさい」


ぴしゃりと咎められたエリザベスは、明らかに不服そうに頬を膨らませた。

真綿で包むように育てられたエリザベスは、叱責されることに慣れていない。

エリザベスは、兄が苦手だ。

ほかの人間はエリザベスに気を遣い、配慮するのに、兄たちはそうしない。

抗議するように見てくるエリザベスを無視して、アレクサンダーは父王に見やった。

国王は、顎に手を当て、髭を撫でつけるようにしながら考える素振りを見せた。


「……ファルナー伯爵家は、王家の意向に従うと連絡があった。もとはといえば、令嬢が逃げ出さなければ済んだ話だからな。トリアム侯爵家については、協議中だ」


「協議中って何!お父様!」


エリザベスが声を高くして批判する。

それに、父王はますます弱った顔をした。


「黙っていなさいという言葉が聞こえなかった?」


アレクサンダーに睨まれて、エリザベスが押し黙る。

ふい、と視線をふたたび父王に向けてアレクサンダーが切り出した。


「父上がエレイン・ファルナーとテール・トリアムの婚約を解消してくださるなら、僕は彼女を妻にしますよ」


「なんだ、気に入ってるのか?」


父王が探るように視線を向けてくる。

それに、アレクサンダーは肩を竦めて答えた。


「彼女を妻にするのなら、アデルとは婚約を解消します」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  婚約解消じゃなく、破棄ってどちらかに非があったということ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ