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そんな、コントのような。

ぱちぱち、となにかが弾ける音がする。

その音につられて、私は目を覚ました。


「うーん……?」


私、どうしたんだっけ……。

なぜか意識を失っていた私は、ゆっくりと記憶を辿っていく。

そして、ハッと気がついた。


(そうだ!私、滝つぼのすぐ近くで、なにかが頭に当たって……当たって……)


ていうかあれ、丸太だった??

なんか、木材みたいなのがチラッと見えたけど。

丸太が滝つぼに降ってくるって何事?

これってよくあることなの?


そんなことを考えながら、いや、今考えるべきことはそれではない、と思い直す。


私は、慌てて体を起こそうと手をついた。

視界に入るのは、一面の木々。

すっかり陽は落ちていて、あたりは真っ暗だ。

ここは、林の中……?

どこを見ても木々しかない。

手のひらには、ざらついた土の感触があった。視線を下ろす。どうやら私は、地面に寝かされていたようだ。

ずる、と布が落ちる音がする。それで、私は肩になにか掛けられていることを知った。


(なにこれ?マント?)


色の濃いそれは、夜闇でははっきりしないが紺色に見えたが、緑か青かまでは判別がつかない。

マントを照らす光源に気がついて、私は視線をそちらに向けた。

ぱち、ぱちという音は、焚き火の音だった。

木が燃える音だったのか……。


未だ状況が追いつかず呆然としていると、サク、サク、と葉を踏む音が聞こえてきた。


「っ……!」


息を呑んでそちらを振り向く。

バッ、と勢いよく振り向いたせいか、そのひとは私に驚いたようだった。


「っくりしたぁ……」


姿を現したのは、テール様ではなかった。

それにホッと息を吐く。

だけどまだ、気を抜くわけにはいかない。

暗いので分からないが、男性は薄い色合いの髪をしいるようだった。

言葉通り驚いているようで、目を見開いている。

どこか猫を思わせる瞳に、短い髪。

ぴょんぴよんと跳ねる髪は癖毛だろうか。


(ど……独特な雰囲気があるひとだなぁ……)


私は、まじまじと彼を見つめてしまった。

男のひとは、私が目を覚ましていると知ると、私の前に屈んでみせた。覗き込むように首を傾げながら、私を見てくる。

焚き火の明かりが届いて、彼の髪の色を知る。

赤い光に照らされているから断言は出来ないが、彼は白い髪をしているようだった。

首を傾げた拍子に、彼の長めな襟足がさらりと揺れる。それで、短髪なのではなく襟足が長いのだと知った。


「アンタ、この近くの川岸に流れ着いてたんだよ。日も暮れてきたし、このまま放置したら死んじゃうかなーと思って連れてきたんだけど。……それで良かった?」


男のひとは、少し高めな声でそう言った。

よく見ると、左目の端にホクロがある。

どこか中性的、というか不思議な空気のあるひとだった。


「あ……ありがとうございます」


丸太が頭に直撃した私は気を失い、恐らくそのまま川に流されたのだろう。


(やっ……ば)


滝つぼに落ちるよりよっぽどまずい。

というかよく生きてたな私!

自分の悪運の強さに感謝だ。

これで一生分の運を使い切った気がする……。

ひとり深く息を吐いていると、未だ私の前に屈んだ状態のまま、男性が言った。


「それはいいんだけどさ。下着、見えてるよ」


あっさりと指摘された言葉に、私は文字通り固まった。

そして、バッと勢いよく自身を見下ろす。


(しっ……)


下着ーーーー!!

私!シュミーズとドロワーズ!だけ!!

何で!?


動揺しつつ、肩からずり落ちていたマントをしっかりと首まで持ち上げる。

淑女が下着だけとか有り得ないし、それを異性に見られたなど、卒倒ものだ。


(いや、私はもう、貴族ではないのだけど!!)


それで物心ついてからずっとそう教育を受けてきたのだ。

私は羞恥とも動揺とも言えない衝動に震えていた。

知らずのうちに責めるような目付きを向けてしまっていたのか、男性が困ったように眉を寄せた。

まるで、責められるのは納得いかない、と言わんばかりに。


「全身濡れ鼠だったんだよ、アンタ。ほんとうなら服全部引っペがした方がいいんだろうけど、流石にそれは悪いかな、と思って下着(それ)だけ残したんだけど」


「そっ……それはありがとうございます!でも服を乾かすとか、他にやりようがあったんじゃないでしょうか!?」


動揺のあまり、上司に物申す部下のような口調になりながら私は抗議した。

それに、男性があからさまにめんどうそうな顔をした。


このひと、めんどうだって思ってる!

間違いない!!


男のひとはそのまま膝に手をついてものぐさそうに立ち上がった。


「オレ、細かい調整をする魔法大嫌いなんだよ。下手したらアンタごと蒸発する」


「それは……!」


嫌だ!!嫌すぎる!!

助けてもらった手前、それ以上抗議することもできず、私はスゴスゴ引き下がった。

そんな私をじっと見下ろして、男性は言う。


「それで、アンタさぁ、どうしてあんなところで流れてたの?」


まるで、私が好き好んで流れていたように言わないで欲しい。

こちとら気を失っていたのだ。

助けてもらった恩人だし、と私は重たい口を開いて端的に事実を述べた。


「泳いでいたら頭に丸太が降ってきて……」


「え、そんな冗談みたいな話ある?」


男性がそんな馬鹿な、と言わんばかりに軽く笑った。


「……それが、あるんですよ!」


実際私の頭には丸太が降ってきたんだもの!

私の言葉に、男性は信じていないのか「ふーん」と懐疑的だ。……ほんとうなのに!!


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