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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
三章:寓話の相違

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寓話の相違/その理由

「そういえば言ってたね。何?」


問われて、私は予め考えていた言葉を口にする。

食事中から何度もシュミレーションしていたおかげで、すらすら言葉が出る。


「私は、テオに出会って救われたわ。テオに会ってなかったら、恐らく、私は死んでいた可能性が高いと思うの」


凍死か、クマに喰われていたか。

あるいは、アーロア王家に見つかって連れ戻されていたかもしれない。

どちらにせよ、テオに出会えていなかったら、そこで私の第二の人生は終了していた可能性が高い。


「私は、すごくテオに感謝してる。ほんとうに、ありがとう」


「……ただのぐうぜんだよ。死にそうなひとが目の前に倒れていたら、ほとんどの人間は同じ行動に出ると思うよ」


確かにそうかもしれない。だけど、それだけじゃない。そう思ったから、私は首を横に振った。慣れ親しんだ金髪が視界に揺れる。


「ううん。だって、テオはその後私の問題に巻き込まれてくれた。その後、いくらでもお別れすることが出来たのに、テオはずっと一緒にいてくれたでしょう?」


「あなたは何が言いたいのかな」


テオは困ったような、要領を得ない話を延々とされたひとみたいな、そんな顔になった。


(確かにどう聞いても前置きみたいな話だものね……!!実際前置きなのだけど)


でも、ちょっと、いやかなり。

この言葉を口にするのは、勇気が必要だった。だから私は、さりげなく何度も手を握ったり開いたり繰り返しながら、声を絞り出した。


「つまり、だから……だからね」


ぐるぐる考えれば考えるほど、きっとこれはドツボにハマる。ええい、ままよ!!私は勢いに任せて、言葉を音にした。


「今度は、私を、テオの人生に巻き込んで欲しい」


言わなければならない、と思った。

口にしなければ、気持ちは伝わらないから。

思っているだけでは、相手に伝わらないのだから。

私はテオにほんとうに感謝している。だからここで、臆して、この気持ちを誤魔化してはいけないと思った。


「──」


テオが、驚いたように目を見開く。私は、もはや思考すらることは捨てて、思ったことをそのまま口にした。正気に戻っては、本音を話せないと思ったからだ。


「私に何ができるかはわからない。だけど、賢者の力を取り戻して……つまり、魔法さえまた使えるようになれば、きっとテオの役に立つ。ううん、必ず役に立つわ。だから、だからね」


どうしよう。だめだ。思ったことをそのまま口にするんじゃ、適切な言葉が見つからない。私はぐるぐると悩んだ末、思いついた言葉を口にする。言葉を尽くす。わかって欲しいから。知って欲しいと思ったから。


「私を、部外者ではなく、当事者にして」


私も、テオと同じように、彼の目的のために動きたい。

そうすることが、彼への恩返しだと思うから。


(ううん。私が、そうしたいだけだ)


私が、テオのためにそうしたいと思っているだけ。さらに口を開こうとすると、その前にテオが手のひらを前に突き出した。待って、ということらしい。


「エレイン。あなたさ、今、すごいことを言っている自覚ある?」


それに、私も半ば焦りながら言い募った。


「わ、私だって!生半可な気持ちで言ってるわけじゃないのよ!相当の覚悟があって言っているの!」


また考えなしだと思われたらたまらない。私だってそう簡単に、こんなすごいことは口にしない。


「…………あー」


テオは唸り声をあげると、片手で顔を覆う。

もしかして、引かれただろうか。


あなたの人生に巻き込まれたい、だなんて押し付けがましかったかしら……!?

確かに私は私の感情を優先しすぎた。その自覚はあったので、慌てていると、テオが手を下げた。

隠していた目元が露わになって、私はびっくりした。


「テオ」


「なに」


「……もしかして、照れてる?」


私の言葉に、テオは一瞬言葉に詰まったようだった。

だけど──テオの目元は、隠しようがないほどに、赤い。見れば、耳も朱色に染まっていた。

テオは、肌が白いからその色はよく目立った。

びっくりして目を瞬く私に、テオがふたたび口元を手で覆う。そのまま、テオはまつ毛を伏せて言う。


「そりゃあ、あんなこと言われたら誰だって驚くよ」


「そ、そうかな。そうかも?」


「…………」


沈黙が広がって、気まずい私は、言葉を探した。


(もしかして、テオは──)


困っている、のだろうか。押し付けがましい恩返しは、ただの余計なお世話だ。


「…………えーと、テオは、その……嫌?」


私はテオを真っ直ぐに見つめると、眉を下げた。


「嫌なら、無理にとは言わないわ。他のやり方で、私はテオに恩返しするから」


そこで、テオが口元を覆っていた手を外した。未だに少し、目尻は朱色に染まっているが、先程よりは薄らいでいる。

テオが静かな声で尋ねた。


「他のやり方って?」


「う、うーん。まだ思いつかないけど……まずは魔法を使えるようになって、そしたらテオに気付かれないよう陰ながら役に立つ、とか?」


あれ、今とあまり変わらない気がする。困惑していると、テオがため息を吐いた。


「……それなら、エレインはオレの目につくところにいて」


「え?」


「そうしたら、オレも安心してあなたを頼ることが出来る」


「!!」


それって、つまり。YES(そういうこと)……よね!?あからさまに目を輝かせる私に、テオが苦笑した。


「……嬉しそうな顔。ほんと、分かりやすいよね。エレインって」


「わ、分かりやすい、かしら!?そうかな……」


身分を捨てて、感情を隠すことはしなくなった。思ったこと、感じたことを、そのまま口にするようになった。建前ではなく、本音で話すようになったからだろうか。

前と今。何が変わったか、と聞かれたらやっぱり、私の気持ちの持ちようだと思う。今の私は、平民としての意識が強い。

考え込んでいると、テオが困ったように笑って言った。


「……それじゃあ、まずはあなたの魔力がどうやったら回復するか。それを考えようか」


テオの言葉に「はい」と、答えようとしたところで。


部屋の扉が大きくノックされた。


──ドンドンドン!!


何とも、穏やかではないノック音だ。王城とは思えない荒い物音に、私とテオは思わず顔をそ見合せた。

そして、テオが誰何するより先に、訪問者が口を開く。


「こちらにロイ殿下はいらっしゃいますか……!?ロイ殿下。私です、ヘレーネです!!」


女性の声だ。ヘレーネ、という女性に私は心当たりがないけれど──テオに視線を向けると、テオは難しい顔をして、席を立った。


「いるよ。なにがあった?」


テオはそのまま扉まで向かい、扉を開けた。

そこには、私と年齢が近そうな女性が立っていた。服装からして、メイドのようだ。彼女はテオを見るとホッとした様子を見せ、それからすぐに身を強ばらせた。硬い声で、彼女が言った。


「ご報告です。──国王陛下が、先程、毒を盛られ倒れました」


「──」

「……は?」


目を見開く。テオは唖然としているようだった。混乱しているのは、私とテオだけではないようだ。メイド──ヘレーネも、緊張味を帯びた顔で話を続けた。


「食後の紅茶に毒が混入していたとのことです。現在、陛下の意識は朦朧としており、侍医の話によると、今夜が峠と──」


「っ……!!」


その言葉を聞いた瞬間、テオを取り巻く空気が一変した。

彼はヘレーネの話を最後まで聞く前に、彼女を退けるようにして部屋を出ようとする。思わず、私はテオを呼び止めた。


「テオ!」


私が呼ぶと、テオは一瞬私を振り返った──けれど。

その瞳は、今までにないほどに、焦りを帯びていた。アルヴェールの王が、毒を盛られた。

それは、誰に?何のために?

もうじき、アーロアからアレクサンダー殿下もいらっしゃる。事態は、急展開を迎えようとしていた。




【3章 完】

3章はここまでとなります。全4章構成となっていますので、次の章で本作は完結予定です。何卒よろしくお願いします。

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