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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
三章:寓話の相違

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約定の千年

それに、テオが「わかってる」といった。テオが理解のあるひとで助かった……。と、思ったのも束の間。

テオからごもっともな意見をいただいた。


「アーロア出身のエレインが知らないのも分かる。だけど、だからこそ迂闊なことを言うべきじゃない。あなたも、貴族の娘だったなら分かるでしょ」


「ご、ごめんなさい……?」


叱られているのは分かったので、首を傾げながら謝罪を口にする。だけど、私だって考えなしに言ったわけではない。そう思って、私は控えめに反論して見せた。


「でも私、テオにしかこういうこと言いませんよ」


誰彼構わず、思ったことをそのまま口にする人間ではない。

その一心で、私は弁論を続けた。


「ちゃんとひとを選んでますから!誤解を招きそうなひとには、こういうこと言いません。そもそもあまり口を開かないようにしてますから」


「それは、揚げ足取りをされそうだから?」


「それも……ありますけど。何をどう、受けとられるか分からないじゃないですか。特に今みたいに、国が違えば常識や勝手も違ってくるわけですし……。だから、ちゃんと、大丈夫です。ええと、私は、何も考えていないわけじゃないんですよ!」


そう、つまりそれが言いたかった。

テオは私のことを、一人歩きもままならない幼稚園児のように思っているのかもしれない。流石にそこまではいかなくとも、少なくとも、能天気女だと心配されているのだろう。それは分かった。

分かったから私は、その心配は不要だと、胸を張って答える。


「ちゃんと生きていけますとも!ひとりで!」


「……」


「その!えー、ほんとに?みたいな顔、やめてください……!!確かにちょっと……ちょっと?説得力に欠けるかもしれませんけど!!今みたいな状況の方がイレギュラーで、よくあることじゃありませんからね!!」


「それは分かるけど。なんか……こう……」


テオは言葉を選んでいるようだった。


「うっかり、足を踏み外して死んじゃいそうなんだよね、エレインって。だから、すごく気になる。目を離した隙にどうにかなってそうなんだよ」


「テオの私の印象はどうなってるんですか……って、聞きたいですけど。でも、まあ、とにかく大丈夫です。私は悪運に強いみたいなので。死にそうになっても、何とか生き足掻いてみせますよ!最終的には根気がものをいいますからね!死ぬ気になれば人間、何だってできるわけです」


無理やり話をまとめた私に、テオがふたたびため息を吐いた。


「それで、私、テオに話があったんです。さっき聞いたサクレリア国でのお話もそうですし。私の今後のことについても、テオに話をしておきたいです」


私が改めて仕切り直しをすると、テオは少しの沈黙の後、静かに答えた。


「わかった。いいよ。邪魔は入らない方がいいよね?」


「そう……ですね。できればふたりで話したいです」


私の言葉に、テオがひとつ頷いたあと顔を上げた。


「じゃあ、後であなたの部屋を訪ねるから。その時に話そっか」


時刻はまもなく夕食。

話は夕食の後に、ということだろう。そう思って、私はテオの言葉に頷いて答えた。





その後、貴賓室に戻った私は、ライティングデスクの備え付きの椅子に座り、考え事をしていた。考えることは専ら、アルヴェール国を訪問するというアレクサンダー殿下のことである。


彼の目的は、賢者(わたし)の捜索。


だけど、既に私には賢者としての力がない。

それなら、私を連れ戻す利点はあるのだろうか……。


少し考えたか、あるだろう、という答えに達する。

今現在、私に賢者の力がないのだとしても、いつかは戻る可能性がある。

可能性があるなら、アーロア王家は私を連れ戻し、様々な検証を行うだろう。


(そうなればまた、首輪付きの生活に逆戻り、か)


義務に縛られて、その代わりに衣食住を保証された、安心安全の、安定した生活。賢者伝説が、ただのお伽噺ではないと知った以上、そしてそれがアーロア国内でも周知された以上、きっと私は賢者としての役割を求められる。

それが何をどうすれば果たせられるのかは、ひとまず今は置いておくとして。


賢者の献身(それ)を奉仕と取るか。

あるいは搾取と取るかは、きっと、本人の……私の考え方次第なのだろう。


『つまり、寓話はただの物語じゃなく──実際に起きた、史実(・・)だったってことだよ』


先程、ルカの研究棟で聞いたテオの話を思い出す。


テオが言っていた【サクレリア国で知った真実】。

それは、各国に伝わる寓話が、ただの物語ではなく、史実だった可能性が高い、というもの。

サクレリア国の宝物庫には、千年前に記されたと見られる、石版があったそうだ。

そこに書かれていたことは──


『千年前。各地で瘴気が広がり、それを賢者が静めた。ここまでは寓話でもよく聞く類の内容だ』


テオの静かな声を思い出す。


『だけど、そこから先は少し異なる。瘴気というのは、定期的に生まれる災厄、あるいは因縁のようなもので──千年ごとに復活する、化け物みたいなもの……らしいよ。石版によるとね』


瘴気は、度々発生するものなのだ。

そして、千年ごとに封印が必要になる。


その儀式こそを、【約定の千年】と呼ぶ……。そう、石版には記されてあったらしい。




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