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【書籍化&コミカライズ】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。  作者: ごろごろみかん。
三章:寓話の相違

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無実です、本当です

しかしその前に、テオが口を開いた。


「エレインは……ほんとうに貴族の娘だったんだよね?」


確かめるような口調である。


「しかも、婚約者もいた」


「そ、そうです」


も……もしかして疑われてる??ほんとうです、身分偽証じゃありません!!

慌てて赤べこのように何度も頷く私にテオが「じゃあ」と言葉を続けた。


「逆に聞きたいんだけど」


「な!なんでも聞いてください!私に答えられることなら!!」


さながら身の潔白を証明する被疑者の気持ちで、胸をドンと叩く。それをテオは(冷たい目)で見ていたが、急に彼が私の肩に触れた。


「うおっ!?」


そのまま、トン、と壁に背がつく。

目の前には、テオ。後ろは、壁。


(おおお、これが壁ドンってやつか……)


とか、感動している場合ではない。戦く私を、テオがじっと見つめた。


「っ……」


この、目。今になって気付く。

多分きっと、私、この目が──


(苦手だ)


出会った時から、気になっていたテオの瞳。春の空をそのまま写しとったかのような。猫のように細い瞳孔に、勿忘草の色。何もかもを見通しているように見える、不思議な瞳。

何を言っても言い訳になりそうで、何を口にしても、嘘くさくなりそうで。何も言えずに、口を噤むしか無かった。私の逡巡に気がついているのか、いないのか。テオは私をじっと、まるで私の本心を探るように見つめて、言った。


「それなのにどうしてかな」


「な、何がですか……」


近い。そして、今、とても大切な話をしている、気がする。目を逸らせずに居ると、テオが眉を寄せた。やっぱり、綺麗な瞳だと思った。


「だから。どうしてあなたはそんなに隙だらけなのかな」


「えっ……えっ。……ええ!?」


テオから発せられたとは思えない言葉に、思わず目を見開いた。至近距離の大声に、テオが嫌そうな顔になった。そして、口元に人差し指を当てるとちいさな声で言った。


「静かに。ルカが降りてきたら厄介だから」


「や、やっかい」


もはや、テオの言葉を繰り返すことしかできない。


(だ、だって今……!!)


少女漫画のヒーローみたいなこと言わなかった!?あの、テオが!?何を考えているか分からない、冷たくてドライで、乾燥した物言いをするテオが!!なんかすごい、すごいこと言った気がする!!

思わず混乱するけれど、しかしテオの様子は変わらない。普段と同じだ。……ということは、他意は、ない?


「──っ……」


それに気がついた私は、テオに気付かれないようにちいさく息を吐く。きっと、これは、あれだ。ちいさな子供に言い聞かせるような。テオには妹さんがいるとのことだし、それも私と同じ賢者だと言う。だから、もしかしたら妹さんに接するのと同じように私とも──


(でも、近くない……?)


妹だと認識しているなら、この距離は、どうなの……?よくわからない。最初から分からなかったし、これまでテオというひとをわかったことは一度もなかったけど。でも、今がいちばん分からない。

私は顔を上げると、テオに言った。


「テオは今……何を考えてるんですか?」


つまり、正直に聞いてしまおうということである。私の質問に、テオは目を細めた。


「オレの考えてることなんて単純だよ。エレインがどうしてそんなに危機感がないのか、考えてた」


「き、危機感……。あると、思うんですけど。だから、出会った時、テオを引き止めたわけですし」


「そういう意味じゃない、っていうのは、言わなくてもわかるでしょ」


「……………」


いよいよ、おかしい、気がする。

どうしよう、と思って視線を彷徨わせる、と。テオが続けて言った。


「アーロアはそんなに平和なわけ?」


「へっ?」


予想外の言葉に顔を上げる。すると、テオは眉を寄せて難しい顔をしていた。そして、ため息交じりに言った。


「だから、平和ボケしてるのかな……」


「平和ボケ……。もしかして今、わたしは」


「そう。注意してるんだよ、オレは」


「そ、そっかー……」


なんだか、緊張した肩から力が抜ける。

脱力した私に、テオはゆっくり体を離した。それに、空気が動く。

ようやく、酸素が戻ってきた気がした。


「そんなに警戒心がなくてフラフラしてるのを見ると、やっぱり気になるんだよ。ものすごく。妹には(オレ)がいたけど。あなたは今後どうするの?さっきみたいなことがあったら」


「え!?ど、どう!?」


「だから、静かにって」


テオにふたたび注意を受けて、私は半ばパニックになりながら、パワー is 力みたいな回答を口にすることしかできなかった。


「力技で、何とか……?」


「何とか?できるの?」


胡乱な視線を向けられた私は、ぐっと拳を握ってテオに言う。


「手段を選ばなければ、恐らく……!」


目潰しとか!頭突きとか!


「……」


テオの物言いたげな視線を受けた私は、そっと顔を逸らした。


「その場合、私は傷害で捕まるかもしれませんが……」


それは嫌だ。でも、いざそうなったらきっと、私は手段を選ばない。

というか、どうしてこんな話をしているんだっけ。

何がどうして、こんな議論することになったんだ??

未だ混乱していると、テオのものすごく重たげなため息が聞こえてきた。


「はあああああ」


「うっ。な、何か言いたげですね、テオ……」


テオのその反応に、心当たりがないとも言いきれないので、しどろもどろになっていると、テオが言った。


「何も知らないエレインに、オレから助言(アドバイス)


「は、はい!何でしょう!?」


この空気は、なんだかソワソワして落ち着かない。上司に個人的に呼び出しを受けたものの、本題に入る一歩手前のそれに少し似ているかもしれない。

気になって仕方ない、というか。落ち着かない、というか。

座りが悪い、というか。今、私は立っているけども!

落ち着きのない私を見て、テオが言った。そういえばこのひとは、いつも落ち着いてるな……。


「『月に似てる』と称するのは、あなたと夜を忍ぶ仲になりたい、という意味になるんだよ。アルヴェールではね」


「知りませんでした無実です」


何が無実なのかは私もいまいち分からなかったが、気がついていたら口走っていた。違うんです、という気持ちで。

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