✕捻挫 〇骨折
「あいたたたたぁ!!!!」
その後。テオから話を聞いた私は、ルカから専属医を紹介してもらい、急遽、捻挫の具合を診てもらうこととなった。
場所は変わらず研究室で、スツールに座ったまま、医師──クリストフ・カール・ケッテンヴァルト先生の触診を受けている。
クリストフ先生は、今年御歳六十三を迎えるそうで、豊かな顎髭が特徴的な方である。柔和な顔立ちで、フォッフォッフォッと、言いそうな、まさにそんな見た目であった。
そして、私は彼から足首を伸ばされたり、圧迫されるという触診を受ける度に悲鳴をあげることとなったのである。もちろん、痛みで。
ほぼ涙目でもんどり打っていると、クリストフ先生の声が聞こえてきた。
「これ、骨が折れてますね」
「エッッ」
思わず、ジタバタもがいていた手の動きを止める。クリストフ先生は難しい顔をして言った。
「しかも、かなりの無茶をしましたね?」
「えーと……そんな無茶は……してないつもり……なのですが。ちょっと……船旅をした、くらいで?」
「じゅうぶん無茶に入りますよ。これじゃあ悪化するのも当然です。しばらくは絶対安静、です!」
「はい……」
私は教師に叱られた生徒のごとく、ちいさくなって話を聞くしかない。
まさか骨が折れてるとは思わなかった。確かにすっごく痛かったけど……!そんな簡単に骨って折れるの!?転んだだけなのに!?
(走っていた時に、足さえ絡まなければ……!!)
でも仕方ないというものだと思う。何せ、今世の私は貴族の娘で、まともに運動なんてしたことがなかったのだ。スポーツ……といえば、ダンスくらいで、乗馬も嗜み程度。全力疾走なんて、前世の記憶にしかない。そういうわけできっと、体が驚いてしまったのだと思う。
そんなことを考えながらさめざめとクリストフ先生の話を聞いていると、そこで彼ははぁ、とため息を吐いた。
「……と言いたいところなのですがね」
「今回に限り?」
言い方に希望を感じた私が前のめりになると、クリストフ先生が渋い顔になった。
「もし私がそこらの町医者ならそう言っていることでしょう。しかし、私はそこらの医者とは違います。なんといっても、ルカ殿下の専門医ですから。多少、魔法に心得があるのですよ」
「もしかして……!!回復魔法が使えるのですか!?」
高難易度に分類される回復魔法。あれさえ使えれば、私の酷い怪我もすぐ治ることだろう。希望を持って前のめりになった私に、クリストフ先生がさらに渋い顔になった。
「多少は、ね。ですが、私は賢者ではありません。魔法で完治させることはできません」
「それでもとっても有難いです……!!ありがとうございます。ほんとうに、ほんとうにとっっっても困っておりまして……!!」
平身低頭で頭が地につくほど深く頭を下げると、クリストフ先生が肩を竦めた。豊かなお髭を撫でながら、彼が言う。
「本来は、ルカ殿下以外を診ることはないのですが……。ほかでもない、殿下からの頼みです。お受けしましょう」
「ありがとうございます!!」
「エレインの怪我、どれくらいで治るの?」
そこで、クリストフ先生を呼んできてくれたルカがカップを片手に聞いてきた。立ち上る香りからして珈琲のようだ。いい匂いがする。
クリストフ先生の触診を受けている間に、どうやら彼は珈琲を入れていたらしい。
ルカの質問に、クリストフ先生が首を横に振る。
「やってみないとわかりません。ですが、それでも、全治一ヶ月は見た方がいいでしょうね」
「重症だったんだね、エレイン」
「ツイてないね。転んだんだっけ」
上がルカで、下の発言がテオである。
私は苦々しい気持ちで、頷いて答える。
「命があるだけマシだと思うことにしています」
「確かに……」
とルカが言った。




