お家事情にお国事情
そして、十日を経て王城── ノクテリス城に到着すると、テオは一度自室に戻ると言い、代わりにケヴィンに案内してもらうこととなった。
「こちらが貴賓室です。そして──ルカ殿下ですが」
テオの異母弟であり、その手のことに詳しい研究者でもあるという。
(彼に会ったらなにかわかるかも……)
せめて、原因とか。知れたらいいなと思うわけで。欲を言うならやっぱりふたたび魔法が使えるようになりたい。
ケヴィンの言葉をドキドキしながら待っていると、大きく頷いてから彼が言った。
「恐らく、いつもの研究棟かと思われます。ご案内しますよ」
☆
ケヴィンに案内されて研究棟という、城から少し離れた塔に向かうと、厳重な警備体制が敷かれていた。
先にテオが話を通してくれていたらしい。ケヴィンが警備の騎士と何言か言葉を交わすと、すぐにその先に通された。
ちなみに、研究棟に行く際も変わらず運搬してもらっている。ケヴィンに。お姫様抱っこである。
(ものすごく!!目立つ!!)
恥ずかしいことこの上ない。
魔法が使えないなら使えないでせめて、この怪我を何とかしたい。ほんとうに、切実に。
塔の入口には、認証システムのようなものが導入されているようで、ケヴィンが手をかざすことで扉が解錠された。
(魔力に反応してるのかしら……?)
ガチガチの警備体制だ。
階段を登ると、両開きの扉が現れた。
「ルカ殿下はこの先にいらっしゃいます」
「ありがとうございます……。あの、先程の方たちのことなのですが」
私が尋ねると、ケヴィンは私が何を聞きたいか察したのだろう。
あの警備兵の数は、少し多すぎないかと思ったのだ。少なくともアーロアでは見たことがない。エリザベス殿下を溺愛している陛下ですら、あの数の警備兵は用意していなかった。
私の疑問に、ケヴィンが「ああ」と頷いてから言葉を続けた。
「ルカ殿下は、婚外子。いわゆる、庶子であらせられます。ですが、陛下は彼の亡き母君……アンジェリカ夫人を深く愛されておりまして。アンジェリカ夫人の忘れ形見であるルカ殿下をとっても溺愛しておられるのですよ」
「つまり、あれはルカ殿下を心配されて……ということですか?」
「当たらずとも遠からずです。陛下はルカ殿下にこそ、王位を継承して欲しいと思っていらっしゃるのです」
「ええ?」
ルカ殿下は婚外子であり、王族ではないなら王位継承権は持っていないだろう。
あ、だから指名ができず、思っているだけに留めていると、そういうこと。私の推測を答え合わせするようにケヴィンが言った。
「エレイン様もご存知かと思いますが、ルカ殿下には王位継承権がありません。だからややこしいことになっています」
「なるほど……」
「はい……。ルカ殿下は、王の高待遇に不満を持つ王子殿下たちから、嫌がらせを受けており……。このままでは、万が一も有り得ると憂いた陛下のご意向で、あの警備体制です」
「…………」
なるほど〜〜つまり、国王陛下が全部悪いということなのでは……?
私はピンときたが、ここはアルヴェール。流石に口は慎んでおく。
(王位継承争いはどこの国でも起きるものとはいえ)
アルヴェールの内情がそんなにぐちゃぐちゃになっているとは知らなかった。テオが殿下と呼ばれると嫌そうな顔をするのは、この辺に理由があるのかもしれない。
とはいえ、アルヴェールが珍しいという訳でもないのだと思う。アーロアが平和すぎるのだ。
アーロアでは、王妃陛下亡き後も国王陛下が後妻を迎えていない。
王子殿下ふたりも王妃陛下のご子息でいらっしゃるし、王女もしかり。
つまり、今いる子供たちはみな、国王ご夫妻の血を引いているということになる。だからこそ、王位継承権で揉めたりしていないのだ。アレクサンダー殿下と王太子のメレク殿下の仲が良好というのも理由のひとつだろう。
アーロアの国王陛下は、王妃陛下を深く愛されていたらしい。だからこそ、末の王女エリザベス殿下をことのほか可愛がっているし、王妃陛下が亡くなられて十年以上経過するのに、未だに後妻を迎えられていない。
可愛がるのはいいことだ。いいことだけど、少し限度というものがあるのではないかしら、とつい思ってしまうのは、私の考え方が前世からバージョンアップされたゆえなのだろうか。
と、いうことはひとまず置いておいて。
「開けても?」
両開きの扉を見つめて尋ねると、ケヴィンが笑う。
「私が開けますよ。……ンンッ、失礼」
ケヴィンが私をその場に下ろして、咳払いをする。
直後、ケヴィンが声をはりあげた。
「失礼します。さ!近衛騎士第一部隊長ケヴィン・カーズウェルです。入りますよ!」
そして彼は応答を待たずに扉を一息に開け放つ。
部屋の中には──ひとりの少年?青年?がいた。
年齢は、私と同じか、あるいは年下だろうか。黒髪に、灰色の瞳。じっとこちらを見ている。
(彼が……)
ルカ殿下、なのだろうか。
王族でないなら呼び方は【殿下】ではないのだろうけど、ケヴィンに影響されて私もつい、こころの中でのみだけどそう呼んでしまう。
「ケヴィン。なに?だれ?」
彼の声は、見た目通りとでもいうのか。少し高めだった。




