夏休みの始まりは青春の始まり?
ギラギラとした太陽の陽光が肌を焼き、学校を蒸し焼こうとする夏休みの初日。
7月21日、時刻7:53。
本来なら後七分弱で遅刻となる時刻であるが、天命は昨日のことで先生方から呼び出しを食らってしまい。無事に充実した夏休みが消え去った。
ため息混じりに息を入く天命は校舎の中へと少しだけ新鮮な気持ちで入っていく。
特段代わり映えもしない校内を寄り道もなく職員室へと歩いていく天命は、職員室の前に誰かいるのに気づいた。
蒼い髪……海のようで大森林のような蒼髪を持つのはこの学園において一人しかいない。この学園に入って以来の才女にして最高最強とも呼ばれる二人の内に一人。
そんな者が夏休みの初日に、学校に来るような用事などはないはず。
彼女がいて自身がいるこの状況に天命は、ため息を吐き出して面倒くさいことになると頭を掻いた。
誰かを待つように、壁にもたれ掛かることなく粛に佇。それだけで自然に溶け込む女神にも劣らなく静の美に、何時もなら天橋の取り巻きやファンクラブの者が囲っている。さすがに夏休みまで囲うことはないようだ。
天命は昨日のこともあり、微妙に顔を正面から付き合わせずらく何事もなかったように通り過ぎようとしたら声を掛けられた。
「少しだけいいですか……天明くん」
久しぶりに同年代に名前で呼ばれたことに天明は、思わず立ち止まってしまう。名前で呼ばれて立ち去るほど、人としての矜持を失ったわけではなかった。
暑い校内で汗が滴ってしまうような猛暑。
涼しげで汗など全く掻いている様子もなく、首筋を見せるかのように長い髪を後ろで一本に纏められたポニーテール。
昨日の下ろされた髪型の持つ淑女とした印象は今の髪型では全く異なり、スポーティーでまるでこれから一汗掻こうとするような感じ。
鈍い天明では、なぜ昨日と髪型が違い、それにどのような意味があるのかを理解できなかった。
ただ美しい天橋に見とれる天命は、予備動作をほぼ感じさせない正拳突きが亜音速もの速度で飛んでくるのに対処することなどできるはずもなく。
唖然と見ることしかだきなかった、目の前で停止する拳だが、髪を靡かせるほどの風圧。ただ拳に宿っていた暴力がどれほどであったのか、容易く推し量れた。
目で追うことすら難しかった拳に、冷や汗がたらりと流れ死にかけた事実を突きつけられた天命は悔しさより安堵が胸を占めていた。
天命は真っ直ぐに此方を見る天野に困惑と態度しか返せることがなかった。
「失礼しました、初めて私を傷つけた貴方が本物なのかを確かめたくて失礼なことをしてしまいました……ごめんなさい」
「は、はぁ? 意味はよくわかりませんが、いきなりはびっくりしちゃいますから」
困惑とした表情であったが取り繕った笑顔で答える天命。天橋は笑顔の一欠片もなくただ天命を見て、見定めるように観察される。
気まづさが百億倍になって、廊下の暑さが猛暑を越えた暑さを感じてしまう。
何も話さず、コミュ力が著しく欠けている天命にとっては何に於いてもこんな地獄空間は存在しなく、早く筋トレでもしたいと神様に願うしかなった。
「……」
「……」
「あ、あの……」
天橋から声を掛けられた天命はびくんと肩を震わせ、昨日のこともあり負い目を感じることに顔を付き合わせれずに言葉の続きを聞く。
「私は天橋光です……えー、一年青薔薇組の出席番号は四番……好きなことは天たぃ--」
「まって、一回まって」
止めに入らなければそのまま自己紹介をして、天命にもさせるつまりだったのか。
天命は困惑して頭の中はそれどころではなかった。
(え、なに。なんで普通に忘れてましたとばかりに自己紹介? さっき、殴り掛けてましたよね? 当てる気はなかったと思うが……それに昨日、折っちゃいましたよね、普通は怖がったり敵意を抱いたり反感を表にだしますよね? なんで仲良くなろうと自己紹介をはじめました?)
ハテナマークを頭で大量に浮かばせながら、色々と聞こうとしたが天橋に遮られる。
「何か変なことありましたか? それとも流石に出席番号は要りませんでしたか?」
きょとんとした顔で天命を不思議そうに見つめ不思議そうに聞く。
「いや確かに、要らないけど。なんでいきなり自己紹介? さっき殴ろうとしてましたよね、それに昨日のあれはもう忘れちゃった!?」
「昨日のあれとは、何か有りましたか?」
昨日のことを思い返すように首を傾げる天橋は天命の思い裏腹に呆けるような返しをする。
「えぇー」
若干呆れつつ引いた声を出す天命は、天橋を見て認識を改める。
(皆が憧れるような真面目で勤勉で家柄もよく人当たりもいいというエリートと過ぎだが……今はどこからどう見てもキ○ガイ……完全にキチ○イ)
天橋の評価が最低になっているとも知らずに、引いている天命に微笑んで話しかける話しかける。
「冗談ですよ」
「うん? 何が?」
完全に○チガイと思っている天命は、天橋の言動全てを『キチガ○だからしょうがない』と結論付けてしまうために「冗談ですよ」の意味を理解できなかった。
学園最高最強とも呼ばれる才女。
頬に色味が出て綻ぶ笑顔を見せる天橋を理解できないために懐疑的にみる学園無能最弱な変人。
天命はまだ知ることはない、その笑顔がファンクラブの者や信者にどれだけの殺傷能力を秘め、その思いを知った時に邪教が打ち立てられるのかを。
「昨日の敗北が生まれて初めての敗北……悔しさと後悔が募る慚愧の過去。だけど……だから……決めていた一つの約束--」
耳を傾けている天命は何も言わず、そのまま。
その先の言葉に世界が星が沈黙する、二人だけの空間が意識を強めていく形となる。
恥ずかしながらに言葉を出そうと唇をむにゅむにゅとなりながらも天橋の口が開く。
「私とふぃ--」
「おい! 廊下でガヤガヤとうるせぇぞ!! ガキども!!!」
天橋の言葉を怒声で遮る男性教師は、俺たち二人を見るなり態度を変える。
「す、すいません……天橋さん、お話の途中で遮ってしまい」
ちろりと此方を見る男性教師に不思議に思っていたら。
「このバカが騒ぐもんで--」
と良く意味が分からないことを言い出す男性教師に呆れる天命。
あからさまに天橋と天命で扱いの差があることにこの学園の教師を不安に思うがこれだけあからさまなのはこの男性教師以外いないだろう。
態度の差があるのは理解はできるが、納得はやはりできない。
ごちゃごちゃと言い訳を言い続ける男性教師に天橋も呆れた様子。
「先生、用がないら天明くんとお話の続きをしてもよろしいですか?」
先ほどまで見せいてた笑顔は全くなく、冷たく無表情。人でも殺したんかというぐらい感情が見えない。
男性教師はびくんとしながら、天命を見て。
「いえ、これはそろそろ時間なのでお話はまた後日にお願いします」
「……そうですか」
会話はおわり、鋭い目付きで着いてこいとばかりに見て歩き出す天命に天橋がすれ違い様に耳打ちをする。
「頑張ってください」
その言葉に不思議に思いつつ、天橋がいうとした言葉の続きはなんだたったのか考えるも思いつかない天命。
高圧的な態度をとる男性教師のあとを着けて、職員室に入る。
天橋はその背中を見つつ、思案する。
これから起こるだろう出来事は容易く予想できた天橋は言葉の続きをいう機会と天命が退学しないようにどう立ち回りをするかを考える。その前に天命と先生の話を盗み聞く。
その姿はまるで泥棒のようでもあった。