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星を握り潰した日

 薄暗く木々すら嘲笑うように校舎の裏で集団にイジメれている男がいた。


 蹴られ殴られ、炙られ、刺され、落とされ、回され、吊られる。ただ日々の鬱憤ばらしのために同じ八組のクラスメートに、暴力を振るわれていた。


 イジメっ子集団のリーダー的な男の右ストレートをもろに腹にぶち込められ、数歩後ろに後退り倒れ込む。ちょうどよく蹴りやす位置にきた頭を更に蹴り込んで、痛みと激しく沸き上がる感情を抑えるのにために地面をただ転がっていく。


 その無様で抵抗もできない姿に集団の数人が笑い声を溢しす。それに吊られるように残酷な笑みを露とする者達もいた。

 一人だけ笑うことも感情を顕とすることもなく、ただ冷徹に信じられないほど冷静に倒れふす男を見るリーダーの男。


「無能……」


 無能と呼ばれる言葉に取り巻き達の笑いが歪に強くなった気がしたのは、倒れふす男の蔑称だからだろうか。


 倒れふす男の名前もこれまたイジメの標的にされそうな名である天命(てんめい)由目(ゆめ)。女の子のような音に字は、イジメの標的にされれば弄られ、気持ち悪がられる。

 天命が名前で呼ばれることなど八組ではありえなく、同学年でもなく。先生ぐらいしか呼ぶことはない。


 クラスでは、『無能』などという蔑称で呼ばれる。


 この学園の実力主義により、決定された最低最弱クラスの八組。全部で八クラスあれど、八組以外はクラス名に薔薇が入っている。例でいえば、最高最強と呼ばれる青薔薇組なども。

 ゆえに薔薇が入らないクラスとは、この学園ではイジメらている天命と同じく最弱無能な烙印を押される同じウジ虫。

 その中でも無能と称される天命。全ては才能(超能力)努力(スキル)で決定するこの学園の仕組みにおいて、天命の能力は致命的に意味を成さなかった。


 いや、この学園以外の社会ですら、無能扱いされるだろう。


「おい、無能……おい、聞いてんのか」


 リーダーの男は天命へと近づいてしゃがみこんで、伸びきった髪の毛を鷲掴み無理やり顔を上げさせて薄めに開かれる視点さ迷う目を見て冷徹に冷酷に告げる。


「明日はお前の命日だ。だから今日はこれぐらいにしといてやるよ」


 言い終わり、手を離したリーダーの男。

 鈍い音が取り巻きにも聞こえたのか、どっと笑い声が上がる。だがリーダーの男はやはり笑うことなく。

 先程まであった頭の位置を見たまま、動かない。取り巻き達に気づかれるより早く、立ち上がったリーダーの男は取り巻き達にぎろりとみる。


 すると笑い声は静まり返る。


「帰るぞ」


 短く淡白に告げた言葉を言って、取り巻きを過ぎ去っていく。そのあとを続く取り巻き達はこの後の時間をどうするかの話題に盛り上がり、すでに天命のことなど頭にはなかった。


 リーダーの男は除いて、最後に見た、あの目。


 視点が定まっていなかった天命の目が、最後に手を離した瞬間こちらを見ていたと。ハッキリとこちらを見たと時の瞳に冷徹で冷酷な男を明確にイラつかせていた。

 それも明日で終わるのだと、その何処から沸くものかも知らずに安心するように抱く男。


 過ぎ去った後、痛みに悶えながら顔を上げて仰向けに寝転がる天命はまだ沈みきらない空を見て先の筋トレのことを見直していた。


(さすがに強化された拳をなにもなし腹で受け止めるのは無謀だったか……もうしばらく、立てそうにないなこれ)


 痛みにもなれてきたが、ダメージを受け続けて筋肉が成長しているような気がしない。

 だいぶ筋肉が付いてきた腹を擦りながら、ぼんやりと筋トレの見直しをしていた天命だったが、イジメの主犯格のリーダーの男の言葉をふと思い出した。


『明日はお前の命日だ……』


 とかいっていたが天命には全くもって、心当たりがなく。明日は今日と変わらない一日であるはず。

 いや、明日は一学期の終業式があり、明後日からは夏休みとなる。つまり、明日の午後からは授業がなく、それ以降は九月の最初の平日の日まではお休みとなるわけだ。


 この学校の生徒は明後日からは授業や学校のことを忘れて遊び呆ける。もっとも優秀なクラスすら羽を伸ばすはず、八組なんて犯罪でも犯してしまうほどの自由を手に入れるわけで。

 天命だって、学校のことなどは忘れて明日から筋トレをどうするかで頭いっぱいになっている。


 だからリーダーの男がいった言葉の意味を考えることなく、ただ脳筋なだけかもしれないが。

 明日へと向けて筋トレの本格的な見直しと夏休みの特別筋トレを構想して、寝た状態から立ち上がる天命は端が焼けた空の方向に走っていった。




 終業式がおわり、クラスがどこか浮き足立つなか、先生へと別れの挨拶が行われると。

 天命の席へやったきたイジメっ子のリーダーの男とその取り巻き達。

 自分も帰ろうと席を立つが道を取り巻き達に塞がれる。


「いや、逃げるのはないでしょ無能くん」


「そうそう、男なら腹を括って腹を切るべきだって」


 取り巻き達の言葉に意味がわからないと首をかしげる天命に、リーダーの男はただ冷徹に冷酷に「ついてこい」という。 

 いつも通りにイジメっ子と天命に関わらないよう、蜘蛛の子を散らすように逃げていくクラスメート。そして担任などはいつの間にか居なくなっており、そもそもこのクラスの担任などいたかすら怪しいほどに影がうすい。


 イジメっ子達をどこか見定めるかのように見た天命、それが気に入らなかったのか取り巻きの一人が拳をふるう。


「なんだその目は!」


 ストレートに強化された拳は超能力がない時代のプロボクサーに等しい威力を持っていたが、天命の顔に放たれたが。

 何事も起きていないとばかり、動かず動じず、リーダーの男を見る天命。


(そろそろ、こいつらとの筋トレは飽きた。それに殴られても筋肉は成長しないとわかったし、こいつらに付き合う必要はもうないか)


 ただそれだけで、いつもスキルも使わずに負荷に耐えてきた天命にとっては、スキルを使えば耐えられるものだった。

 いくら最弱無能とはいえ、天命の能力もスキルも身体強化系である。そのため、取り巻き程度の修練のスキルではダメージはない。

 どよめく取り巻き達を無視して天命はリーダーの男へという。


「お前についていったら、今後お前達に付き合わなくてもいいなら、行くが?」


 どうするとリーダーの男を見る瞳には、嫌ならここで乱闘をしてもいいがといっている気がする。

 瞳から天命の言いたいことを理解したわけではない、リーダーの男は明確にそこに絶対の裏切りはないというばかりに。


「ああ、今後金輪際、お前に関わらないと星に誓おう」


 その言葉を受けとると天命は嬉しそうに笑った。

 どよめきの声を上げていた取り巻き達は、リーダーの男がいった言葉で様子がおかしいと初めて気がついた。そんな取り巻きをおいて二人は歩いていく、生徒主催のバトルトーナメントが開かれる闘技場へと。

 そこでようやく、天命も理解した。


 これは死ぬかもと。


 目の前に立つ、星の蒼さを体現したかのような美しい蒼い髪と蒼い瞳を持つ、七薔薇学園の一年において最強ともいわれる。


 天橋(あまのはし) (ひかり)はこの学園最弱で無能な天命を前に高らかに宣言する。


「この勝負、二秒で片付けてあげましょう」


 余裕綽々と勝利を確信した笑み、だが瞳の奥で怒りにもに激情を宿していた。

 天命はそんなことに気づかず、ただ目の前の敵にどれだけ対抗できるのかを考えながらストレッチをしていた。


 天橋にとってはその天命の態度が余計に激情を強くさせるものだった。


 勝負の始まりを知らせる笛が吹かれる寸前に天命はあることを決めていた。

 この学園に入ってすぐに自身の能力が無能でありスキルが最弱となるのかを理解した。そしてある時、決意を抱いた時に能力を封印した。


 今日のこの日、天命は自身の身を鍛えた結果を知る時である。


 そして、勝負の笛は吹かれた。

 超高速で一秒を一分にしたかのような世界で、天橋と天命は幾つてもの攻防の末。

 天命は天橋の腕を掴んで逃げられたら追い付く術がないと決して離さないつもりで、人を越え、機械すら越えた、理解不可能な力が星すら握り潰してしまった。


 人生で初めて腕を握り潰された星は、絶叫を上げて痛みのあまりに気絶してしまった。


 その一、二秒の光景後に現れた二人の内一人は負けるはずがない、怪我するはずがない、泣いて痛みにも叫んで気絶するばすのない。

 星である天橋を見て、目の前の惨状を理解し始めたのが観客の声に上げさせたのは阿鼻叫喚であった。


 悲鳴が聞こえるなか、天橋へと回復を掛けるために来た少女に手を話せといわれる天命は力を今抜いた。


 天命自身、今自分がやったことを理解し始めた。

 最高とも最強とも呼ばれる天橋光、一学年の、上の学年すらに憧憬を向けられる彼女。

 天命も彼女に憧憬をむけ、そして憎しみすら向けたことがある。

 それが今は目の前で少女に回復されている。気絶したまま。

 天命はただ、天橋を見て、腕を握り潰した自身の手を見て、呟いた。


「案外、柔かったな」

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