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101/110

101:侍女の正体

皆さんすっかりお忘れでしょうが、おっぱい丸出しです。

「…ナ…何デ貴様ガ、ソノ咆哮(ブレス)ヲ…」




 目の前で起きた出来事に、誰もが自分の目を疑った。


 オーギュストも、カサンドラも、ハヤテも、ヴァレリーもセヴランも、そして不死王(黒龍)でさえも、目の前で起きた出来事が信じられず、ただ呆然と立ち尽くす。


 やがて、カサンドラがヴァレリーに抱きかかえられたまま目を見開き、ポツリと呟く。


「…聖咆哮(ホーリー・ブレス)…」

「…リュシー…、君は一体…」


 カサンドラの言葉を耳にして、オーギュストが地面にへたり込んだ。誰もが動きを止め、時が止まった世界の中で、一人の女が目を覚ます。


「…ん…あっ!?リュシーさんっ!?」

「フランシーヌさん!?大丈夫かっ!?」

「…フランシーヌ…何が、起きたの?」


 ハヤテの腕の中でフランシーヌが跳ね起き、侍女の後姿を見て目を瞠った。カサンドラが力ない声で尋ねると、彼女は振り返り、胸の前で両手を組み合わせて、声を震わせる。


「…逆流したんです…」

「…え?」




「…『繋いだ』ら、生命力が逆流したんですっ!――― あの人、あれほどの重傷を負いながら、私より遥かに生命力に満ち溢れているっ!」




 ***


 黒龍は、恐怖した。


 全周を覆い鉄壁を誇るはずの「鱗」が粉々に砕け散り、あらゆる神聖魔法を呑み込んで来た≪闇夜の揺り籠(ナイト・メア)≫は、もはや影も形もない。憑代となった女の右脇腹には大穴が空き、右腕も穴の円周に沿って綺麗に切り取られて、肘の皮一枚で辛うじて繋がっている。


 自分の脇腹を抉った光の正体を、見間違えるはずもない。あの忌まわしい太古の戦いにおいて幾度も目にした、万物を消し去る滅却の光。そして白龍が潰えた今、二度と目にする事はないと思っていた、過ぎ去ったはずの恐怖。


 その恐怖が、目の前に再び立ちはだかった。かつての圧倒的な存在感を放つ、純白の鱗に覆われた巨龍の姿ではなく、指で弾けば消し飛ぶほどの矮小な侍女の姿で、再び黒龍の前に立ちはだかった。その事実に慄然とする黒龍の前で、侍女がゆっくりと身を起こす。


「…フゥゥゥゥゥッ!フゥゥゥゥゥッ!」


 頭を上げた侍女が黒龍を睨み付けたまま、煩わしそうに右腕を払った。二の腕から上がっていた黒煙が掻き消え、纏わりついた光の靄が収斂して腕の形を描き、やがて傷一つない白く瑞々しい右手が現れる。食いしばる歯の隙間から()()()()()()()()()()()()()()()()()、侍女の顔を白く照らす。その侍女の鬼気迫る顔にかつての対戦相手(ライバル)の面影を認め、黒龍は焦燥に駆られながら、対戦相手(ライバル)が講じた手の()()()を罵った。


「…血迷ッタカ、白龍ッ!?貴様、己ヲ捨テタナッ!?己ヲ捨テ、(チカラ)ノ全テヲソノ女ニ()ギ込ンダナッ!?」




 遥か昔。


 七日七晩にも渡る戦いで深手を負った黒龍は「(あな)」の中に逃げ込み、体の傷を癒しながら反攻の時を待ち続けた。だが、白龍によって負った傷はなかなか癒えず、長期戦を覚悟した黒龍は体から魂を切り離して、地上の様子を窺う事にした。


 恐る恐る顔を出すと、覇者となった白龍の姿は見当たらず、地上は黒龍にとって忌々しい生命に満ち溢れる世界へと変貌を遂げていた。黒龍は「(あな)」から遠く離れた場所に足を運び、其処で死に瀕していた一人の男に憑りついて、体を乗っ取った。


 全ての力を「(あな)」の底に置いて来たため、黒龍は不安だったが、地上に生きる生き物は、拍子抜けするほど弱かった。そのうち黒龍は白龍の魂の欠片を持つ者と遭遇し、白龍が死んだ事を知ったが、相手はあまりにも脆く、全く身の危険を覚える事はなかった。徘徊を重ねるうちに白龍の魂の欠片を持つ者は集団で黒龍に立ち向かって来るようになり、黒龍はその都度「間借り」していた体を失って頻繁に「引っ越し」せざるを得なくなったが、それでも命の危険を覚える事はなかった。人々は白龍の魂の欠片は持っていても、その強大な力は一切受け継いでおらず、わざわざ女神に乞いて微弱な力を借りて来る有様だった。「(あな)」の底に力を置いて来た黒龍は人々のやり方を真似し、同じように男神(おがみ)に乞いて力を借り、人々の「遊び」に付き合った。白龍の力が何処に消えたか黒龍は知らなかったが、魂と同じく細切れになって世界に散らばったのだろうと思っていた。


 だが、白龍が取った行動は、黒龍の想像を超えた。白龍(ヤツ)は、その強大な力を一切他に分け与えず、たった一人に()ぎ込んだ。二度と自我が戻らない事を知りながら己の魂を細切れにして世界中にバラ撒き、地上を生命の楽園へと変貌させたくせに、黒龍を凌駕する膨大な力の全てを、そのまま一個人に押し付けた。受け取った者が使いこなせるか一切考慮せず、どう扱うのかも気にせず、無駄になる事を承知の上で、他人に押し付けた。その愚直な試みが悠久の時の中で綿々と繰り返され、その全てが徒労に終わっていた。


 そんな無謀としか思えない白龍(ヤツ)の試みが、しかし、ついに実を結び、侍女の姿で黒龍の目の前に現れた。力の全てを「(あな)」の底に置いて来た、魂だけの黒龍の前に、太古と変わらぬ絶望的な重圧を伴って、目の前に立ちはだかった。


 戦いとは無縁としか思えない矮小な侍女の口から万物を消し去る滅却の光を吐き、黒龍の魂をこの世から消し去ろうとしている。


「…フザケルナァァァァァァァッ!サセンッ!絶対ニ貴様ノ思イ通リニハ、サセンッ!コノ場デ、貴様ヲ葬ッテクレルッ!」


 黒龍の激高と共に、遥か北の彼方から真っ黒な靄が押し寄せ、憑代となった小柄な女の体に纏わりついた。




「…ァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアッ!」


 黒龍の雄叫びと共に、体に纏わりついた膨大な量の黒い靄が実体化して、憑代でもある女の体が上昇する。女の下半身を呑み込んだ靄が漆黒の鱗に覆われた体表へと変化し、やがて眉間に女の上半身が埋め込まれた、体長50メルド(メートル)にも及ぶ、巨大な(ワニ)のような龍が姿を現わした。鋭い歯が幾重にも連なる巨大な(あぎと)を開き、矮小な侍女に向けて牙を剥く。


 女は、白龍の力を使いこなせていない。


 白龍の力は未だ全盛期には程遠く、4割にも満たない。今此処で白龍の力を消し去れば、世界はいずれ男神(おがみ)のものになる。「(あな)」の底で眠る「本体」から限界まで力を引き出し、白龍を凌駕してみせる。例えこの先数千年、数万年もの長い眠りに就く事になろうとも、全ての力を使い切ってでも、此処で白龍を仕留める。


「――― ォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ…」

「――― コォォォォォォォォォォォォォォォォォォ…」


 黒龍の巨大な咢から底冷えする音が聞こえ、漆黒の靄が渦を巻いて集まり、中心に漆黒の球が現れる。黒龍の喉の奥から絶え間なく闇が溢れて漆黒の球へと流れ込み、次第に大きくなる球の表面に暗黒渦(ブラック・ホール)のような禍々しい揺らぎが浮かび上がった。黒龍に呼応して侍女が前傾姿勢を取り、緩く開いた口の先に光の球が現れる。アルトの歌声と共に侍女の口が大きくなり、光の球の輝きが増して超新星(スーパー・ノヴァ)の煌めきを放つ。


「ゴアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 そして、大地を揺るがすほどの地響きと共に巨大な咢から漆黒の波動が放たれ、侍女へと襲い掛かった。




「ガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 黒龍に遅れて顔を上げた侍女の口から極太の白光が放たれ、押し寄せる漆黒の波動を真っ向から迎え撃った。咆哮(ブレス)の反動で侍女の体が後退し、大地に1メルド(メートル)の長い轍を刻む。闇の奔流と光の奔流が衝突し、世界を目まぐるしく白へ黒へと塗り替え、300名にも及ぶ人々は光と闇の織りなすイルミネーションを食い入るように見つめた。世界を割る二色の宴はいつまでも終わりを見せず、時を追う事に観客達が一人また一人と跪き、胸の前で両手を組み、祈りを捧げていく。


「ゴアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

「ガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

「嗚呼…女神様…」

「女神様、我らに勝利を…」




 そんな、永遠に続くかと思われた戦いも、ついに終焉を迎える。


 勝負を決めたのは、侍女(白龍)ではなかった。黒龍でもなかった。


 ――― 太古より語り継がれてきた二龍の戦いの決着に全くもって相応しくない、無粋で身の程知らずな闖入者(ちんにゅうしゃ)だった。




「…女神の七徳をもって七邪を討ち祓わん。――― ≪七聖光(ホーリー・レイ)≫」

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