携帯の向こう
新着メール56件
またか…
そう思いながら俺、堺司は携帯を開き新着メールを確認した。
件名『愛してる』
『貴方を愛しています』
件名『愛してる』
『貴方を愛しています』
件名『愛してる』
『貴方を愛しています』
新着メールにはすべて同じ件名と文章が書いてあった。しかもこのメールが来始めたのはもう5日も前からである。更に初日は1件だけだったから気にしなかったが日毎に件数にだんだんと増えていき5日目の今日には50件を越えるようになった。
「いったいどこのどいつなんだよ…」
「フフッ、司君、返信くれるかな…」
そう言いながら篠原千佳は自分の想い人である堺司にメールを送りまくっていた。しかし自分のアドレスは司には教えてない。更に彼のアドレスを教えてもらってない。それどころか同じクラスだが何か用事ない限り話さない。否、話せない。話しかけようとしても話すことができない。たまにチャンスがあっても自分の心の準備が出来なくて話せないか心の準備が出来ても遅すぎてチャンスを自ら失うかだった。しかし6日前に偶然にも彼の携帯の画面が見え、アドレスまで見えた。千佳にはそれが神様が与えてくれたチャンスだと思い、得意の瞬間記憶で司のアドレスを覚えた。それから家に帰り、司にメールしようとしたがどうしても決心がつかない。ようやくついたのは朝日が昇った時だった。彼女の願いは司にメールの返信をしてもらうことだ。だが誰が知らないアドレスに返信するだろうか?彼女はそのことに気付いていなかった。
―なんで返信してくれないんだろう?…そうか!私の愛が足りないからか!―
そう納得し現在にいたる。
その日の学校は司にとって退屈、否、まったく考える気がしなかった。
友人に相談しても「無視すりゃいいじゃん」等とまるで他人事のように言われる始末(実際その通りだが)。
「どうすりゃいいんだよ…」
「どうしたん?」
誰にも聞こえないぐらいの声で呟いたが、放課後の今この教室に残っているのは俺の他に数名のクラスメートだった。しかもほとんど喋ってないため独り言は筒抜けだったらしい。
「何か悩みでもあるの?よかったら相談にのろっか?」
しかも俺の独り言に興味を持った変人はクラスでも美人と評判がいい那波樟葉だった。
「いや、たいしたことじゃないんだけど」
「自分でたいしたことじゃないって言う奴に限って大きな悩みをもってるもんなんだにゃ」
「なんだよその語尾は…そうじゃなくてスゲーなお前、そんなこと分かるなんて」
「ふっふっふっ、女子の悩みをいくつも聞いてきた私には当たり前なのだぁ!」なるほど、それなら納得できる。
「してどんな悩みなの?」その日以来俺と樟葉はよく話すようになり、メアドも交換するまでに至った。
その日篠原知佳は楽しそうに話している(悩み相談だから楽しくはない)堺司と那波樟葉を見て二人を睨みながら自らの爪を噛み締めていた。
「なんであんな女にひかれちゃうのよ…!?」
樟葉に悩みを打ち明けてから二週間が過ぎた。樟葉はここ最近休みがちだった。「風邪かな?」
そう思い昼休みに樟葉に
『お前バカの癖に風邪でもひいたのか( ̄ω ̄)』とメールをした。
「フフッ、樟葉さん、アナタの大事な司君からメールが届いたわ」
「んー、んー!!」
その頃樟葉は家にいた。だが彼女は断じて風邪などひいていなかった。彼女は千佳によって監禁されていた。樟葉は高校に入ると同時に一人暮らしを始めたため家には彼女しかいなかった。そこを千佳は利用した。相談があると嘘をつき、樟葉の住む家に入った。そこでもっていたスタンガンを樟葉に押し付け気を失わせた。既に監禁されてから三日がたっている。その間ずっと千佳は彼女の前に座っていた。
「どうしようかアナタの意見が聞きたいわ」
そう言うと千佳は樟葉の口にはっていたガムテープを勢いよく剥がした。
「…っ!?」
あまりの勢いに彼女は痛みに我慢できず、軽く悶えた。「アナタの悶える声も良いけど、今アタシが聞きたいのはアナタの意見よ。早く言いなさい」
「堺君には何もしないで…」
「ふ〜ん、じゃあアナタには何してもいいのね?」
「えっ?」
「爪と肉の間に裁縫針を刺したり逆さ釣りにして冷水ぶっかけた後割れた竹刀で殴打したり洗濯板の上に正座させて足の上に重石をのせたり手足を錐で貫いたり金槌で潰したり焼けたフライパンを身体中に押し付けたり包丁でズタズタにしたり腹を開いて腸を引きずり出したり…何してもいいのね?」
千佳は耳まで裂けるのではないかと思うぐらい口を歪めた。それを見た樟葉の顔からは血液がサッと退いた。
「イヤ!やめて!そんなのイヤ!」
「黙れ、じゃあまずはこの五寸釘を右手小指第一関節から…!」
「イヤァァァァァァ!」
「おっ、樟葉からだ」
『遅くなってごめんね(>人<)今まで寝てたから返信遅れちゃった…(-_-;
大丈夫だよ!すぐに治して行くからね( ̄▽ ̄v』