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ヤンデレ  作者: 呉武鈴
4/6

壊れた心

「やっと二人っきりになれたね…」

僕―永倉太一は拘束されていた。正確に言えば帰宅中に何者かに首にスタンガンを押し付けられ、次に気が付いた時には見慣れない天井と見慣れないベッドの上に四肢を縛られて寝かされていた。そして僕が目覚めてすぐにドアから同じクラスの長谷川美琴が入って来た。

「は、長谷川さん?ここは?」

「わたしの部屋だよ」

即答。

「な、なんでこんなとこに?」

「道に倒れてたのを見たから安全な所に運んできただけだよ」

即答。

「じゃあどうして僕は手足を縛られて動けないようになってるの?」

「だって縛ってなかったらすぐに帰っちゃうでしょ?」

即答。

「な、なんで?」

「大好きだから」

悪びれもなく即答。

「それだけじゃダメかな?」

まるで世界が全て正義だと信じてる子供のように微笑みながら彼女は言った。

「理由になってないよ!僕はなんで手足を縛られてるかが知りたいんだよ!」

そうゆうと彼女は腕を組み首を傾げ考えこんでしまった。数秒考えた後、彼女はにっこり笑いながら僕の方を向いた。

「簡単に言うと誰にも邪魔されたくなかったから、二人っきりになりたかったからかな?」

「それだったら僕に『話がある』って言えばよかったよね?」

「話があるんじゃなくて、ただ太一君とずっと一緒にいたいんだよ」

僕は直感した。

―何かがおかしい―

そう思うと同時に友人の川神の言葉を思いだした。

『絶対に一人で帰るな。必ず俺に言え』

こうゆうことだったのか。川神は全てとは言わないが長谷川がおかしくなっていることをしっていた。

「ところで今何時?」

「わたしと太一君が一緒にいる。それだけで充分だよ」

遠回しに言っても無駄のようだ。

「そろそろ帰りたいんだけど」

「それはダメ。わたしは太一君といつまでも一緒にいたいんだよ」

冷たく突き放したらどうなるか分からない。でも遠回しに言っても無駄だろう。「どうしてそんな難しい顔してるの?」

僕が必死に言葉を探してると彼女は顔を覗き込みながら尋ねてきた。

「いや…」

言いよどんでいると長谷川さんは何か納得したような顔をすると嬉しそうにこう言った。

「わかった!言葉にするのが恥ずかしいからそんな顔してるんだ!大丈夫!私は太一君のためならたとえどんな激しいことだろうとしてあげるから!そう…どんなことだって…」

そこまで言うと頬を赤く染めて焦点のあってない目で天井を見つめた。

「…いい加減にしてよ」

「えっ?」

「僕のことが好き?いつまでも一緒にいたい?どんなことでもしてあげる?僕はそんなこと望んでいない。僕は自分の好きになった人と一緒にいて、その人と幸せになりたいんだ。長谷川さん、いや君は僕に主体性を与えずに一方的に愛してるだけだ。その先には幸せなんてない。あるのは苦しみと悲しみだけだ」

「しょうがないよ!!太一君がスキなんだもん!!世界の誰よりもスキなんだもん!!もう手段とか選んでられないほどスキなんだもん!!」「だったら…なんで直接僕に言わなかった?」

「っ!?それは…」

僕の言葉に長谷川さんはたじろいだ。そしてうつ向き黙ってしまった。

「直接僕に言えば僕だって君を好きになれたかもしれない。でもそんなことをしなかったから君は僕に嫌われた。君を好きになる機会は君によって失われた」

「…うるさい」

うつむく長谷川さんの頬に一筋の水滴が流れた。

「わたしがどんな気持ちでいたか分からないくせに分かったような口きかないでよ!わたしは怖かったの…いつも太一君のそばにはたくさんの友達がいて、わたしが告白してもわたしじゃなくてみんなを選ぶことが怖かったの!…だから、だから」

そのまま僕の胸の上で泣き出してしまった。

「うわぁぁぁぁぁ…あぁぁ…ひっ…あぁぁぁぁぁ!」

「君が手を縛ったせいで僕は君の涙を拭うことさえ出来ない。悲しむ君を優しく抱きしめることも出来ない。君が悲しむのを黙って見ていなければならないのが悲しい」

その言葉を聴いているかどうかは分からないが僕は長谷川さんに素直な気持ちを言った。


やがて落ち着いたのか泣き声を上げずにすすり泣き始めたのを確認してから僕は彼女に話し掛けた。

「だからやり直そう」

「…ひっく…えっ?」

その言葉を意外と思ったのか長谷川さんは泣き腫らした顔を上げて僕を見た。

「今日のことはなかったことにして明日からいつも通りの日々に戻ろう」

「……」

長谷川さんは黙って僕の話を聴いていた。

「そして明日でも明後日でもいつでもいい。僕に告白すれば」

「…で…いの?」

「えっ?」

「…なんでそんなに優しいの?」

僕を見つめる長谷川さんは泣きそうになりながら訊いてきた。そんなのは決まっている。たとえ鈍い笹倉だろうと僕の彼女に対する気持ちは分かるだろう。

「好きだったからだよ。いや好きだから方があってるかな」

僕の台詞に長谷川さんは驚いたのか口を半開きにしながら僕を見つめた。

「去年の文化祭を覚えてる?あの時僕のクラスの出し物だったボウリングで君を対応したときに君の姿、声、雰囲気に惹かれたんだ。でも仕事が忙しくて君の名前を聞くのを忘れちゃったんだ。それから大変だったよ。なんせ君のクラスはもちろん名前すら分からなかったんだから。諦めかけたら今年、同じクラスになって話す機会が出来た。友達にもなれた。でもいざ伝えようと思ったら話しかけることすら出来なくなった」

「…同じ」

「何が?」

「私も太一君と同じだった。去年の文化祭で太一君のクラスに行った時に対応してくれた人が親切でいい人だなって思ったの。それから毎日その人のことばっかり考えるようになった。それから太一君のクラスにいる友達に訊いて名前を教えてもらったの。でも会う時間もなくて半ば諦めてたら同じクラスになれた。友達にもなれた。でもいざ想いを伝えようと思ったら急に恥ずかしくなってダメだった」

彼女も僕と同じで怖かったのだ。フラレたらどうしようと。今までは友達として話せたけどダメだったら話すことも会うこともダメになる。それがイヤだったんだ。

「僕たちって両想いだったんだ」

「…うん」

僕を見る彼女の顔にはもう涙なんてなかった。悲しみなんてなかった。あるのは喜びだった。笑顔だった。僕はそんな彼女を見ながら川神がその後に言ってた言葉を思い出した。

『人が壊れるのは人に想いが届かない時だ。だがその想いが届けば、あるいはその人が気付けば人はまだ人として生きていける』

あの時は何のことか分からなかったが今なら分かる。長谷川さんの心と僕の心が繋がったのだから。


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