禁忌
「兄さん…!!なんで私の愛を拒絶しておいて紫苑さんのは承諾するんですか…!」
そう言いながら実の妹である菜緒は椅子に縛りつけられた俺、深瀬紳助を睨みつけていた。
「一体何の事だよ!?てゆうかこれさっさとほどけよ!」
「私の質問に答えて下さい!なんで私の告白は断っておいて紫苑さんのは受けたんですか…!」
「お前には関係ないだろ!いいからさっさとほ―」
「関係あります!!どうして…私が兄さんをこの世で一番愛してるのにどうして私の気持ちに気づいてくれないんですか!?」
言いたいことは分かる。だがそれは間違っている。そのことに菜緒は気づいていない。いや気づいてるが認めたくないのかもしれない。
「俺はお前を愛している。それはま―」
「それは『家族』としてでしょう!私はそんな小さな存在にはなりたくない!私は…私は兄さんの全てになりたいんです!どうしてわかってくれないんですか!?」
俺の言葉を封じ到底俺には理解できないことを言った菜緒は泣いていた。まるで駄々をこねる幼児の様にその目は潤んでいた。
「それは違う」
そのたった一言で全ては終わる。菜緒が廃人になるかならないかの違いはあるだろうが確実に終わるだろう。
「…しょうがなかったんです…兄さんが振り向いてくれなかったから…」
「菜緒、お前のやってることはま―」
「何も間違っていません!これは必然です!」
結論を言う前に菜緒は俺の言葉を最後まで聞かずに自分の行為を肯定した。
「何で分かってくれないんですか、兄さん!?」
普通に話し合っていれば何もなかっただろう。だがその時俺はあまりのしつこさに自分でも驚く程いらついていた。
「分かるわけないだろ…!俺とお前は血の繋がりをもつ実の兄妹なんだぞ!『家族』以外の愛しかたなんてありえないんだよ!」
「兄さん、それは一般論です!何で自分に素直になれないんですか!?」
「なれるわけないだろ!俺は紫苑のことをあ―」
「あの女のことは言わないでください」
今までの菜緒の声とは違いまったくと言っていいほど感情が感じられなかった。そのおかげで俺は落ち着けたが同時に恐怖すら感じた。
「兄さん、あんな女の話をしないでください。兄さんには私がいるんですから…!」
そう言うと菜緒は俺に顔を近付けてきた。
「そう…私がいるんですから…」
そのまま俺の頬を両手で押さえ俺の唇と自分の唇を重ね、そのまま俺の口の中に舌を押し込みかきまわす。どのくらいたっただろう?菜緒は息切れするぐらいそれを続け、離した時に名残惜しそうに俺の唇を見てから自分の唇を指で撫でた。「大丈夫ですよ、兄さん。すぐ兄さんの一番になりますから…」
そう言いながら菜緒はまるで恋人と向かいあったみたいに頬を紅潮させて俺に微笑んだ。だが俺は気づいた。菜緒の瞳にはうっすらと殺意が渦巻いていたことに…