愛ゆえの狂気
「愛してる愛してる愛してる愛してる……だから―貴方が欲しい」
学校からの帰り道。逃げる俺、山下亮を幼馴染みの春日がセーラー服を真っ赤に染めて手には同じく真っ赤に染まった包丁を持ち虚ろな目をしながら追っかけてくる。
「どうしたんだよ!?なんで包丁なんてもってんだよ!?」
「貴方さえ手に入ればワタシは何もいらない…」
何かがおかしい。いつもなら他愛もない話で笑いながら帰るのに、今日はこんなことになっていた。
「だから邪魔者はいなくなればいい」
そんなことを言いながら薄く笑っている春日は既に幼馴染の春日ではなくなっていた。
「なんで逃げるの?もしかして由香のこと心配してるの?だったら心配ないよ。由香はちゃんとかえったから」
由香は俺が数日前に告白してOKをもらったクラスメートだ。家が近いから由香とは一緒に帰る約束をしていたが由香が来る前に既に狂ってる春日が来たためにこうなってしまっていた。由香のこと心配してる?ちゃんと帰った?そんなはずはない。由香のはいっているソフトボール部はまだ活動してるはずだし、なによりさっきまで俺は由香が部活をしてるのをこの目でみていたのだから。
「だから一緒に帰ろ」
真っ赤に染まったセーラー服を着てさらに包丁を持ちながら追いかけてくる女の子と一緒に帰るのは何があってもごめんだ。
普段ならこれくらいの皮肉を言うことぐらい出来ただろう。しかしそんな余裕は俺にはなかった。
どのくらい逃げただろう…気が付いたら俺は自分の部屋のベッドで横になっていた。
「…夢か」
そりゃそうだ、いつも穏やかな春日があんなに狂うなんてありえない。夢だからあんなことになったんだな。
そう納得しようとしたが現実は残酷だった。
「な!?なんだ!?」
手足を縄で縛られベッドから体が起こせないように体もしっかりとベッドに縄で縛られた。
「あっ、やっと起きた」
ベッドの側に赤く染まったセーラー服を纏った春日が虚ろだがしっかりと俺を見ながら微笑んだ。
「春日、これをほどいてくれ!」
「どうして?」
そう言った瞬間春日は顔をうつ向けながら呟きはじめた。
「…えっ?」
「どうしてそんなこと言うの?」
「か、かす―」
「どうしてそんなこと言うの?どうしてワタシを見てくれないの?どうしてワタシを無視するの?どうしてワタシと距離をとるの?どうしてあんな女がいいの?どうしてあんな女の作ったお弁当なんて食うの?どうしてワタシよりあんな女のことを好きなの?」
「お、おちつ―」
しかし俺の言葉が聴こえないのか春日の言動は少しずつエスカレートしていった。
「あの女は邪魔だ―なら、あんな女なんていなくなればいい!死んじゃえばいい!殺しちゃえばいいんだ!アハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
狂ってる!これが春日なのか!?昔から一緒にいることが多かった春日なのか!?
「春日、早くこれをほどけ!」
「ほどいたらどうするの」「きまってんだろ、ゆ―」「言ったでしょ?由香はちゃんとかえったって」
「それはありえない!俺が帰る10分前に由香は部活してんだよ!最終下校時間までまだ余裕があった!まだ部活をしてるやつがどうやって帰ったんだよ!?」
そう言うと春日は薄く笑いながら俺を虚ろな目でしっかりと見た。
「亮くんは勘違いしてるよ」
「何をだ!?」
「ちゃんと由香は還ったんだよ―土にね」
「なっ…!?」
あまりの春日の発言に俺は言葉を失った。
「だから邪魔者はいなくなったの」
春日は二の句を告げない俺の顔を自分の顔を近づけながら、優しく、そして残酷に言った。
「これからはずっと一緒だよ。だからもう何処にもいかないでね…そしてワタシだけを見ていて…」




