メリークルシ(ミ)マス
クリスマスの話と言うとハッピーなものが多いので、敢えてホラーな話もいいと思って書いてみました。
楽しいクリスマスの気分を害したくない人は、読まない方がいいかも知れません(笑)
僕は群馬県乞楽郡苅磨町にある5階建ての市営団地の5階に住む、中学3年生で1人っ子の馬飼悠斗だ。
苅磨町は人口約2万3千人の小さな田舎町だが、昔からクリスマスに因んだオカルトじみた都市伝説がある。
昔は惡磨町と言う地名で魔界と繋がっている町だとされ、12月25日のクリスマスには、魔界からサンタに扮した夢魔が妖魔ナイトメアに乗って、悪い子供達に冥土の土産ならぬクルシミマスプレゼントを届けに来ると言うものだ。
毎年ではなく、1552年から西暦の数字を足して縁起の悪い数字である4、9、13、17、666になる年の12月25日に魔界から降臨すると言われているが、666になる年はないから実質4、9、13、17になる年なので、そうなると1552年以降は2002年と2007年が該当するが、この年のクリスマスには何も不可解な事件は起きなかったので、ただのご当地怪談扱いされているのが現状だ。
元を辿れば1552年の12月25日に、苅磨町で有名だった13歳の悪ガキ大将が、夜中に部屋の中で原因不明の死を遂げたのが事の発端だが、1552年は日本にクリスマスが初めて入って来た年だと言うのもあり、後になって誰かがこじ付けて広めた作り話だろうと言う説が濃厚だ。
現に12月になると、毎年この話でクラス中が盛り上がる訳だが、あくまでサンタの話をするノリでだ。
悪魔のサンタクロースだからサタンクロースと呼ばれていて、「お前は普段の行いが悪いから、サタンクロースが来るんじゃね?」「いや、次に来るのは2025年だから、その時は18歳で今年から成人と見なされて大人扱いされるんだから関係ないだろ」的な会話が周りのあちこちでされているが、友達が居ない僕は1人黙ってそれを聞いているだけで、毎年クリスマスは家でケーキとチキンを食べて、両親からクリスマスプレゼントを貰って終わるだけの日だ。
大体、家でクリスマス行事を行うのは25日ではなく24日のクリスマスイブだから、25日のクリスマス当日は普段の日と何も変わらない訳だが。
そして、クリスマスイブの1日は例年通りに過ぎて、両親から貰ったクリスマスプレゼントのゲームソフトを夢中になってプレイしていたら、母親から「いつまで起きてるの!もう遅いから寝なさい!」と言われて時計を見たらもう11時を回っていたので、慌ててゲームをやめて電気を消して布団に入った。
しかし、僕が沼にハマってるシリーズ最新作のMMORPGをプレイして興奮状態に陥っていたからかなかなか寝付く事ができず、時計を見たら既に12時を回っていた。
ようやく眠気が襲って来てうとうとし始めて来たら、突然窓から眩い程の青い光が差し込んで来て一気に目が覚めた。
折角眠りに就ける所だったのに何だよと思いながら何かの流星群かと思って、起き上がって外を確認しようとカーテンを開けようとした瞬間に光は消えたが、窓の外を確認したらおぼろげに人らしき者の姿が見えた。
ここは5階だから人が居る訳ないよなと思って、布団に入ろうとして後ろを振り返ったら、腰まで伸びた長い白髪と胸元まで伸びた白髭を垂らした、サンタの格好をした穏やかな表情のお爺さんが布団の上に立っていた。
僕は余りの衝撃に声が出なかった。
僕は夢でも見ているのかと思って、目の前の現実を受け入れられないでいた。
この世にサンタが居る訳ないし、仮に居たとしても起きてる時にはプレゼントを持って来ないだろう。
まさか、サンタの格好をした泥棒か!?
子供達にクリスマスプレゼントを配り廻るサンタの格好をして、逆に人様の家から盗み廻る事をしてたらサンタに対する冒涜だ。
僕は昔から冷めた性格でサンタの存在を信じていなかったから、サンタへの思い入れは一切ない訳だが。
親は寝てるのか!?鍵をこじ開けて入って来たのか!?
様々な考えを巡らせている内に、サンタコス爺が穏やかな口調で話し始めた。
「どうやら、動揺して声が出ないようだな。まあ、無理もない。それが普通の反応だからな。だが、私は泥棒ではない。そもそも既に死んだ身だから、実態はないしな」
何を言ってるんだ、この爺さんは。酔っ払いか?て言うか、僕の心が読めるのか!?
そんな僕の混乱をよそに、サンタコス爺は真剣な表情になって僕の疑問に答えた。
「こんな事を言っても信じてもらえないかも知れんが、私は黄泉の国から来た霊媒師だからな」
益々頭の中が混乱した僕に、サンタコス爺が僕に迫って来た。
ぶつかると思った瞬間、僕の身体を擦り抜けた。
「論より証拠。これで、私が幽霊だと信じてもらえただろう」
泥棒ではないと分かった途端、興奮状態に陥った。
何故なら、幽霊や宇宙人の存在は昔から信じていたからだ。
思わず笑顔が溢れて幽霊サンタに質問した。
「な、なで(何故)、ちんだ(死んだ)ひど(人)がシャンタ(サンタ)のかっこ(格好)して、ぼぐ(僕)のへ(部屋)に…」
信じていた存在に出会えた嬉しさで興奮しているのもあるけど、一言以上の会話をするのが久し振りだったのもあって上手く呂律が回らなかった。
「私は人の心を読む事ができるので、無理して話さずとも君の思ってる事は分かるからね。サンタの格好をしてるのは今日がクリスマスだからだよ」
やはり、僕の心が読めるのか!これは凄いや!
幽霊サンタが神妙な面持ちで話し始めた。
「私は室町時代に生まれたんだが、半世紀生きて死を実感するようになって、まだまだこの先ずっと生き続けていきたいと強く願うようになって霊媒師になる為の修行を始めた訳だが、完全に憑依を極められる所まで来たのに後一歩と言う所で落雷を受けて死んで、初めに憑依を試した13歳の子供を失敗して死なせてしまったからな」
13歳の子供って、都市伝説の原因はこの人だったのか!でも、何故悪ガキ大将が標的に?
「悪ガキ大将を標的にしたのは成功するか分からなかったから、初めに試す実験台としては丁度いいと思ったからだよ。他人に迷惑を掛けるような人間は生きてる価値がないから、モルモットとして利用しても別に問題ないだろ。その穢れた身体を有効活用してやろうと言うんだから、寧ろ感謝されるべきだからね」
確かにいじめっ子は万死に値するとは言え、他人の身体を乗っ取ってその人間に成りすまして生きていこうとするのは普通じゃないな。
幽霊サンタは、また穏やかな表情に戻った。
「私は普通の生き方なんて最もつまらないと思ってるからね。人生楽しんだもん勝ちだよ」
「あなたの生き方にとやかく言うつもりはないですけど、自己の生欲を満たす為に他人に憑依すると言う事は、あなたも他人に迷惑を掛ける人間と同じなのでは!?」
僕は怒りの感情が湧き上がって来たので、自分でもびっくりするくらい流暢な早口で思わず口を衝いて出た。
「先程も言ったろう。人生の大先輩が、生きてる価値のない人間を有効活用してやろうと言うのだ」
「なら、何故僕の所へ来た!?自分で言うのも何だが、僕は人に迷惑を掛けるような生き方はしてないぞ!」
「2回目に憑依に成功してからは、その人間の命が尽きる度に他の人間へと乗り換えて今日まで生きて来た訳だが、長年憑依を繰り返してる内にある事に気付いてね。君みたいな人付き合いのない人間に憑依するのが一番楽だと」
僕は言葉を失った。
1552年以降に不可解な死が一切起きなかったのは、そう言う事だったのだと瞬時に理解したからだ。
急に身震いし出して部屋の外へ逃げようとしたが、腰が抜けて立っていたその場に崩れ落ちて、恐怖で声も出なくなってしまった。
怯えた表情の僕を見て、幽霊サンタは笑顔で僕に最後通告を告げた。
「これからは私が君として生を全うする訳だが、君自身は意識がなくなるだけで死ぬ訳ではないから、いつか命尽きるその日まで宜しく頼むよ」
メリークルシ(ミ)マス。。。
前書きの注意喚起を押し退けて、後味の悪いバッドエンドなクリスマスの話を読んで下さって、本当にどうもありがとうございました。
もし宜しければ、感想など頂けると嬉しいです。
メリークリスマス♪