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インスタント彼女

作者: 小鳥遊 悠治

 最近、インスタント彼女が流行っている。彼女いない暦=年齢の人が年々増加しているから作られたとか単なる娯楽目的で作られたとか彼女がいないなら作ればいいじゃないと誰かが言ったから作られたとか、いろいろな噂があるがとにかくそのワードを見聞きしない日はない。

 一個五百円というクリエイター涙目の価格だが、試しに一つ買ってみた。うーん、見た目はただのマネキンだよなー。でも、彼氏になる人の体温を感じると理想の彼女になるらしい。僕は恐る恐るマネキンの手を握った。すると、身長やら顔の大きさやら胸の大きさやらとにかくいろんなところが変わり始めた。髪が生えてくるところを見た時は髪が伸びる日本人形を思い出した。しかし、体から服が生えてくるところを見た瞬間、そんなことなどすっかり忘れてしまった。


「……えーっと、なんで僕の初恋の人そっくりなんだ?」


 先ほどまでマネキンだったものが目を開ける。彼女の黒い長髪と黒い瞳と白い肌と今にも折れてしまいそうな四肢と小柄な体型と明らかに体から生えてきた制服は間違いなく当時の彼女のものだ。うーん、たしかに付き合いたいと思ったことはあったけど、正直高嶺の花だったんだよなー。


「はじめまして! あなたが私の彼氏なのかな?」


「え? あー、はい、一応そうです」


「彼女に敬語なんて使う必要ないよ。えっと、君の名前はなんていうの?」


「あー、僕、名前がたくさんあるので彼氏くんでいいです」


「そっか。というか、君はスパイか何かなのかな?」


「まあ、そんな感じです。なので名前が複数あるんです」


「ふーん、そうなんだー。まあ、私にとってはどうでもいいけどね!!」


 どうでもいいんだ。


「あっ、そうだ。ねえねえ、私の名前どうするー?」


「え? あー、そうですね」


「彼氏くん、敬語はなしだよー」


「あっ、そうでし……そうだったな。じゃあ、なっちゃんで頼む」


「なっちゃんかー、君の初恋の人の名前だね」


「え? なんで知ってるんだ?」


「あんまり詳しいことは話せないけど、私たちを作った人じゃない何かが私たちにいろんな機能を搭載してくれたんだよ。だから、彼氏くんの個人情報なんてすぐ分かるんだよ」


 えー、なんか悪用されそうで怖いなー。


「大丈夫だよ。私たちはそういう人たちのところに行くと駆除システム発動するから。あっ、ごめん。勝手に心読んじゃった。でも、彼氏くんはこの程度で私のこと嫌いになったりしないよね?」


「え? あー、まあ、そうだな」


「だよねー。じゃあ、まず何からする? デートする?」


「うーん、じゃあ、近くの公園まで行こうか」


「分かった! じゃあ、私は玄関で待ってるから!!」


「ああ、分かった」


 あの子はこんなに明るい感じではなかったけど、僕はきっと彼女にこんな風になってほしいと願っていたんだろうなー。僕は身支度を整えるとテーブルの上にある腕輪ギアを手に取った。僕はそれを左手に装着すると彼女の元へ向かった。


 *


「うわー! 紅葉の葉っぱ、いっぱい落ちてるねー」


「そうだなー」


 昨日の雨のせいでだいぶ葉っぱが落ちてしまったが、天然の真っ赤な絨毯は彼女の心をときめかせている。


「ねえねえ! 彼氏くん! 写真撮ろうよ!!」


「写真? ああ、いいぞ。どこで撮る?」


「うーん、じゃあ、噴水の近く!!」


「分かった」


 今、この広場にいるのは僕たちとネコくらいだが、ここからさほど遠くないところに僕を狙っているやつらがいる。まあ、それはさておき。


「笑って笑って! はい! チーズ!!」


 彼女は端末で写真を撮ると僕にその写真を見せてくれた。


「あははは! 彼氏くん、半目だー」


「え? あー、本当だ。よし、撮り直そう」


「うーん、これはこれでいいんじゃないかな? 私たちが恋人同士になって初めて撮った写真だから」


「そうだな。よし、そうしよう」


「ありがとう。よおし! この調子でどんどん行こう!! あっ、その前にお手洗い行ってくるねー」


「おう」


 さてと……どうしたものかな。今すぐ消すべきか……気づいていないフリをするか。


「クチュン!!」


「……え?」


「あー、ごめん。くしゃみ出ちゃった。じゃあ、今後こそお手洗い行ってくるね」


「お、おう」


 あれ? やつらの生体反応が消えたぞ? いったい何がどうなってるんだ?


 *


「おまたせー。じゃあ、行こうか」


「ああ、そうだな……って、行き先決めてないじゃないか」


「あー、そうだねー。うーんと、じゃあ……」


 彼女が最後まで言い終わる前に彼女の腹の虫が鳴った。


「あ、あはははは……私、お腹空いちゃった。少し早いけど、お昼にしない?」


「そうだな。そうしよう。何が食べたい?」


「うーん、とりあえずファミレスのメニュー表見てから決めるよ」


「分かった。じゃあ、行こうか」


「うん!!」


 *


 ファミレス……禁煙席……。


「ねえねえ、彼氏くん」


「なんだ?」


「どうして禁煙席にしたの?」


「今はほとんどその症状は出ないけど、ぜんそく持ちだからなのとタバコのにおいが嫌いだからだ」


「へえ、そうなんだー。まあ、知ってるけど」


「知ってるのかよ。で? 結局何にするんだ?」


「うーん、そうだなー。彼氏くんと同じものにするよ」


「そうか」


 僕はテーブルのそばにある端末でチーズ入りハンバーグの洋食セットとドリンクバーを選択し、注文した。もちろん二人分。


「おまたせしました! チーズ入りハンバーグの洋食セットです!! こちら鉄板が大変熱くなっておりますのでやけどしないように気をつけてください。ごゆっくりどうぞ!!」


 ロボ店員はそう言うとさっさと厨房に行ってしまった。


「飲み物、何にする?」


「彼氏くんと同じものでいいよー。あっ、でも、炭酸はNGだよ。舌がピリピリするの苦手だから」


「分かった」


 僕が味薄めのオレンジジュースをコップに注いでいると標的にしか当たらない弾丸が飛んできた。僕はそれを回避せず頭に空洞を作ってそれを通過させた。放っておくと自動追尾してくるため僕は右手にそれを食べさせた。右手はおいしそうにそれを食べている。うん、やっぱり僕は人間じゃないな。


「ただいまー」


「おかえりー! さぁ、早く食べよう!!」


「ああ、そうだな。じゃあ、いただきます」


「いただきまーす!!」


 彼女との食事が終わるまで例の弾丸が何回か飛んできたが、僕はそのたびに自分の体に食べさせた。


「あー! おいしかったー! また来ようね!」


「……ああ」


「どうしたの? 返事するの微妙に遅かったよ」


「え? あー、まあ、ちょっとな」


「あのね、私あなたのことなら何でも知ってるんだよ。あなたの体のこともいろんな人たちに狙われていることも、そしてあなたに自殺願望があるってことも」


「自殺願望……か。まあ、あるちゃあるな。でも、お前と出会った直後からそれは少しずつなくなってるな」


「そしてそれと同時にあなたは今、こう思い始めている。私と一緒に生きていきたい」


「すごいな、そんなことも分かるのか」


「当たり前だよ。私、あなたの彼女だよ? それくらい分かるよ」


「そうか。でも、僕といると不幸になるぞ」


「不幸? 私今、とっても幸せだよ」


「えーっとだな、きっとやつらは僕だけじゃなくてお前も消すつもり気だ。だから」


「大丈夫。私もあなたの同類だから」


「え? 同類? それはいったいどういう」


 僕が最後まで言い終わる前に全てを殺せる呪力が込められたミサイルが彼女の背中に直撃した……が彼女はピンピンしていた。


「ほら、この通り。まあ、私たちの仕組みを知っているのは作者だけだから、私たちが何なのかはさっぱり分からないんだけどね」


「そうか。まあ、でも、恋人が死なないっていうのはいいものだな」


「でしょー? あっ、ちなみにインスタント彼氏もそんな感じだよ」


「そうなのか。というか、それまだ売られてなくないか?」


「売られてるよ。まあ、その情報は女性にしか届かないから知らないのは当然だね。あっ、ちなみにインスタント彼女もしくはインスタント彼氏を買うとその規制はなくなるよ」


「そうか。まあ、その、なんだ……。こ、これからも僕と一緒にいてくれないか?」


「うん、いいよ。これから思い出いっぱい作ろうね」


「ああ、そうだな」


 こうして僕は彼女と共に生きることになった。結婚はまだ考えていないが、そのうちするかもしれない。彼女以上の女性はこの先現れないと思うから。

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