表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/7

n+a通目(終)

 親愛なるお兄様


 わたしは忙しくも、日々壮健に過ごしております。

『カドノ=アン』としてこの地にあり、あしたにデンシャに揺られて働きに出、夕べにはひとり静かに眠りにつきます。

 夢にそちらの国は出てこなくなりました。あの戦の……わたしが如何にして倒れたかも、思い出せなくなってきました。大変無礼なことではありますが、わたしの従者だけでなく、お父様、お母さま、そしてお兄様の顔も思い出せないのです。


 これはわたしの憶測でしかありませんが、わたくしが『カドノ=アン』の記憶を引き出す度、彼女の記憶がわたしの記憶を塗り替えているのではないでしょうか。この地で暮らすためとはいえ、わたしわたしの記憶と引き換えに、彼女の記憶を呼び出していたのだとしたら……。

 嗚呼、わたしはなんて恐ろしいことをしていたのでしょう。

 このまま何もかも忘れていくと、わたくしわたくしでなくなり、『カドノ=アン』がわたし自身の代わりとして生きていくのではないか。

 わたしは恐怖しました。


 忘却を恐れ、悲しみに暮れ、自身の責務をすっかり投げ出した日もありました。

 ですが、今私わたしを助けられるのはわたし自身だという事実を取り戻し、先日漸くカイシャに戻った次第です。


 わたしわたし

 この地より、私の故郷、ガドゥルンド王国に還る術が見つかるまで、なんとしても、皆との思い出を消し去らず、日々の営みの灯を絶やさないという、わたし自身の戦いに身を投じていこうと、心に決めました。


 いつかきっと故郷に帰るまで、わたしは忘れません。

 その為に、わたしはこの届く術を知らぬ手紙たちを、綴り続けて行こうと思います。

 ですからお兄様。この世界より帰還するその日まで、わたしの名を覚えておいてくださいまし。



 アンより



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ