五通目
親愛なるヤヌクルギスお兄様。
本日はこの国でいう『キンヨウビ』。安息日の前日です。
給金が入りましたので、『エイギョウ・ジム』のシュッシャ帰りに、大衆の集う酒場で麦の酒と季節の料理を嗜んでまいりました。今は果実酒を傍らに、文をしたためております。
暦が365日に分けられ、その更に7日を1周とした区切りにあり、シュッシャ──カイシャに赴くことをするのは5日。残り2日が私にとっての安息日となります。
ガドゥルンドで公務をこなしていた頃、安息というものはありませんでしたが、今となってはこの2日の安息日こそ、私にとっての安らぎになりつつあります。
大衆の中にまぎれ、透明の器に注がれた酒を飲むにつれ、私も民として暮らす様が板について来たように思えてまいります。
週末というものは不思議な雰囲気です。この時間になると民は酒に頬を赤くし、時には酩酊し、千鳥足で家路につくのです。
こちらに私ひとり、そちらでは考えられない程小さな部屋で暮らしています。
先日もお知らせしました通り、様々な仕掛けが据え置かれておりますので、不自由はございません。
寧ろ私は、この慎ましき営みを楽しんでおります。
夜が明けたら、安息日です。
シュッシャはありませんので、特になにもなければ、太陽が昇っても寝過ごしてしまう時があります。
いつもより遅く起き、私は自身のために働くことを決意するのです。
侍従などおりませんから、身の回りの事はすべて自分でせねばなりません。
炊事、洗濯、掃除。
今までしてこなかった一切をしていくにつれ、給仕長のベアや、ハンナ、料理長のドッド、そしてヨセフ爺やの苦労がしのばれます。
家の事は概ね『カドノ=アン』の記憶をたどり、魔道具を駆使しています。
ですが『カドノ=アン』自身は、かなりおおざっぱな者であり、片付けや炊事があまり得意ではない様子で、私の記憶と経験をたよりに改良しながら暮らしています。
たまに失敗はありますが、これも学びのうちだと落ち込まずにいます。
安息日2日間は寝ていることも多いのですが、2日目の昼過ぎには買い物に出かける事もあります。
外食が多い毎日ですが、この建物に住む民や近隣の者たちから様々な料理を教わり、実践しております。
焼き菓子しか作れなかった私が、遠い異国の地で料理をするなど、皆が驚くでしょうね。
明後日には、こちらで知り合った婦人たちと、大衆酒場で会食をいたします。
ですから、明日のうちにできる事をせねばなりません。今宵は果実酒もほどほどに、床に就こうと思っております。
帝国との戦後処理は進んでいるのでしょうか。
お優しいお父様のことですから、兵や民の力になる交渉をされていると思います。お兄様も苦労が絶えない事と思いますが、どうぞご自愛くださいますよう。
あなたの妹・サンロッテ=アン=ガドゥルンドより