表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

枯れた英雄




「じゃ、さっさと戻っておっさん殺ろう」

「大賛成!」


豚が落としたものを取りつつ二人は言う。

化け物が落としたアイテムは、どうやらウィンドウに入れられることがわかった。

ウィンドウが出た中に実物を入れればいいのだ。

戦闘にも便利だ。


おっさんに閉められた扉は思ったよりも軽かった。

あの豚は入れないのでは無く、入りたくなかったと見える。

――ここにそこまでの思いがあるもんなのかね……人の感情ってのはわかんねえもんだ…あ、化け物か。


「おいオッサン!!!」

「出てきなさい!!!」


……もぬけの殻である。誰もいない…

グラも薄々きずいていたはずである。

どこかに逃走経路でも予め作っていたのであろう。

流石に捨て台詞を言ってまた会うとはきまりが悪すぎる。

これによって次、二人とあったときがおっさんの命日と決まった。


「次、遭ったら殺すわよ…」

「無論!」


もはや人を殺すことに二人はなんとも感じなくなっていた。


と、突然グラはレギーナのに声をかける。

「なぁ、その像、触ってくれねえか?」

「嫌よ、どっか行っちゃうじゃない」

「俺も帰ってこれたんだから大丈夫だよ!」



というわけで像の前である。

「じゃ、じゃあ触るわよ?」

そう言ってレギーナは恐る恐る。本当に恐る恐る触ろうとし……

体をできるだけ引きながら手を目一杯伸ばし……


ようやく触れる。

しかし何も起きない。只々、腰の引けた女性が銅像に触れているだけだ。

「な、何も起きないわよ?」

「え?おかしいな……」

「なんかここに書いてるわよ?」

レギーナに近寄り、ちょうど銅像の足元を見る。

――えーと?なになに?

『汝、刀を持ちて触れ給え。さすれば心に届きえるであろう』


――つまり刀を持ったまま触れろってことか…じゃあ

グラはレギーナの腕を掴みそのまま銅像に触れた。


果たしてなぜ管理者はここの鍵とも言えるものを持っていたのだろうか。




辺りは薄い霧。先の時よりも幾分かマシであるように見える。

だからか見えていなかった家のようなものが目につく。

外装は小屋のようであり、屋根は赤い。

家の周りには彼岸花が見える。

空には月が満ちていた。


「ちょっと!!いきなりやめてよ!!」

「いや、だってもう一回って言ったらまた時間掛かりそうだったし…」


後ろから二本、白い手が伸びる。

やけに痩せこけたそれがふたり肩にに……

「「ギィャァーー!!」」


「おおすまない。驚かせるつもりはなかったんだかね……」

と伸びた手が、間違えた。老人が話す。


――背後からのそれは驚かせに来てるだろ。

とも思ったがグラは声にはしない。



「それで?何か用かな?」

ああ、そうだったと思い出し事の経緯を話す。

外で豚の化け物がいたこと、そいつを倒したこと、

そして戦闘後のこと、休ましてほしいこと…


「ふむ、把握した。お疲れ様じゃったな。そんでもって言うが、あんたら、特にお嬢さん。戦闘をなめとらんか?」


「は?」

想像だにしなかった物言いに思わずグラは馬鹿な声が出た。


―――俺たちが頑張って倒したその結果の言葉がこれか!

だいたいなめてるだと?こちとら死にかけてるんだぞ?!


「なんだと?!」

グラは思わず殴りかかった。

しかし老人のその外観からはわからないほど力が強かったようで

あっさり受け止められてしまう。

たとえ枯れかけでも英雄である。


「止めときなさい。こう見えても君らよりはずっと強いんだよ?不満があるのは最もだ。むしろ不満がないと合ったら問題だ」


グラが掴まれた拳を未だに退かさずにいると、不意にレギーナが腕を掴み、辞めるよう諭した。

「グラ、やめなさい。実際その通りよ。偶然。私達勝てたのはほとんど偶然だった。私が偶然、鎖出せて、偶然縛れただけ」


レギーナはそこで間をため、こちらの様子を見てくる。

俺の顔が普段通りに戻ってきたのを確かめ、話を続けた。


「次上手く行く保証はないわ。それに途中の作戦も時間がないとはいえしっかり練るべきだったわ。何より私が大声出したことが一番舐めてたって言うか深く考えてなかったを表してるしね」


たしかにそうだが…と声が詰まるぐグラ。


「おお、舐めてる割にわわかってるじゃないか」

爺ちゃんが口を挟む。


しかしそこまで言ってもやはり納得行かない部分があったようだ。

レギーナは顎に手の甲を当てながら話した。


「でも……だからってどうしたらいいのよ?もう舐めないけど、かと言って強くなれるわけではないわよ?」



突如として老人が神に拝むように両腕を上げた。

そのままま偉大なことを語るヒトラーの演説と同じくゆったりと、この世界はおのれが管理しているのだと主張するように悠々とそしてしっかりと語った。


「まず武器を強くしてやろう。

心が折れても動くような体にしてやろう。目の前の化け物に怖れをなさぬようになるまで精神を鍛えてやろう。この世界の知恵を授けよう。義務を妨げる化け物共を正面からぶった切るような技を教えよう。ここの人々の常識を見せよう。

もはや衰えて直接、殺し合うための技術を体感させられるほどまでの体は腐ってしまったがな。」


老人はそう語るがあの小屋にそのようなことができる設備はありそうにない

外から見てもお世辞にも新しく見えるわけではなく、正直なところくたびれている。


グラは怒涛の如く質問をする。

「どこで?」

「あの小屋で」

老人は後ろの小屋を指差す。

「誰が?」

「儂ともう一人が」

「鍛え方は?」

「今教えても仕方がないだろう」

「技は超常的な?」

「それもある」

「武器はどうやって?」

「化け物共の肉体を使う」


そう言って手をかざし、グラの質問を遮った老人の手にはいつの間にか俺たちが倒した化け物の肉体と片手斧、そして刀が自我を持った幽霊のようにゆらゆらと浮いていた。

グラは驚きのあまり、少しどもりながらまた質問をした。


「い、いつとった?それに浮いている?」

「秘密だよ」


そうして人差し指を口の前に持ってくる姿は年寄りにはもったいないほど様になっていた。

続けて老人が手を合わせ、化け物の肉体が砕けて朱い血が武器の周りを惑う。

そして斧と刀に吸収され…消える。

爺ちゃんはそのまま手を突き出して武器二つをグラによこす

「ほれ。お前さんも視えるはずだろ?見てみろ」


グラはなぜ知っているんだと思いつつも視線を武器に向けた。


❑❒❑❒

罪食みの武器


本来は形を持たぬ武器なり

能力✜不滅、吸血


❉❊❉

強きは血であった。体であった。

しかしそこに潜む虫は呪いである。

いつしか虫たちが体を蝕むだろう。


❑❒❑❒

❑❒❑❒

仕込み斧


持ち手より鎖が伸び、広範囲の攻撃を可能とする。

能力✜軽量、清潔


❉❊❉


遠くを見つめる瞳はそれを求めて自らが赴くことにした。

王都にいる男を求めるのだ。


❑❒❑❒



心臓は刀、瞳は片手斧に合成されたらしい。


「こっちの方は嬢さんに使われたいらしいの。上げたらどうじゃ?」

「ナイフだけじゃ足りないと思っていたところだ。ありがたい」


しかしどうやら老人にもウィンドウが見えるらしい。

しかしレギーナには見えないようで首をかしげている。


「なあ爺さん、こいつは何なんだ?このウィンドウ?鑑定?」

「儂も知らん。そういう肉体だ」

肝心なところで知識のない老人だ。

グラは質問を変える。

「じゃあ、爺ちゃん、あの豚は何なんだ?外にいたおっさんは強さって言ってたが強さを求めるとなんでそうなるんだよ」

「それも知らん。おおかたなにか危ないものに手を出したのではないか?」


――使えない爺ちゃんだ。


そこまで考えていたところでフィンガースナップの音が響く。

そして同時に二人の周りを霧が包む。

やはりそこで老人の手が徐々に光り……

「少しずつくるんだ。じゃないと信じられる側になっちまう。ついでに、豚のやつは儂の弟子じゃない」





目を開けば銅像が映る。

「……ただいま…」

グラに横で呆然としたレギーナから声がかかる。

「あそこなんだったの?あたしまだ聞きたいことあったんだけど…」


「また行けるさ」

グラは返す。


老人の言うとおりであれば、何度もあそこに行けばどんどん滞在可能時間も伸びるはずであるし、そうすればまた老人に質問ができる。さらには老人ができると言っていたことも何なのかを知ることができる。


「ねえ…なんか持ってたんだけど…」

レギーナが持っていた紙切れ読み始める。

「『王都を目指せ。まずは離町、そして洞窟……』」


随分簡潔な説明だ。

とりあえず行けということであろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ