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終局戦線  作者: 天宮蓮
1/1

荒廃した世界の終局

自分の思い描く最悪の世界観を表現出来ればなと思い書きました。

面白ければコメントをよろしくお願い致します。

序章 1.【荒廃した世界の終局】


暗雲と共に立ち上る無数の黒煙、東京の首都、その市街地を焼き払う煉獄の業火の数々。

その場所から全てを捨て去り、逃げ出した少年は、ボロボロになりながらも荒れ果てた地を走った。


彼がやっとの飛び込んだのは、急拵えの政府指定緊急避難場所だった。

無数の医療用テントが乱立し、怪我人の呻き声で溢れる現場。

数多に飛び交う恐怖に支配された人々の嘆きや悲鳴、それが少年の体を生暖かく包み込んでいた。

少年は、地面に力無く横たわり、深い孤独に堕ちていくのだった。


どれほどの時だったのだろう、未だ鳴り止まぬ緊急避難警報の音、逃げ惑う人々の悲鳴。

少年は、ただ目の前に広がる業火を見つめるしか無かった。

風前の灯火に似た恐怖、そして絶望感に苛まれながら、震える足でうずくまる一人の少年の姿。


「僕は…なんで…今も…生きてるんだろう…、父さん…母さん…なんで…僕だけが…生き残った…の?」


絶望を超える深淵の苦痛が、少年の精神を蝕んでいった。

そんな中、業火の地獄から突如として響く愉悦に浸る笑い声、それはまるで年頃の少女が楽しんでいるかの如く、高音の声音で辺りに響き渡っていた。

その微笑みに惹かれるかの様に、少年の上空を飛び去る無数の航空自衛隊の戦闘機。

轟音鳴り響く中、少年は光の無い瞳で、真紅に染まった空を見上げていた。

機械仕掛けの翼竜が、ジェットエンジンの噴射音を轟かせ飛翔する。

刹那、無数の戦闘機の群れから穿たれる射撃音。

大口径の機関銃の連射音、打ち出される対戦車用の弾薬やミサイルの雨が、宙を舞う小柄な標的に向け降り注いだ。

緊急避難場所であるこの地区からでも確認できる爆炎。

突如として巻き起こる爆風による突風の砂嵐。

航空自衛隊の戦闘機部隊の一斉攻撃が、鳴り止んだと思われたその刹那、空を俊敏に舞う人影の様なものによって粉々にされ、爆風と共に鉄屑として吹き飛ばされる戦闘機の残骸。

国防の要である航空自衛隊がこれだけの戦力を投下しても、まだ尚瀕死の重傷を負わせる事は出来ない程の小柄な怪物の姿。

少年は、墜落してくる戦闘機の残骸から逃げ惑う人々に揉み潰される様に地面に倒れ込んだ。

そして、砂埃の中でようやく視認出来たそれを視界に捉え、か細い声を上げた。


「あれが…ネオ・ヒューマノイド…僕の全てを奪った元凶…。」


絶望や焦燥、嗚咽に塗れた苦痛の彼方。

人類の血で赤く染め上げられた様な真紅の天、空中を舞うその人影を睨みながら、少年は声を荒げる。


「お前らを許さない…ころす…、ころす…、何がなんでも殺す…、絶対に…、絶対に俺はお前らを許さない!」


声を荒げた少年の叫びは虚しく、真紅に染まった虚空の彼方に、泡の様に溶けて消えていく。

そんな少年の悲痛の叫びを受け、嘲笑う様に微笑を浮かべる者の姿。

その真紅の瞳の色を、少年は目に焼き付けるのだった。


その日、人類はネオ・ヒューマノイドに完全に敗北したとの通達が日本全国土に向けて、緊急政令として発令されたのだった。


2058年12月25日 PM.10:00

【国家指定安全区画 No.02【旧東京本部】】


《……こちら通信司令総本部。全車輌、エンジンの始動を確認……。これより、第一メインゲートの開門を開始する……。》


不規則なノイズ混じりの無線の音声と共に、荒廃した地獄へと続く重厚な鋼鉄製の門が、俺の頭上に向けて、ゆっくりと開き始めた。


《……こちら旧東京本部・第一メインゲート、開門完了……。》


《こちら、旧東京本部・通信司令室。これより、チーム・ブラックイーグル・第一部隊の出動を許可する……。》


鋼鉄の門の上昇が終わった刹那、縦一列に並んだ四台の武装車輛達が、暗闇に向けて一斉にヘッドランプを点灯し動き始める。


《……こちら、ブラックイーグル・第一部隊、了解》


旧東京支部・総司令本部からの無線を受けた俺は、即座に司令無線を車内用の通信回線に切り替える。


《……聞こえるか?こちら、ブラックイーグル・第一部隊隊長、影山蓮。これより、全車輌出動を開始する。》


唸るエンジン音を轟かせ、車輌は軽快に速度を上げる。

次々と重厚な鋼鉄製の門を通り抜けた四台の軍用車輛。

その車輌を、夜空に浮かぶ満月の淡い月光が鮮明に照らし出す。

深淵の夜空の下、車輌に取り付けられた部隊の象徴たる大鷲のエンブレムが、夜闇の月光反射し淡く煌めいた。

俺が指揮をとるこの部隊は、防弾ガラスの窓を頑丈な金網で完璧に固める特別製軍用車輌の一行である。

黒の軍用ジープ二台と、同じく二台の軍用大型トラック。

そして、俺が先導するこの部隊は、今からとある場所に向け、物資調達の任務に当たる旧東京本部直属の精鋭部隊。


旧東京本部防衛の要である【漆黒の大鷲】、通称ブラックイーグル部隊である。


《……こちら、ブラックイーグル・一号車。今のところ周辺に異常は確認出来ない……。総員、慎重に指定された順路を進め。》


後方に続く車輌の部隊員にそう告げた俺は、車内通信用無線を戻した。

俺は腕組みをしながら窓の外に視線を向け。普段通り、担当ブロックに向かう道中の景色を静かに眺めるのだった。


(この国はもう終わりだ。俺がガキの頃を過ごしたあの薄汚い施設も路地裏も、もうどこだったのか分からない。)


淡く輝く月の光に照らされる市街地。

鮮明に映し出されるその光景は、かつて東京の中心地と呼ばれた市街地だった場所。

だが、そこには、かつての繁栄の面影はまるで存在しない。

そんなものが存在する筈が無い。


コンビニや飲食店や風俗店、高々と聳えたオフィスビル群などの建築物は、大半が倒壊、荒廃しており。

腐りながらも繁栄していたあの頃の残像は、もう、どこにも感じる事は出来ない。

俺の記憶に蘇る、かつての東京の姿。

薄汚い人間の欲、それが渦巻く混沌の世界は消え去った。

そして、永遠とも呼べるこの世の地獄が訪れた。

恐怖と混沌が絡み合う市街地の暗闇が、俺の瞳に映るその全てを呑み込むのだった。

荒れ果てた惨状、冷え込んだ冬の冷気と夜の静寂が、窓硝子をなぜる。

この吐き気を催すこの惨状は、これで終わりでは無い。

俺が市街地を見渡す限り、生きた人間の気配は全く無い。


(また、コイツらの顔を拝まないとならないとは、最悪のクリスマスプレゼントだよ。)


鋼鉄製の金網で覆われた窓硝子に映る人影。

氷結した血塗れの顔で、呻き声を上げながら徘徊する人間の姿。

生きた人間の新鮮な血肉を求め、動き回り続ける亡霊。

いや、飢えた無数の感染者達と言った方が正しいだろう。

正確には、未だ彼等は死んではいないのかも知れない。

しかし、辺り一面を蠢く奴等には、もう既に人間としての人格や理性は無い。

コイツらは生物の最も本能的な欲求で有り、絶対的な欲求、「食欲」に従い動き回る。


コイツらは、欲望のままに捕食した人間を食い尽くす事はしない。

恐らくは、生物の本能的に基づき、種の保存を目的としているのだろう。

その証拠に、喰われた人間はコイツらの仲間として蘇り、新たな獲物を求め、半永久的に機械の奴隷として、この世を彷徨う事になるのだ。


(いつになっても隷属は存在する。そんなこと言った偉い奴がいた気がするが、主人を喰い殺す奴隷とは笑える。)


俺は哀れな亡霊達の足元に視線を移す。

そこには、かつては人間に変わる労働力として、旧アメリカ合衆国から大量に輸入されたヒューマノイドの残骸が転がっている。

コイツらは、20年以上も昔に、主人に絶対的な忠誠を誓う筈だった無数の自動学習型人工知能搭載ヒューマノイドだったが。

今は、無数の弾痕で穴だらけになった人型のボディから、凝固した青い体液を垂れ流して絶命している。


(クソ…、コイツらさえいなければ…、こんな事にはならなかった。コイツらは必ず…、俺が全て殺し尽くす!)


現在、この世界は俺達人類が死守する列強国の残存勢力と、旧アメリカ合衆国の軍用兵器研究チームが極秘に開発した存在。

恐らく人類史上、最悪の発明である機械仕掛けの兵士。


【完全自動学習型AI搭載・軍用ヒューマノイド】と呼ばれ、人智を超えてしまった偽りの神、通称【ネオ・ヒューマノイド】が支配する世界である。


そして、現在、この世界で勃発しているこの戦争は、俺達人類にとっての恐らく最後の世界戦争に成るであろう、終焉の戦い。

その名を【終局戦線】と、俺達は呼称している。

その始まりは、10年前に遡る。

ネオ・ヒューマノイドは、その圧倒的な力で旧アメリカ陸海空軍を壊滅させ、隷属として国民を支配下に置いた後、世界各地の存命列強国。

その主要都市に、家庭用に製造されていたノーマル・ヒューマノイドと共に、あるウィルスをばら撒いた。

衰退し切った人類には、到底対応出来ないの未知のウィルスであった化学兵器のせいで、世界中に無数の動く屍、通称【ロスト】が出現した。


その後、ロストウィルスの脅威的な感染力によって。

旧日本全土の総人口数は、たったの数年間で、およそ、三分の一にまで急激に減少してしまった。

ロストウィルスの脅威は、勿論俺が子供の頃住んでいた、かつての指定緊急避難場所である旧安全区画にも蔓延した。

かつては、少子高齢化などの社会問題が多数発生していた旧日本国だが、今や生きている老人や老婆を見かける事の方が珍しい。

あの惨劇の中、一般市民の中で生き残る事が出来たのは俺と同じ、比較的若い世代の人間がほとんどだった。

政府はこの事態に対し、真っ先に特例法を制定し、旧自衛隊を動かした。

それにより、旧内閣府の有力な政治家や総理大臣などの官職。

行政機関の中枢的な物達は、速やかに、旧自衛隊によって保護された。

その後、政府管轄の国立医学研究所の教授や科学者、及び薬学研究員等の有能な人材や、官僚機関の重要人物達も続々と保護された。

彼等は、比較的にロストウィルスの感染者が少ない、極寒の地北海道、そこに存在していた旧札幌市の都市を拠点に避難したのだった。

そして、日本政府は北海道旧札幌市に新内閣府及び旧自衛隊の本拠地を移した後、完全武装要塞都市、【安全区旧札幌本部】を創設した。

また、旧アメリカ本国が壊滅し、米軍駐屯地に残存していた旧米軍兵らにより、新たに組織された軍事機関。

旧アメリカ合衆国統合軍の、対ロスト・ヒューマノイド抹殺特殊部隊。

通称【B.S.C】と日本の総理は共同防衛の同盟関係を結んだのだった。

旧アメリカ合衆国軍残党【B.S.C参謀本部】と呼ばれる組織の本部も、完全武装要塞都市・旧札幌本部に設置されたのである。

彼等と共に、新札幌本部に逃げ込んだ旧日本政府の豚、いや有力者達が。

真っ先に、国の復興政策として行った特例政策こそが【全日本保安計画】だった。

その、全日本保安計画の第一段階として、緊急設置された最初の支部。

それこそが、現在、俺が生活している場所。

安全区 【No.02.旧東京本部】である。

安全区の設置は、それまで団結して簡易的な生活拠点を作る事でのみ、ロストは言うまでも無く、食料を武力行使で奪おうとする非道な武装集団共の襲撃に怯えていた、無力な各地の一般市民達。

そして、警戒心を擦り減らしながらも、交代で見張りを行い生活していた俺たち生存者達にとって。

この支部の設置は、暗闇に射す、大きな希望の光となったのだった。

だが、その安全区に入る際にも、数々の条件が存在した。

主な条件は、【安全区内特別制定法】として存在しており三つある。

絶対条件は二つで有り、特別な条件に該当する人物の場合は、軍入隊日から昇格などの特別待遇権が与えられた。

審査を通過するのは予想以上に困難だった。

俺は今でも、提示された条文の内容を鮮明に覚えている。


【安全区旧東京本部・区内特別制定法条文】


第1条. 自らがロストウィルス非感染者である絶対の証明が出来る者。


第2条. 我々が管理する安全区内部の兵員養成機関に入り、規定期間の訓練後、安全区専属の兵士として、指定任務をこなせる肉体を所持する者。


第3条. 元医学生等で、医学知識を持ちかつその医療技術を区内で審査後、医師や軍医としての活動を認可された者、「衛生兵若しくは看護兵として実戦で力を発揮出来る者」である事………。


────────────────


その他にも細かな規定が制定されており、生存確率の低い人物や条件に適応出来ないと見做された無能な人間は、その選別から除外された。

その後、憐れな除外者達は、再び、武装集団が蔓延る危険区画で、貧しい生活を余儀無くされたのだった。

旧東京本部が提示する、数々の厳しい条件をクリアした者だけが、本部内に定住権を持ち、本部を拠点として活動する全日本防衛軍の構成員として、本部での生活を許されたのであった。

多くの大人が審査に落とされる中、当時15歳の俺は、様々な審査を潜り抜け流ことに成功し。

奇跡的にこの規定ラインを全てクリアし、旧東京本部での定住権を獲得した。


────────────────


現在、過去に国防の要として存在していた自衛隊は改名され、【全日本防衛軍】となった。

その後、大規模な本部設営活動が実行されることとなったのだ。

それにより、東京など旧主要都市跡地を元に、新たなる各エリアの防衛本部が二箇所に設置された。

残存している旧都市の防衛拠点は三つ、東京・大阪・札幌・各地を守るために、それぞれエリアに本部が設置された。

それでも、人間の数よりロストの数が圧倒的に多いのが今の現状だ。

現在も、旧東京本部に関わらず、全ての本部で、階級の低い兵士達の殆どは日夜、ロストとの戦闘に駆り出され、激闘に追われている。


俺のこれまでの経験から言える事がある。

それは、機械を甘く見ていた俺達の愚かさ。彼らの演算され尽くした完璧な目論見にまんまと踊らされ。

俺達が、今まで血肉を注ぎ、創り上げて来た世界を奪われたという明確な事実。

ネオ・ヒューマノイドが企てた真の目的は、生物兵器による全人類の抹殺などでは無い。

奴等の真の目的は、世界最強の先進国であるアメリカ合衆国の政府機関、及び国際機関を麻痺させた後世界を征服し。

自らが、この世界の支配者に成り上がる事だった。

戦争の為に産み出した怪物の暴走により、俺達人間が支配していた世は終わりを告げた。

そして、人間が自らの手で地獄への門を開いたのは紛れも無い真実だ。

だが、これは未だほんの序章に過ぎないのだろう。

ネオ・ヒューマノイド共は俺達人類を試している。

これから人類が如何なる選択をするのかと。

本当の戦いはこれからなのだと、俺はそう確信していた────。


これまでの過去を思い起こしていた時、傍から俺を呼ぶ声が聞こえた。


「……蓮、後三十分ぐらいで今日の担当ブロックに着くわよ。銃の確認は大丈夫なの?」


そう俺に呼びかけたのは、肩まで伸びた艶やかな黒髪を持ち。

まさに、透き通る様な碧眼の瞳を持つ少女。


彼女の名は、レイン。

俺にとっての最高のバディーであり、俺が守るべき大切な存在でもある。


「蓮、私の話ちゃんと聞いてるの?

反応が遅いのは命取りになるわよ?」


半ば呆れ気味な彼女の視線を鋭く感じた俺は我に返った。

俺は彼女に視線を向けた。


「あぁ、そうだな…、今日の仕事も簡単には行かなそうだ。銃の確認は怠るべきじゃ無いよな?」


苦笑しながらそう答えた俺は、両足に取り付けた黒のレッグホルスターに収まる、支給品の二丁の拳銃を撫でる様に、そっと指先を触れた。

そしてグリップを掴み、右足の一丁を引き抜くと軽く銃の点検と装弾数のチェックをし、左足に収まるもう一丁も、同様に最終チェックを完了させた。


「支給された弾薬はワンマグにつき十八発、予備マガジンはポーチに入れられるノーマルマグの六本分。俺の相棒の二丁と全部合わせて、百二発ってところか……。って事は、確実に脳髄を破壊すれば、ロストなら百ニ体は確実に殺せる事になるな。」


スライドを引き、銃弾をチャンバーに移動させる。

「そんなゲーム感覚で殺せるのは貴方ぐらいでしょ」と言うような眼差しでこちらを見つめ、彼女は自らの武器の手入れをするのだった。


「随分余裕なのね、蓮。その調子でいつも通り、弾の無駄使いはしないようにしてね。」


「余裕な訳でも無い。ただ俺は、何をするにしても、無駄な事はしない性格なんだよ。それに、支給された弾薬だって、無限にある訳じゃないだろ?」


そんな俺に、レインは微笑を浮かべた。


「そうね、物事の全てを合理性で考えるのはいい事だと思うわ。その調子で、今日の任務も確実にこなしましょう。」


「全員で生きて帰れるよう全力で努力するさ。」


そう言い終えた刹那。

前方の運転席で、怯えた口調で、少女が声を上げるのだった。


「……お二人は、こんな状況でもそんな冷静に話が出来るなんてやっぱり凄いですね。

やっぱり、私なんかと違って、過酷な実戦を生き抜いてきた、数少ない特等兵なんだなって思います……。」


語りかけてきたのは、昨日から俺が率いるこのブラックイーグル・第一部隊に、一等衛生兵の見習いとして入った新兵の少女だった。


銃など全く似合わない華奢な躰に、栗色で少し長めのショートヘアといった髪型、顔は幼いが、双眸には真っ直ぐで明るいブラウンの輝きを宿している。

世間的に見て、顔もかなりの美形といえる彼女の名は『藍原花鈴』だ。

俺達は、彼女を『ロゼ』と呼んでいる。

本名で呼ばないのは何故か、その理由は単純な事だ。

この呼び名は、新兵を戦場で敵に悟られぬ為に、各々で呼び分ける為の呼び名、いわばコードネームに近い。

ちなみに、彼女はレインと歳も近い。

俺は現在19になるが。

レインが17で、ロゼは今年で16になったと聞いている。

まだまだ新米で、相変わらず臆病なロゼに俺達はほぼ同時に言葉を返した。


「「それは、慣れだな。(慣れることね。」」


すると、彼女は溜め息と共に、「どうせ、そう言うと思ってた」、と言うような表情を浮かべ再び口を開いた。


「やっぱり、そうですよね……。正直な事を言えば、私は慣れたくは無いです…。でも、頑張って私も慣れるように努力しますから、だから私を…、見捨てないで下さい…。」


恐怖が抜けきれぬ表情を浮かべ、彼女は唇を震わせた。


「ロゼ、この部隊に入隊して間もない君に伝えておくよ、君は死なない、俺が死なさせはしない。だから俺を信用して欲しい。」


俺の言葉に信用があるのかは俺にも判断は出来ない、何故なら戦場での約束は無意味に等しいからだ。

こんな俺の言葉でも、真実を言う事ができるのなら、俺はそれを実現させる努力を惜しまない。

そんな俺の覚悟を理解してくれたのか、ロゼは微笑んだ。


「はい!皆で生きて帰れるように私が全力でサポートします!

戦闘力は今ひとつでも、衛生兵としての腕にはこれでも自信あるんですよ!

それに、お二人がいれば今回もきっと大丈夫だと信じてます!」


ロゼの笑顔に若干の安心感が戻った様に、俺には感じられた。

俺は、再び無線を掴み、全車輌の隊員に告げた。


《今回の目的地に間もなく到着する……。総員、常時警戒を怠るな……。》


約十分後────。

俺達は今回の目的地である、旧大型ショッピングモールの、商品搬入口に辿り着いた。


「ようやく到着したな。レイン、そっちはどうだ?」


「今見える限り、ロストは居ないみたいね。ロゼ、早く搬入口の中に車を中に止めましょう。」


「はい、レインさん!急ぎます。」


ロゼは言葉を返し、手際良く車両を搬入口内の駐車エリアに車を乗り入れた。

それに続く形で、後方の車輌も俺達の傍で停車した。

停車した車内で、ロゼは俺の方をちらりと見つめると、彼女らしからぬ、はっきりとした口調で俺に告げる。


「もう覚悟は出来ました、行きましょう蓮さん!」


ロゼの呼びかけに、俺は微笑みと共に頷いた。

俺は、車内から搬入口内部を見渡す。

現在地である旧東京本部近郊に位置する、この旧大型ショッピングモールは、補給危険レベル【Level 5】の危険ブロックに指定されている。

【Level 5】とは、俺達、特等兵以上の兵士の同行が必要不可欠とされたレベルの補給可能ブロックだ。

俺は呼吸を整え、気を引き締めた。

そして、胸に宿す、あの日の覚悟を思い起こす。


(俺は……、もう二度と、俺の前で大切な人を、愛する人を殺させはしない……。)


俺は、車内無線を手に取り、鮮明な声で告げる。


《任務開始。総員配置に着け!》


俺は、車内無線で全隊員に呼びかけた後、車輌のドアを開き、颯爽と搬入口へ降り立った。

ここまで読んで下さりありがとうございました。

定期更新というより、出来たら掲載する形を取らせていただきますので今後ともよろしくお願い致します。


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