侯爵令嬢は対決・・・する? 2
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セリーシアはアキーリスにエスコートされて会場へ入った。
会場の中央付近に来たところで、二人の足が止まる。
セシーリアはぐるりと辺りを見回した。
王も宰相も来ている。マユラもレスダールも。だが肝心のモンドリリーが見当たらずキョロキョロとしてしまう。
「ねえ、殿下。モンドリリー様はいらっしゃる?見つけられないわ」
アキーリスは、モンドリリーという単語にビクッと身体を震わせるが、何事もなかったように振る舞う。だいぶ進歩したようだ。
「見えないけど、会場にはいるよ。たぶん。さっきから悪寒が走ってる」
再度見回すもセリーシアはモンドリリーを見つける事が出来なかった。
(まあ、いいわ。この会場にいらっしゃるのなら)
セリーシアは王座までアキーリスにエスコートしてもらい、王の前で優雅に礼をする。
「これは、セリーシア嬢。今日はまた一段と美しいな。ところで昨日言っていた聞いて欲しい事とは、何かな?」
ニコニコと人の良い笑顔を浮かべて王が問う。
それに対し、セリーシアも極上の笑顔を見せ、すぅっと息を吸い込む。
「はい。私、セリーシア・カテラウカは王太子であるアキーリス・クーフェン様との婚約解消のお願いに参りました」
大声で宣言したため会場中に響き渡り辺りが静かになった。
「婚約解消」の言葉を聞いてアキーリスの身体が揺れたが、ちらりと横顔を盗み見ると変わらぬ笑顔のままだった。
「ど、どういう事かな?婚約解消とは?」
王もその隣にいた宰相も『意味が分からない』という顔をしてセリーシアとアキーリスの顔を交互に見る。
「私、気が付きましたの。私は殿下に相応しくありませんわ。自分が未熟過ぎて・・・誰かが、殿下に暴力を振るったり、殿下や私に無礼な態度をとる者を笑顔で流す事ができませんの」
セリーシアの話を聞いていた人々は「いや、それはそうだろう」「殿下に暴力って・・・」などというセリーシアに同調する反応を示した。
「そこで、殿下に相応しい方に代わって頂こうと思いました」
セリーシアは満面の笑みを浮かべる。
「モンドリリー・ジラーン様。いらっしゃいますか?」
セリーシアが背後に顔を向け呼びかけると、人垣がざわついた。その人垣を掻き分けてモンドリリーが笑顔で現れた。
突然の呼び出しに驚く事なく当然だという顔で。『なぜ、そんな表情なのよ』と突っ込みたくなるのを抑え、セリーシアは王に向き直るとモンドリリーの方に手を向ける。
「陛下。ご紹介いたしますわ。彼女はモンドリリー・ジラーン男爵令嬢ですわ。この方ほど殿下に相応しい方はいませんわ」
セリーシアが紹介するとモンドリリーは恥ずかしそうに身体を捩った。
その姿に、会場中の人々が絶句していた。
「だ、男爵令嬢・・・・・」
王も宰相も絶句している。
この国では王家に嫁ぐ令嬢は伯爵以上と決められているからだ。
次第に、会場にいる学園の生徒は(被害に遭った者もそうでない者も)怒りを露わにし、その親御さん達は今だに呆気にとられている。
「という事ですので、私は殿下の婚約者を辞退いたしますわ」
説明もほとんどなくセリーシアが宣言して話をまとめると、それまで笑顔を張り付け黙っていたアキーリスが口を開いた。
「お待ちください。私はセリーシア嬢との婚約を解消しない!!その代わりに王太子の座を返上する!!」
高らかにアキーリスが宣言した。
王と宰相は真っ青になり、会場からは「おぉ!!」と声が上がった。
セリーシアも驚いてアキーリスを見つめる。
「ジラーン男爵令嬢。私にはセリーシア以外の伴侶は要らない。代わりに弟と結婚して王妃にでもなんでもなるといい」
アキーリスには二人の弟がいるが、まさか可愛がっている弟達を生贄のように差し出すとは。いや、その前に王族としての務めはどうするのか。セリーシアは驚き過ぎて、ただアキーリスを見つめる。
言われた意味を理解できずに、モンドリリーはきょとんとしている。
そんなモンドリリーを放置して、アキーリスはガシッとセリーシアの手を握る。
「セリーシア。私と一緒にこの国を出て、結婚しよう。私は働いた事はないけれど、決して惨めな暮らしはさせない」
こんな展開になるとは思っていなかったセリーシアは、声も出ず、ポカーンとアキーリスを見つめた。
アキーリスとセリーシアが見つめ合っていると、モンドリリーがワナワナと怒りに震えた声を上げた。
「ちょっと!!おかしいでしょう!!なんでそうなるのよ!!ってか、セリーシアは性悪女だからって婚約破棄を叩きつける場面でしょうが!!」
モンドリリーが喚き始めると、アキーリスが笑顔でそっとセリーシアの耳を塞いだ。しかし、残念ながらモンドリリーの声が大きすぎて丸聞こえである。お陰で思考停止だった頭が回転し始めた。ギャーギャーとセリーシアに詰め寄るモンドリリーに対して、アキーリスは己の身で庇い、近衛兵に視線を送る。途端に近衛兵数人が動きモンドリリーを引き剥がす。
「何するのよ!!離してよ!!捕まえるのならあの女でしょうが!!ヒロインに対してこの扱いは何なのよ!!!!!」
モンドリリーが初めて『ヒロイン』と口にした。
会場中の人間が息を飲んだ。王と宰相も目を見開く。
(何を今更。遅いのよ!!彼女の行動は全部『ヒロイン病』に当てはまるじゃないの)
驚く王と宰相にセリーシアは冷ややかな視線を送る。
「・・・・・貴方は『ヒロイン』なのか?」
恐る恐る王がモンドリリーに向かって声をかける。
「え?なんで私が『ヒロイン』だって知ってるんですか?もしかして王様も転生者?」
喚き散らしていたモンドリリーが王の言葉に再び、きょとんとする。
(テンセーシャ?王様もって事はモンドリリーはテンセーシャ?テンセーシャって何なの?)
セリーシアの疑問は会場中の人々が思った事だった。聞いたことがない単語に皆首をかしげる。
「王様も転生者なら分るでしょう。私アキーリス、ルートを攻略したいんです。アキーリスと私が結婚できるようにして下さい。それから、さっさとセリーシアを国外追放して」
また、モンドリリーがとんでもない事を口にした。内容もさることながら王に命令をしていた。
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