侯爵令嬢は対決・・・する? 1
「お嬢様。アキーリス殿下がお見えになりました」
「え?アキーリス?」
夜会の支度をしているところに侍女が知らせに来た。
セリーシアは昨日、アキーリスのエスコートは断った。それにより『セリーシア大好き』な、アキーリスはダメージを受けたはずで、ここに来るなどあるはずがなのに、とセリーシアは首を傾げた。
アップにまとめた髪に飾りを付けてもらうと、部屋の中に侍女と入れ替わりにアキーリスが入ってきた。
「セリーシア」
アキーリスが笑顔でセリーシアを見つめる。なんだかアキーリスは機嫌がよさそうだ。
「・・・・・なんの御用ですの?」
対してセリーシア無表情で返す。
「今日もセリーシアは美しいな。迎えにきたんだ。でも、まだ時間が早いし少し話をしよう」
「話?話す事なんて何もありませんわ。ああ、そうだわ。今すぐ婚約を破棄、ムグっ」
アキーリスは最後まで言わせず、にこにこと笑顔でセリーシアに詰め寄り頬を両手で挟み込み遮る。
セリーシアは、人前で令嬢が見せてはいけない顔になった。
(お化粧したばかりなのに、なんて顔をさせるのよ!!)
「婚約は解消しない。絶対に。わかった?絶対にだ」
珍しくアキーリスが、笑顔で圧力をかけてくる。だが、顔を挟む手の力は少し弱まった。
昨日の事がショックで、アキーリスがおかしくなったのかと思ったが、どうやら違うみたいだ。ショックで元に戻った方が正解だろう。モンドリリーが現れる前のアキーリスは、いつだって余裕たっぷりに、セリーシアを翻弄していたのだから。
「今日の殿下は笑顔がとても怖いわ。マユラ達に何か言われました?」
顔を挟まれているせいでセリ-シアは、モゴモゴした話し方になる。
とんでもない変顔になっているだろうに、よくアキーリスは噴出さないものだと、セリーシアは感心した。当のアキーリスは、そんな事に気が回らないだけなのだが。
セリーシアは変顔の状態でも焦ることなく、頬を挟んでいる手に触れる。そして引きはがそうと力を込める。
「あの令嬢が現れてから、私は不甲斐なかったと思う。何故かは自分でも分からないけど、あの令嬢がとても怖かったんだ。けど、今は君が私の前からいなくなってしまいそうで、そっちの方が私は怖い。痛っ」
力を込めても頬に触れている手をはがせなかったので、セリーシアは思いっきり爪を立てて食い込ませた。
「私に気安く触らないでくださいまし。って、何をするんですか!!」
さすがに爪は痛かった様で、アキーリスはセリーシアの顔から手を離したが、今度はぎゅっとセリーシアの体を抱きしめる。
「何をなさるの・・・私怒ってますのよ。殿下!!」
「私も怒っているよ、セリーシア」
アキーリスは「怒っている」と言う割には声は穏やかで、セリーシアの耳に口を寄せ優しく囁いた。
「昨日、セリーシアが帰った後マユラとレスダールに学園であった事を聞いたよ。まず、あり得ないからね。セリーシアがこの国から出ていくなら私も付いていく」
「あの方の話では殿下が私を国外追放するらしいですわよ」
「だから!!そんな事あり得ない!!!!!」
アキーリスはぎゅっと力を込めてセリーシアを抱きしめる。耳元で大声を出されたセリ-シアは、顔を顰めた。
「分かってるわよ、話が進まないわ。追放するのは殿下がではなく、あの方の中の殿下ですわよ。一々、カッカしないで下さいませ。殿下が私を大好きなのは知ってますから」
落ち着かせる為に、セリーシアはアキーリスの背中に腕を回して抱きしめる。
「殿下。そのように動揺していては一国の主など務まらなくてよ。もっとデンっと構えていてくださいな」
「だ、だが。あ、いや、そうだな。うん」
「私が婚約を解消すると言っても、ギャーギャー騒がないでくださいね」
「なっ?!そ、それは騒ぐだろう!!」
「だからダメなのよ。さっきみたいに笑顔で圧力かけるくらいがいいの」
セリーシアはトンッとアキーリスの胸を小突き、笑顔を見せると、つられてアキーリスも微笑む。
「で、何を考えているんだ?今日、何かやらかすのだろう」
「やらかすだなんて。あのね・・・・・」
「そろそろ時間だ。行こうか」
アキーリスはいつもの爽やかな笑顔で手を差し出す。
「何度も言いますけど、取り乱さないで下さいね。デンっと構えているのよ」
分かった?と問いかければ、うんうんと笑顔で頷かれ、不安が残るがそれはその時だと、セリーシアは自分に言い聞かせた。
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