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侯爵令嬢は決断する 

セリーシアは深呼吸をし、怒りを追い出し冷静になる。

「私、行くところできましたので今日は失礼しますわ。ごきげんよう殿下」

すっかりしょげてしまったアキーリスを一瞥するとセシーリアは背を向けて歩き出した。

マユラもアキーリスに礼をするとセリーシアを追ってきた。

「どちらへ行かれるの?」

「王様のところよ」

「ええ!?」

二週間も前からモンドリリーには『ヒロイン病』ではないかと、疑いがかけられていたのに、面倒な事態を放置し、騒ぎになり、挙句の果てに城への侵入までさせた。元々気の長くないセリーシアの堪忍袋の緒は限界である。

王の執務室の前で待機している近衛兵に王に取り次ぐようお願いする。王太子の婚約者とはいえ、たかが一貴族の令嬢がそう簡単に会える相手ではないが、セリーシアの迫力に押された近衛兵は、取り次いでくれた。


「お忙しいところ失礼いたします。たった今この城に例の病の男爵令嬢が侵入し、王太子殿下が襲われました。殿下に害が及ぶ前に兵士が取り押さえてくれましたが、いい加減あの方の処遇を決めていただきたく、こうして押しかけました」


「セリーシア嬢。かの令嬢はまだ例の病に罹っているとは、判断されていないはずだが・・・」

困った顔で王が隣の宰相を見る。

「確かに。暫く様子をみるという事で落ち着いたはずだが・・・カテラウカ家のご令嬢は随分と勇ましいのですね。王様に直談判とは」

王に話を振られた宰相は、駄々っ子を諭すように優しく声をかけてくるが、それはセリーシアの神経を逆なでするだけだった。

「本日の学園での騒ぎはお聞きになりましたか?」

学園にいる時はモンドリリーに監視が付いている。これはアキーリスに最初の被害が出てから四日後に始まっている。なので、モンドリリーが何かをする度に報告が上がる。

「騒ぎ?いや」

王も宰相も首を振る。

セリーシアは舌打ちしそうになるのを、堪えた。

学園での騒ぎもだが、その前にこの部屋に入った時に城への侵入の話も事件なのに、王も宰相も反応が薄い。『城に侵入』したのだ。大事件だろうに、王も、横に控えている宰相ものほほんとした表情だった。本当にのんびりとした国である。


セリーシアは自分が熱くなっているのが、急に馬鹿らしくなってきた。

大人達が穏便に済まそうとするのなら、自分が邪魔をしてはいけない。その代わりに自分の穏やかな日常だけは取り戻そうと決意した。


「さようですか。急に押しかけてしまい失礼いたしましたわ。ところで・・・・・お二方とも、明日の夜会にはいらっしゃるのですか?」

この学園では長期休暇を挟んで前期と後期に分かれており、前期と後期の終わりに親も参加できる夜会が開かれる。

「ああ、勿論参加するよ」

「それを聞いて安心いたしました。私、明日は皆さまに、特にお二方に、聞いて頂きたい事がありまして。急に押しかけてしまい本当に申し訳ございませんでした。それでは失礼いたします」

深々と頭を下げて謝るセリーシアに、王も宰相も「気にするな」と笑顔で送ってくれた。


部屋を出て廊下を歩き始めると、ずっと黙って付いてきたマユラが口を開く。

「セリーシア。何を考えているの?」

マユラは、今のやり取りでセリーシアが何かを決断した事が分かった。だが何かが分からない。


「マユラ。私ね、もうなんだか疲れましたわ。これってしなくていい疲れなのよ。だって、アキーリスがしっかりしていればいいわけだし。国がさっさとあの方の処遇をきちっとしていればよかったわけだし。でもこの国のトップの二人があれじゃあね。平和ボケもいいところだわ。でね、考えたのだけれど私がアキーリスと婚約を解消したらいい事なんだわ」

「ええ!!何故そうなるの?」

驚いたマユラがガシッとセリーシアの腕を掴む。マユラにしては珍しい事をする。それぐらい驚いていた。腕を取られて二人は歩くのを止め立ち止まった。

「だってそうでしょう。私は王妃になりたいわけでもないし。殿下とあの方が結婚すれば『ヒロイン病』も治るかもしれないし。私はくだらない事に煩わされずにすむし」

セリーシアはそう言うと、ふうっとため息をついた。

口を開こうとしたマユラは、視線をセリーシアの背後に向けて真っ青になった。


「セ、セ、セリー・・・シア」

セリーシアの背後からかすれた声がした。振り向けば青白く幽霊のようなアキーリスが、レスダールと共に立っていた。

「あら、殿下」

「あら、じゃない。どういう事だ。私の事を好きではないのか!!!!!」

「はい」

「!!!!!!」

「セリーシア嬢止めて。これ以上はアキーリスが壊れる」

堪らずレスダールが止めに入る。


「顔は、けっこう好きですわ。かっこいいから。でも中身は・・・最近の殿下には失望しておりますの。ですので好きかと聞かれたら『ふつう』ですわ。ああ、そうだわ。明日の夜会のエスコートは結構ですわ」

「・・・どういう事だ?私を差し置いて誰か他の者が、セリーシアをエスコートするのか?」

顔を真っ赤にしてアキーリスがセリーシアに詰め寄る。

赤くなったり青くなったり、今日のアキーリスは忙しい。

「いいえ。一人で参りますわ。では、ごきげんよう」

優雅に礼をしてセリーシアは歩きだす。残された三人は呆気に取られてその姿を見送った。


読んでいただき、ありがとうございます。

ブックマークありがとうございます。

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