侯爵令嬢は探る 3
ブックマークありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。助かります。
キリーナとクララには「また何かあったら知らせてほしい」と頼んでセリーシア達三人は、食堂からシェルター部屋へ移動した。
「マユラ」
「はい。ちゃんとメモしましたわ」
マユラは微笑んで小さなノートを取り出すと「はい」っとレスダールへ渡した。ノートを受け取ったレスダールが読み上げていく。
「モンドリリー男爵令嬢、セリーシア侯爵令嬢に対して『アキ―リスを何処へ隠したのか』と詰め寄る。――中略――再びセリーシア侯爵令嬢に『目障り、消えろ』と暴言を吐き、さらに暴言――中略――『アキ―リスと結婚するのは私だ』と叫んで逃げて行った。※殿下に対して敬称を使わず言った言葉そのままで記載、と。次はキリーナ・バッシュ伯爵令嬢及びクララ・ガスパール子爵令嬢の証言――以下略――。よく書き取ったな」
感心しながらレスダールはノートをマユラに返す。
モンドリリーに絡まれた時、セリーシアは交戦するのを止め、自分が『侯爵令嬢』として振る舞う事で、モンドリリーを挑発した。相手があんなに口汚く罵ってくるとは思わなかったが、暴言の証拠と、証人を得られたのでセシーリアはご満悦だった。
放課後セリーシア達三人は城へ向かった。
城へ向かったがアキーリスと一緒にいるのはセリーシアだけ。他の二人は別室で作業をしている。セリーシアは何の作業なのかは知らないが特に疑問もない。疑問はないが『私にアキーリスを押し付けて』とは思う。
アキーリスと向かい合って優雅な仕草で、セリーシアは出されたお茶を飲む。
「殿下。今日もちゃんと自習してましたか?」
「ちゃんとしてるよ。王子が成績悪いんじゃカッコ悪いからね」
モンドリリーとの接触がないからか、徐々にいつものアキーリスに戻っているようだ。
「セリーシア。こちらへ」
不意にアキーリスがセリーシアの手を取り窓へ移動する。
「ほら、今年も見事だろう?」
窓からは城の中庭が見え、バラが満開に咲いていた。
セリーシアは子供の時からこの城のバラを見るのが大好きだった。
「綺麗ですわね・・・」
「そういえば、もうすぐ長期休暇だね。セリーシアは領地へ帰るのか?」
学園は前期、後期と二つに分かれていてその間に長期休暇がある。ちなみに後期の後にも二週間の休みがある。
長期休暇は二ヶ月間。貴族達は自分の領地へ戻ったり別の場所へバカンスへいったりする。
「そうですわね・・・まだ何も決まってませんわって、殿下!!!!!」
アキーリスが背後からセリーシアを抱きしめる。
「二人きりって久しぶりだなぁ。セリーシア。領地へなんて行かないで休暇中、私と一緒に過ごそう」
「あら。一緒に過ごすのが目的なら、私と一緒に領地へ行くという手もありますわよ」
「ああ、そうだな。それもいいな」
アキーリスはセリーシアの肩に顔を埋めぎゅっと強く抱きしめる。
(『みっともない王太子』は治りつつあるけど、今度は『甘ったれ』になりそうだわ)
「やれやれ」と思いながらも今はアキーリスの好きにさせておこう、とセリーシアはされるがままになる。
だが、そんなアキーリスの至福のひとときは長く続かなかった。
バタンッ。
ノックもなく勢いよくドアが開けられた。
驚いて振り向くと、部屋の入口を塞ぐようにモンドリリーが立っていた。
アキーリスに目線を合わせるとニタっと笑う。
「!!!!!!!」
セリーシアの耳元でアキーリスが声にならない悲鳴を上げる。
ここは警備されている城の中。
何故モンドリリーがここにいるのか。どうやって城に入ったのか。警備は何をしているのか。セリーシアは気色の悪い笑みを浮かべているモンドリリーを見つめながら考える。何故、何故、何故。
「アキーリス様ぁ、お会いできず寂しかったですわぁ」
「!!!!!!!」
モンドリリーの声にアキーリスが反応し、恐怖に駆られ、セリーシアの身体を有らん限りの力で締め上げた。
「っく・・・殿下痛い」
セリーシアがかすれた声を漏らす。
近衛兵を呼びたいのに力いっぱい体を締め上げられているせいで大声が出せない。
モンドリリーはフラフラとアキーリスに向かって歩き出したが、アキーリスがセリーシアを抱きしめているのに気づきピタっと足を止める。
「・・・・・私のぉアキーリス様にぃ。何してるのぉ~」
目の前にアキーリスがいるからだろうか、モンドリリーは今日の学園でのランチの時間と違って、下品な言葉遣いでも、低いドスの効いた声でもはなかった。
「!!!!!!!・・・・うぐぅっ」
セリーシアは、声にならない悲鳴を上げるアキーリスの鳩尾に肘を叩き込み、身体を締め上げていた腕を解くと大声を上げた。
「誰かー‼誰か来てー‼殿下をお守りしてー!!」
セリーシアの大声に反応して、廊下に足音がバタバタと響く。
「殿下!!何事ですか‼」
数名の近衛兵達が現れた。その後ろからマユラとレスダールの二人も。
「その女性を捕えなさい。侵入者です」
モンドリリーを指さして叫ぶと、近衛兵達はモンドリリーを見て戸惑った。ぱっと見では武器なども所持してなく、ただ立っているだけの普通の令嬢だったからだ。
だがすぐにレスダールが叫ぶ。
「その女は危険だ。アキーリスから遠ざけろ!!」
その声にハッとなり近衛兵達はモンドリリーを取り押さえる。
「あ、放して。何をするの。アキーリス様ぁ~」
モンドリリーは表情も言葉遣いも崩れる事なく、可愛い仕草で嫌々と体をくねらせながら近衛兵に引きずられていった。
近衛兵なんて簡単に振り解くかと思われたが、そうはならなかった。
何事もなくてよかったが、いったいどうやって城に入ったのか。セリーシアは胸元を押さえて、短く息をついた。
「二人共、大丈夫か?」
顔色の悪いアキーリスとセリーシアにレスダールが心配そうに声をかける。
「大丈夫ではありませんわ。いい加減にしてくださいな殿下!!」
「え?!私か・・・なんだ?」
「なんだじゃありませんわよ。私を締め上げたでしょう。呼吸が出来なくて大変でしたわよ!!」
「・・・・・すまない。その・・・」
「次はありませんわよ。情けない男は御免ですの」
セリーシアが目を細めて、アキーリスを睨むと、アキーリスはしょんぼりと項垂れた。
読んでいただき、ありがとうございます。