侯爵令嬢は探る 2
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食堂での騒ぎも終わり、周囲もセリーシア達を注目しなくなった。
「あ、あの、失礼します」
物凄く遠慮した声で話しかけられた。声のした方を見ると令嬢が二人オズオズと肩を寄せ合い立っていた。
同じクラスではないが制服のリボンの色から同級生だと分かる。
「あら、お二人とも隣のクラスの・・・」
マユラがにっこりと微笑んで答える。その笑顔にホッとしたのか二人の表情が柔らかくなった。
「はい。私はキリーナ・バッシュと申します。こちらは、クララ・ガスパールです。突然の非礼お詫びします」
バッシュ家は伯爵。ガスパール家は子爵だ。その為自分達から声をかけた事をキリーナとクララは揃って頭を下げた。貴族の中では当たり前の事であるが、モンドリリーにはこれが解らない、出来ない。
「お二人共。こちらへどうぞ。何かお話があるのでしょう?」
マユラがテーブルの向かいに着くように促す。それに合わせてセリーシアとレスダールも二人に微笑んで頷いてみせる。
「私達はモンドリリー様と同じクラスなんです。その、席が隣だったので、学園に不慣れなモンドリリー様をお助けするよう先生に言われて、一緒に行動するようになったんです」
モンドリリーは学園に不慣れというより、貴族社会の仕組みも理解していないようだった。話が通じないところがあるのである。注意すると子供のように癇癪を起し、キリーナとクララに当たった。それでも二人はきっと新しい環境に戸惑っているんだろう、と辛抱強くモンドリリーの面倒をみた。
「私達知らなかったのです。モンドリリー様がまさか殿下にご迷惑を掛けていたなんて」
モンドリリーの暴走は転入初日からの事だったが、キリーナとクララの二人が知ったのは昨日。
モンドリリーが『あの女。アキーリスを隠したんだわ』と苦々し気に呟いた事から分かった事だった。
この学園でアキーリスは王太子ただ一人。とんでもない事を口にしてると、すぐに注意をしたのだが『アキーリスは私と結婚するんだからいいのよ』と愉しげに返してきた。それを聞いて初めて二人はモンドリリーが『ヒロイン病』なのではないかと疑ったという。
「殿下が欠席しているここ最近は、増々言動がおかしくなっていて。セリーシア様達にお知らせするか迷ったのです。ですが、先ほどの騒ぎを見てこれはもうダメだと思い、お話させていただきました」
キリーナとクララは申し訳なさそうに頭を下げた。
たまたま教師に頼まれただけのこの二人も『ヒロイン病』の被害者だ。なのにこの国の貴族ときたら、とセリーシアの中に怒りが沸々とわいてきた。が、顔には出さず被害者の二人に優しく声をかける。
「まあ、お止め下さい。頭を上げて下さい。貴方たちが悪いわけではないはないわ。それに教えて下さってありがとう」
セリーシアがにっこりと微笑むと、何故かキリーナとクララの顔は赤くなった。
そんな二人を見ながらレスダールが口を開く。
「疑問なんだけどさ、モンドリリー嬢はアキーリスとセリーシア嬢が婚約しているって知らないのかな?」
言われて初めて「そういえば」とセリーシアとマユラは顔を見合わせた。王族の婚約である。どちらかに落ち度があるなど、よっぽどの事がない限り婚約を解消する事はない。そして今のところ、アキーリスにもセシーリアにも落ち度など無かった。
この疑問に今まで黙っていたクララが口を開いた。
「殿下は、もう少ししたらセリーシア様との婚約を皆の前で、その・・・破棄なさると。モンドリリー様はおっしゃってました」
クララの話にセリーシア達三人は顔を見合わせる。
婚約の話は幼い頃にアキーリスの方、つまり王家からセリーシアへ、公爵家へと持ち込まれたものだ。アキーリスがセリーシアに、べた惚れの状態で進められた話だ。セリーシアはなりたくもない未来の王太子妃として婚約し、完全な貰い事故である。そのアキーリスが婚約破棄を人前でする。三人は声に出さないが『想像できない。それをやるとしたら、セリーシアだろう』と無言で頷きあった。
「あ、あの・・・」
キリーナとクララは無言で頷きあう三人にオロオロと声をかける。いつもの癖でセリーシア達三人による、脳内トークをしてしまった。気を取り直したセリーシアが問う。
「あ、いけない。ええと、婚約破棄となると相当の理由が必要なのだけれど、その事についてモンドリリー様は何かおっしゃってました?」
「はい、それが・・・・・セリーシア様が、モンドリリー様に嫌がらせや虐めを繰り返した事に殿下が怒って、婚約破棄を言い出して、モンドリリー様と結婚するらしいです」
言いにくそうに話し、最後の方は声が小さくなった。
「私が嫌がらせ?それで婚約破棄をして虐められた方と結婚するの?何故?自分の婚約者がした事に対するお詫び?王家の結婚てそんなものなの?」
疑問がいくつも浮かんでくる。さっぱり意味が分からない。
それに嫌がらせをしているのはモンドリリーだ。されてる相手はアキーリスだが。
「勿論、私達はセリーシア様がそんな事をしていないのを知っていますし。話が滅茶苦茶なのも分かってます。けれど、モンドリリー様の中ではそれで話が通じているみたいで」
さらに、モンドリリーとの結婚を宣言した後セリーシアに国外追放まですると言うのである。
眩暈のする話である。ここにいる全員が訳が分からないと首を傾げた。
「よく分かりませんけど彼女の中では筋の通ったお話なんでしょうね・・・・・。あ、ところで『私はヒロイン』とは言ってなかった?」
再び気を取り直してセリーシアが問う。
「いいえ、今のところは」
キリーナとクララは揃ってかぶりを振る。
「そう。でもこれは限りなく黒よね。私だったら『ヒロイン病』認定してしまうけど。ところでお二人は今の話を公の場で証言して欲しいと言ったらしていただけますか?」
「ええ、勿論です」
キリーナとクララは揃って頷いた。
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