侯爵令嬢は探る 1
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アキーリスを城待機にした初日。
午前の授業は滞りなく終わった。心配だった昼休みもアキーリスを除く三人でいつものように美味しく食事を堪能した。午後の授業も平和に過ぎ去った。二週間前と変わらぬ平和さだった。
問題の男爵令嬢モンドリリーも、今までの言動が嘘のように大人しかった。
諜報を得意とするマユラの家、ドワカンア侯爵家の手の者を使って貴族達の情報も収集しているが、まだ全て終わっていないのでアキーリスに報告する段階にない。
これなら、アキーリスへの報告も『特に何もなし』とレスダールに伝えてもらえば終わりだからと、セリーシアとマユラは『今日は城に行かない』と言った。レスダールは顔色を変えてセリーシアを縛り上げてでも連れて行くと言い出した。『行かない』『連れて行く』で揉めていると、先に優しいマユラが折れ、セリーシアを説得し結局三人で城へ向かった。
こんな事が三日間続いた。
三日目のアキーリスへの報告の時に、セリ-シアが『殿下が学園に登校しないだけで、とっても平和ですわ。このまま殿下は、お城で学んだらいかが?』と進言して言い合いになった。
四日目の日。この日も午前の授業は滞りなく終わった。セリ-シアが「今日も殿下への報告は、いつもと同じね」と思いながら食堂へ向かった。
だが、昼休みは違った。
三人で美味しく食事を堪能し、席を立とうとした時である。
「セリーシア様。アキーリス様を何処へ隠したんですか?」
セリ-シアが「急に大声を出すのは止めて頂きたい」と思いながら声のした方へ目を向けると、問題のモンドリリーが仁王立ちしていた。
いつものアキーリスに話しかける声より、低い声だったものだからモンドリリーの声とは思わず、セリーシア達三人は驚いた。
(普通に話す事も出来たのね。舌ったらずな話方よりこっちの方がいいわ。声は妙にドスが効いているけども)
だが、今までアキーリス以外に興味のなかったモンドリリーが絡んできた事に、セリーシアはげんなりした。
しかも、きちんと紹介もしていないのに、男爵家が侯爵家に喧嘩を吹っ掛けるような物言いとは。呆れたセリーシアは目を細めて見返す。食堂中がシーンと静まり返った。
「失礼ですわ、モンドリリー様。セリーシア様ときちんとご挨拶なさっていないでしょう」
セリーシアの顔を見て、まずいと思ったマユラがやんわりと咎める。咎めているが助け舟だ。
言われたモンドリリーはきょとんとした顔をしたが、すぐに険しい顔になった。
「腰巾着のくせにしゃしゃり出てこないでよ!!」
今度はマユラが言われた意味を理解できずにきょとんとする。
モンドリリーは急に性格が変わったかのように、顔も言葉使いも令嬢とは程遠くなった。その様子に周囲から雑音が消え、食堂は静まり返り注目の的になってしまった。
「・・・何か御用?」
マユラに対して取った行動に苛立ちながら、冷たくセリーシアが返す。
「御用ですって。あんたが私のアキーリスを隠したんでしょう」
モンドリリーがキーキーと喚く。侯爵令嬢のセリーシアに対して、男爵令嬢が『あんた』などと上から目線な呼び方をし、『私の』も問題だし、王太子を呼び捨てとは不敬が過ぎる。
セリーシアはマユラに目配せをしてから、モンドリリーに向き合った。
「隠すだなんて。殿下は体調を崩されてお城で休養中ですわよ」
(貴方のおかげでね)
セリーシアは困ったように微笑みを返す。先ほどはマユラに対する無礼さに怒り、対戦モードに入ったが、マユラに目配せをした後から、如何なる時も気品溢れる『カテラウカ侯爵令嬢』に切り替えた。
「悪役令嬢のくせに、いつまでもアキーリスに纏わりついて。目障りなのよ!!」
『ヒロイン病』の患者は言動がおかしくなるというが、こんなに口汚く罵ってこれで王族と結婚出来ると思っているなんて不思議でしょうがない。
それに、聞きなれない単語が出てきた。『悪役令嬢』とはなんだろう。令嬢は解る。しかし悪役とは何か。モンドリリーはセシーリアがアキーリスを隠して、会わせないようにしていると思っているから、『モンドリリーの邪魔をしている』=『悪役』ということだろうか。
考えて黙ってしまったセリーシアにモンドリリーは何やら喚いているが、セリーシアはちっとも聞いていなかった。
「アキーリスと結婚するのは私なんだから!!」
アキーリスに会えない苛立ちをぶつけたかっただけだったのか、言うだけ言うと最後に捨て台詞を吐き、鼻息荒くモンドリリーは去って行った。駄々をこねている子供のようだ。
『あんなヒステリックな礼儀知らずが王太子なんかと結婚できるわけないだろう』と、食堂にいた全員が冷めた気持ちで、モンドリリーを見送った。そして、訳の分からない女に絡まれたセシーリアに同情の視線が送られた。セリーシアも周囲の期待に応えて「何をおっしゃっているのか分からなくて、困っています」と表情を作っていた。
モンドリリーの姿が完全に見えなくなると食堂に騒めきが戻った。
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