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疑わしい令嬢 3

「あの病って有効的な治療がまだないんですよね」

ふうっとマユラが溜息をつく。


『ヒロイン病』は治療法が確立されていない。なので、発症した国は隔離という方法をとっている。今のところ患者の希望――目を付けた男性を囲う及び、結婚を等を果たした患者はいない。


「殿下。結婚してみたら?あの方の病が治るかもしれないわ」

セリ-シアが「名案だわ」とアキーリスに言うと、アキーリスはクワッと目を見開いた。

「治らなかったら?治らなかったらどうするんだああああ」

セリーシアの肩を掴み揺さぶるアキーリス。

セリーシアの鉄拳がアキーリスに炸裂する前に、レスダールが慌てて揺さぶる手を引き剥がす。


「それはそれで面白いかも」

セリーシアは乱れた髪を手でかき上げる。が、途中でその手をアキーリスにガシッと掴まれた。

「よし、セリーシア。今すぐ私と結婚しよう」

「お断りします」


「まあ、お二人とも面白いですわ」

「・・・さっさと二人が結婚したら。意外とこの騒ぎが落ち着くかもよ」

クスクス笑うマユラと、やれやれと頭を掻くレスダール。


そこへ昼休み終了を知らせる鐘の音が響く。

「あら、殿下食べ終わっていないじゃないの。残したら結婚しませんわよ」

セリーシアの言葉に急いで残りを口に突っ込むアキーリス。木の実を詰め込んだリスのような顔になる。麗しの王太子が台無しである。いや、先ほどからずっと台無しだった。

マユラは「見てはいけない」と両手で顔を覆い、レスダールは爆笑した。



セリーシアは午後の授業に出るため立ち上がるが、腕をアキーリスに掴まれる。


(この手。ローストサンドを食べ終わった後、ちゃんと拭いていたかしら?服にシミが出来たら嫌だわ・・・)


そんな事を思いながら「何か?」とアキーリスに視線を向ける。

「何処へ行くんだセリーシア」

「何処?授業を受けに行くのですわ」

「わ、私は、もう帰る」

「さようですか。では、ご機嫌よう」

「何を言っている。お前も一緒に帰るんだ」

アキーリスは逃がすものかと、ぎゅっとセリーシアの腕を引く。否、しがみ付いた。

「・・・殿下」


(腕が痛い・・・デコピンか、思い切って首の付け根に手刀か・・・)


「お城で作戦会議の続きですか?」

セリーシアが物騒な事を考えていると分かったマユラが、アキーリスに助け舟を出す。

「そうだね。そうしよう。ね、セリーシア嬢」

マユラと同様に物騒な空気を感じ取ったレスダールは、アキーリスとセリーシアの背中を押して馬車へと向かわせる。

仕方なくセリーシアはアキーリスに従った。


城に着くとアキーリスの部屋に向かった。侍女がお茶とお菓子を置いて去ると、学園での話の続きを始める。

「ところで、昼間は何を言われたんだ?」

お茶を一口飲みレスダールがアキーリスに訊ねる。

「・・・・・」

「結婚式のドレスの打ち合わせでしたわね」

顔を顰めて黙り込むアキーリスの代わりにセリーシアが答えた。

「わ、私は、あの女なんかと結婚したりしない!!!!!」

セリーシアに絶叫するアキーリス。


「殿下、黙っていて下さる。私が話していいわよ、と言うまで黙っている事ができたら、キスしてあげますわ」

酷い形相で叫んでいたアキーリスが、ピタッと止まった。

「キ・・・」

アキーリスは真っ赤になって口ごもる。

そんなアキーリスにシーっと人差し指を口の前に立てて「ね?」と、にっこりと微笑んでみせる。

アキーリスは真っ赤な顔で俯いた。


「・・・扱いが上手くなったな、セリーシア嬢」

「お褒めに預かり光栄ですわ。それより殿下のこの不甲斐なさはどうしたものかしら?」

アキーリスは決してダメ王子などではなかった。むしろ、気品に溢れ頼りがいのある憧れの王太子だったのだ。間違っても絶叫したり、変顔したり、涙目で助けを求めるなど、する事はなかった。いつも余裕たっぷりにセリーシアを揶揄っていたのだ。


セリ-シアがちらりと視線を向けると、何か言いたげに目を見開いて、表情で訴えてくる。

セリ-シアが目を細めて『黙れ』と見返すと、アキーリスはしょぼんと俯いた。


「いや~、でも、あれは恐怖だよ。今まで王太子相手に、あんな無礼を働くヤツはいなかったし。そう考えると今はいい方かな?ケガしなくなったもんね」

「王太子がこんな目に遭っているのに、放置している国に問題がありますわ」

「マユラの言う通りだわ。さっさと隔離してしまえばいいものを」

セリーシアは自分の父親を始め貴族達に苛立たしさを覚える。


この国はとても恵まれていて、王家に謀反を、国を乗っ取って我が物に、などと考える下臣はいない。国が、民がより良くなるならばと日々努力を惜しまない貴族達ばかりだ。だからこそ、『いたいけな少女を閉じ込めるだなんて』と『ヒロイン病』を認めず、王を始め貴族達は手を出すのを躊躇ったのだ。


『ヒロイン病』患者も問題だが、アキーリスも問題だ。王太子たる者が、あまりに頻繁に情けない姿を晒すというのも王家の威厳に係わる。気品あるイケメン好きのセリーシアの中でもアキーリスの評価が下がる。


「あと、数日で長期休暇ですし、殿下は明日から学園を休まれてはいかがですか?」

え?っと驚いた顔でアキーリスはセリーシアを見つめる。そんなアキーリスに対して、もういい加減声を発してくれればいいのに、とセリーシアは思った。


「そうですわ、アキーリス様。このところ顔色も良くないですし、このままでは倒れてしまうかもしれませんわ」

マユラがセシーリアに同調すると、アキーリスはレスダールに視線を向ける。その視線の意味する『一人で暇つぶしは無理』をレスダールは正しく読み取った。

「じゃあ、セリーシア嬢も一緒に休んでさ、その時間アキーリスと一緒にいたらいいじゃない?」

「いいえ、私はあの方を観察するわ。殿下がいない時にどうなるか」

遠くからね、と付け足す。


アキーリスが恨めし気に睨んでくるので、しょうがなくセリーシアは宥めにかかる。

「殿下。殿下には安らぎを得てもらう為にもお城で大人しくして頂かねばなりません。そして私は情報取集の役目があります。勿論、マユラとレスダール様にも。授業が終わったらすぐに、殿下に会いに来ますわ。ね?」

サービスでにっこりと微笑んでみせるが、アキーリスの顔は変わらない。ちっ、と舌打ちしたくなるのを抑えて、セリーシアは笑顔で畳みかける。


「半日も殿下と会わない日が続くなんて、なんだかとても新鮮で私ドキドキしてしまいますわ。きっと毎日早く殿下に会いたくて堪らなくなるんでしょうね」

こんな状態のアキーリスに半日も会わずに済むと思うと、嬉しくてうっとりとしてしまう。

セリーシアの言葉と恍惚の表情にアキーリスは嬉しそうにし、マユラはチョロ過ぎるわ、と苦笑し、レスダールはアキーリスが大人しく城にいてくれそうなので安心半分と、セリーシアにいいように扱われているのを見て、半分複雑な気持ちになっていた。


「ね?殿下、お返事は?」

「・・・はい」

アキーリスは嬉しそうに、はにかみながら返事を返す。

アキーリスの返事を聞いて「ああ、アキーリス。やっちまった」とレスダールが呻いた。

その声を聞いてキョトンとしたアキーリスにセリーシアはニヤリと笑う。

「私、話ていいとは言ってませんわよ。キスは無しね」

返事は頷くだけでよかったのに、律儀に声に出したアキーリス。

「んなっ?!セリーシアァァァァァァ」

アキーリスの絶叫が響き渡った。

読んでいただき、ありがとうございます。


ブックマークありがとうございます。嬉しいです。

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