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第3章 氷河期世代

JRの山手線に新橋という駅がある。


若い人はあまり、興味のない街だと思われる。だが、SL広場でサラリーマンのインタビューをテレビで1度は見た事はあるはずだ。SL広場は蒸気機関車が設置してある場所だ。そう、ここはサラリーマンの集まる街である。


とは言っても、丸の内や六本木で働く、スタイリッシュなサラリーマンはほとんどいない。昭和のダボダボのスーツ、襟の黄ばんだワイシャツ、中年太りの腹に乗っているネクタイなど、身なりを気にしなくなったサラリーマン中心の街なのだ。


JR新橋駅は線路を挟んで、主に汐留口と日比谷口と呼ばれる2つの改札口がある。汐留口には日本のメディアを支配している電通、日本テレビ、共同通信社などの高層ビルが並ぶ。いわゆる、勝ち組みのホワイトカラーの企業が多く集まる場所だ。


本社はドラマで出て来るようなカッコいい高層ビルで、若者なら一度は働いてみたいと思える企業だ。おそらく、彼らの平均年収は1000万近い人が多いらしい。まあ、コネがあるか、相当頭が良い奴以外は入れないのが現実だ。


次に正反対の日比谷口を紹介しよう。日比谷口には居酒屋、ファーストフード店、風俗店などブルーカラーの人間が集まっている。他にも、個人の居酒屋や飲食店の多数あり、中高年をターゲットにしている。


日比谷口の改札口を出ると、まず目につくのが、新橋のシンボルと言われるSL広場であろう。冒頭でも説明したが、サラリーマンのインタビューによく使われる場所である。


そして、もう一つのシンボルがある。それはニュー新橋ビルという建物である。通称オヤジビルの異名を持ち、ここに昭和のサラリーマンの欲求の全てがあるのだ。そう、この中は昭和末期の世界が取り残されているのだ。


1Fは喫煙するための喫茶店、いつも行列のナポリタン店、金券ショップ、パチンコなどがある。


2Fにはテーブル型ゲームの置いてあるゲームセンターがある。それは脱衣マージャンやテトリスなど古い機種も多い。あとは中国人が呼び込みをするマッサージ(ごく一部の店舗のみ風俗店)などカオスな感じが味わいたいなら行ってみてくれ。


3Fはバイアグラ処方店、漢方薬を扱った店などがある。4Fは比較的に落ち着いており、高齢者が囲碁や麻雀が楽しめる場所だ。他にも各階には経営が成り立っているかも怪しい店が沢山ある。一体、どんな客が買いに来ているのか不思議で仕方ない。


さてさて、俺の働く職場も客が来ないそうな店の一つである。そう、ニュー新橋ビルに入っている古本屋なのだ。とは言っても、品揃えは小説しかなく、値段もブックオフの4割増しの値段で高めである。


なので、当然ながら売り上げはほとんどなく、立ち読みをする年齢層の客もいないので、いつもガラガラなのだ。だが、人を寄せ付けずに目立たなくする事が目的だからこれでいいのだ。ここは違法風俗の受付であるのだから……。



俺はSL広場の喫煙所で煙草を吸っていた。2005年の10月の東京は風が強く吹いており、俺の夏用のスーツは少し肌寒さを感じていた。ふと周りを見ると、くたびれたスーツを着たサラリーマンばっかりだ。


彼らはゾンビのような目つきで、携帯電話をいじっている。新橋にいるサラリーマンなので、風俗か出会い系サイトでも見ているのかもしれない。


1991年のバブル崩壊、2001年のITバブル崩壊、これらの状態から2005年頃の日本は最悪の不景気であった。この時期、日本政府はバブル脱却のスロガーンを発表した。しかし、格差は埋まることはなかった。


それもそのはず、2004年には製造業の派遣労働が解禁されたのだ。簡単に言えば正社員のイスが減り、使い捨ての派遣社員が増えたって事だ。企業は社員を育てる事を放棄して、いつでもクビに出来る派遣社員を雇った方が、効率的だと気が付いたのだ。


その結果、普通の大学生は正社員になる事は出来ず、派遣という生き方を選ぶしかなかった。派遣社員は過労死するか鬱病になるまで働かされて、使えなくなったらクビをきられる底辺の人間だ。


仕事仲間であるはすの正社員も派遣社員を奴隷のように扱う。奴隷は使い捨てのガムのように、味が無くなったら、ゴミのように道端に捨てられるだけの存在だ。誰からも感謝されずに、若者からバカにされて消えていく。


その派遣社員の末路は、通り魔になるか、電車に飛び込んで脳みそをぶちまけて死ぬだけだ。富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しくなる……。いわゆる、そんな冬の時代の話だ。

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