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第10章 落とし前は、指4本で……

俺はハッキリした口調で言った。

「いや、そんな貯金ないです。私には払える額ではないです。どうしてもと言うなら、弁護士に相談します。なんなら、警察だって……」


しかし、天王洲は俺の言葉を遮った。

「おい、お前ら……」

そう言うと、天王洲の3人の子分がテキパキと動く。


最初に俺を拉致した2人組が近づいてきた。そして、男の一人が俺の後頭部を両手で掴む。それから、頭をテーブルの上に押し付けた。右頬と右耳がテーブルに押し付けられて痛い。まるで、強制土下座の状態だ。


もう一人は両腕を使って、俺の左手首をガッチリと掴んでいる。この状態で動かせるのは右手のみだ。俺は右手で抵抗しようと試みる。


しかし、最後の一人である運転手をしていた男が、俺の右手首を両手で掴んだ。そのまま固定して、テーブルの上に乗せたのである。


俺もまあまあ腕力はあるが、3人に抑えられているのでビクともしない状態である。顔が横向きの状態ではあったが、自分の右手と、天王洲の顔は見えた。俺は精一杯の強がりで反論した。


おそらく、震え声になっていたと思う。

「いっ、いったい、何をする気ですか? これは犯罪ですよ。俺は暴力には屈しませんよ。警察に通報したら、アナタの方が困るんじゃないですか?」

しかし、天王洲は警察をビビらない人間みたいだ。


奴のニヤニヤとした口元がそう物語っていた。

「ああ、知っているぜ。お前は度胸あるよ。おい、片桐……」

「はい」


その返事をした声の主である片桐は武器を持っていた。その武器とは小型の斧であった。全長は30センチ程度なので、大木は無理でも、枝とかなら簡単に切れそうな感じだ。アウトドア用とかの刃物だろう。


天王洲はニヤリを笑った。

「もう、金は払わなくていいぞ」

「えっ、どういう意味ですか?」

「右の指1本で100万だ。俺は優しいから、それで勘弁してやるよ。まあ、残りの人生はちょっと不便になるけどな。でも、金を払えないじゃ仕方ないだろ? まあ、親指は残してやるよ」


おいおい、ちょっと待てよ……本気か? こんなんで右手がオジャンは勘弁してほしいぜ。そうなったら、残りの人生はどうなるんだ。大好きなゲームのコントローラも握れなくなるし……。


いやいや、それ以前に就職なんか相当難しくなる。他にも、外出時に他人の好奇な視線に耐えられない。義指をするか、常にポケットに手を入れないといけなくなる。俺の頭の中がこの状態を拒否する。嫌だ……嫌だ……。右手を失いたくない。


まだ、失ってないのに、右手の指をなくした自分の姿を頭に思い浮かべた。指がポーンと切断されて、血がドバドバと出て、激痛で床にのたうちまわる姿を……。いつも死にたいと言っていたが、実際にこういう目にあると、なんでもない日々が幸せに感じた。


すると、俺は恐怖でパニック状態になる。

「ちょ、ちょっと……待ってくれ……」

「いや、待たねえ。片桐やれ」


片桐は手慣れたように返事をする。

「はい」

そう言って、右手に握り締めた斧を振り上げた。


この事務所の中で、味方になってくれそうなのは涼子さんだけだ。もう、ダメ元で頼み込むしかない。


俺は涼子さんに助けを求めた。

「涼子さん、助けて、助けてください」

もう、強情を張って、カッコつけるパワーもなかった。みっともなくてもいいから、ここから脱出をして、いつもの日常に戻りたかった。


俺の声に涼子さんは顔を上げてくれて、目線を合わしてくれた。おお、何とかしてくれ頼む、頼む、頼みます……。それも、一瞬であり、すぐに顔を地面の方に伏せてしまった。クソ、やっぱり駄目かよ。女ってマジでクソだぜ、クソだぜ、クソ、クソ、クソ……。


俺はここで一気にカッコ悪く命乞いをする。心が完全に折れてしまったのだ。

「払う、払うから……。だから、ちょっと、タンマ、タンマ……」


しかし、天王洲はその提案を拒否した。

「おいおい、タメ口かよ。礼儀の知らない奴の頼みは聞けないぞ」

「待っ、待ってください。400万円を払いますよ。いや、払わしてください。お願いします」

「もう、いらねえよ。俺はお前の右指を無くした姿を見たいだけだからさ。じゃあ、行くぜ。フフフ、親指を覗いた4本だったな。おい、片桐やれ……」


そう言うと、片桐が斧をテーブルに向かって振り下ろした。空高くから、ブオンという音が聞こえた気がした。


俺はみっともなく、小学生のように大声で叫んだ。

「分かりましたぁあーー。何でもしますぅううううううーー」

しかし、その声は届くことはなく、斧はテーブルに向かって振り下ろされた。俺は恐怖で目を閉じた。


俺は暗闇の中にいた。もう、指は切り落とされているだろう。だが、痛みがないのが逆に恐怖を感じた。俺は恐る恐る目を開いた。しかし、右手の指は全て無事な状態であった。


右手の30センチ横のテーブルに斧が突き刺さっていた。もし、ずれていたら、指がなくなっていたのは間違いない。俺は大量の汗が背中に浮き出て、着ている衣服にくっついているのが分かった。


それだけじゃなくて、顔にも冷汗が垂れており、心臓もバクバクとしていた。ヒュッーヒュッーと口笛みたいに、深呼吸をして冷静さを徐々に戻す。


しばらくして、片桐が口を開く。

「社長、すいません。川島さんが騒ぐから、手元が狂ってしまいました」

「ああ、まあいいさ。川島さん、さっきなんでもするって言ったよな?」


おそらく、恐怖を植えつける芝居だという事は分かった。だから、指を切断しなかったのだ。しかし、俺はもうこの時点で逆らう気力がなかった。


だから、震える声で返事をするしか出来なかった。

「はい、なんでもします」

「そうか、そうか……。じゃあ、迷惑料込で500万だったよな?」

「はい」

いつのまにか、100万円も上乗せされてしまったのである。


そして、天王洲は裏切らないように念を押してきた。

「お前が思っている通り、1回目は芝居だ。だが、2回目は確実に切り落とすからな。分かったか? 俺を裏切るなって事だぞ?」

「はい、裏切りません」


テレビなどではヤクザは怖くない。警察や弁護士に相談すれば大丈夫など言っている。しかし、実際に対峙したら、恐怖で頭が真っ白になってしまうのが現実だ。


片桐が3人の男に命令する。

「おい、川島さんから手を離せ」

そう言うと、3人の手から解放されたのであった。そして、再びソファに座らされた。右頬も痛いし、両手首も痛いし、頭もガンガンして調子が悪い。何よりも、心が折れてしまっていた。


しばらくすると、片桐がテーブルの上にボールペンと借用書を置いた。

「川島さん、借用書の確認お願いします。それと、サインお願いします」


俺は人生で初めて、借用書を書く事になったのである。内容については、片桐から簡単な説明があった。金額は五百万であり、改竄されないように、漢数字で記載されていた。これは数字の1だと4に改竄が出来る為らしい。まあ、一つ勉強になったわ。


片桐はテキパキと話しを進める。

「まあ、ウチは合法的に金を取れればいいです。あんまり、金額を増やしても、川島さんも逃げてしまうでしょう?」

「はい、そうですね」


この時、俺は放心状態でマインドコントロールにかかっていた。とにかく、相手に言う通りに行動をしていた。こうして、俺は500万円の借金を負う事なったのである。


借用書を書き終わると、天王洲の言葉が穏やかになった。

「さて、次は金の話だ。川島さんは働いてないんだよな?」

「はい」

「いや、別に無職でもいいけどよ。500万の金は用意出来るの?」


いや、無理に決まっているだろうが……。実家にもそんな金ないしどうすればいいんだ? いっそ何処かに逃げてしまうか? いや、こいつらはプロだから逃げきれないだろう。


俺が無言で考え事をしていると、片桐が天王洲に話しかけた。

「社長、王さんの風俗店で人手が不足しているそうです。川島さんにはそこで働いてもらったらどうですか?」

「ああ、そうだな。そうしてもらうかな」


王って誰やねん? 危ない仕事でなければいいのだろうだろうが……。俺は仕事内容を聞く事にした。秋葉原でワンという男が違法風俗店の経営をしているらしい。なんでも、中国人のビジネスマンらしい。


そこで、借金を返せば解放してやるという話だった。もう、俺は後がないし、とりあえずは言う通りに動くしかない。命がヤバイくらいの仕事なら、右手の指を無くす覚悟をして逃げればいい。


天王洲とかの知り合いだから、普通のビジネスマンじゃねえ事は確かだ。こうして、俺は違法風俗店で働いて、借金500万を返す人生が始まったのである。

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