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広場まで辿り着くと、明るいうちにはあんなにもあった食料が無くなって、大きな台が残っているだけだった。そしてここまで来てようやく、辺りの家や建物には明かりがついていた。広場の隅には、女性が描いていた完成が見えない未完成らしい絵と、その空間が置きっ放しになっていた。二人は広場を抜けて、モネが引き返した場所を過ぎると、家や建物が並ぶ中で一際目立つ大きな建物があった。
「あの大きな建物だよ。あそこではみんなで集まって話をしたり、食事をしたりするんだ」
その大きな建物を見て、モネは懐かしく感じた。その建物が、明らかにルヒの作ったであろうものだったからだ。この街にある他の建物とは、明らかに違うその建物に近づくにつれて、賑わう声が聞こえてきた。
「待っててって言ったのになあ。
始めちゃっているみたいだね。まあ、行こうか」
ソムに続いて中へ入ると、そこに広がっていた光景は、モネが想像していた食事会とは違う異様なものが広がっていた。十数の者に囲まれている長い机には、大きな赤い実がいくつも置かれていて、その周りを料理や酒が囲んでいた。それだけならば普通の光景だったが、異様だったのはそれ等が皆して、赤い色に染まっていた事だった。
食べ散らかし飲み散らかされ机や床に散乱しているそれも、項垂れへろへろになりながら木の実らしき物をかじるものや、へらへらと笑っていたかと思えば奇声を発する者。一様に笑っている者等全て、口元や手元が赤く染っていた。そして顔を強ばらせるモネの目は、彼等が赤く染まっている原因を見つけた。
机に広げた赤い粉を小さく寄せ集めて、目を見開いて貪り吸い込む者がいた。吸い込んで見上げたその者は、そのまま背もたれにぐったりとして動かなくなったと思えば、肩で笑い始めると飛び跳ねて立ち上がり辺りを室内を駆け始めた。
「皆あ、待っててくれってえ言ったじゃないかー!ほらあ、お客さんも来たよお」
ソムの声に、皆が一斉にモネへ注目した。一時静かになったかと思えば、渇いた笑い声からまた賑わいに似た狂音に溢れた。狂気に恐怖しているモネの腕を、赤く染まった手が掴んだ。
「ほら、こーれ。
あんたもどーうぞ、楽しくなるわよお」
よく見ると、それは明るい時にモネを追い返した女性だった。そして腕を引っ張られて座った彼女の前に、赤い粉がばらまかれた。モネは隣で赤い粉を吸い込む女性を見て、手を振り払って立ち上がった。
「わ、私は結構です。
すみませんが失礼します」
半ば逃げるように、モネは建物を飛び出した。その様子に女性は大笑いをして、踊り出した。ソムはため息をついて「駄目だったかあ」と呟くと、赤い粉を指で摘んで舐めた。
「もー、待っててくれって言ったじゃないかあ」
「だってー。だって、ルヒが樹に還ったんでしょう?みんなこれでも、少しは弔いのつもりでいるはずよお」
「ああー還った、還ったよお。
この目で、見届けてきたからねえ。
あれは、間違いなくルヒ君だったねえ。
悲しいかい、ルネ」
「悲しいしー、さーびしいーなー」
女性は涙を流しながらも、笑う事を止められなかった。ゆったりくるりと踊りながら、笑みを浮かべて悲しんだ。踊りながらルヒの事を皆へ伝えて回ると、より笑みが、泣き声が大きくなった。ソムはしばらく、静かに彼女等の様子を見ていた後、小さな酒筒を持ってその場を離れた。




