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モネと樹  作者: I.me
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眠っているかのようにぐったりとしている彼は、薄らと笑みを浮かべていた。その虚ろな目は何処を見ている訳でもなく、ただ開いているだけだった。しばらくするとルヒは起き上がり、また書物だったものを眺め始めた。持ってはヒラヒラ、持ってはヒラヒラと。床へ散りばめられていくそれ等には、ルヒがこれまでに携わった建造物の事柄が記されていた。そして中身の無くなったモネの御守りを顔の前で掲げると、彼は泣いていた。


「…病気。病気に効く、か。

君は優しいなあ、モネ」


御守りを首から下げるとダラりと立ち上がり、項垂れたままにのそりのそりとルヒは歩き出して表へ出た。暗がりにまだ街中が明々としている中で、彼は時計塔の前まで来ると立ち止まり、見下げるように見上げた。前髪の隙間から時計塔の姿を確認すると、また項垂れ時計塔の階段を登り始めた。しかしダラりとしながらも、鼻歌交じりに足取りは軽く踊るようだった。階段を登り切ると、白い襯衣の裾は風がはためかせた。そして赤い実で染まった袖口の両腕を広げて、ぐるりと街を見渡した。


「どうだいこの景色、僕が作った景色だ。

素晴らしいだろう、凄いだろう。

この街も、この時計塔も。

あの時の僕は、なんて素晴らしいんだ。

あの時の、僕は…」


見渡しながら歩いていた彼は時計と目が合うと、その前で立ち止まった。そして柵に腰掛けて、しばらく時計と見つめ合っていた。何を思うでもなく、何もするでもなく。目を逸らすことなく、膝に肘を着いて、ただ見つめ合っていた。針が動いた音が響くと、ルヒは時計盤まで歩み寄った。


「時間が経てば、どうにかなると思っていたんだ。時が解決してくれると、またあの時のように何か作れるようになると。お前の力でも、僕はもうどうにもならないんだな。ごめんね、モネ。君の優しさに、僕は応えることが出来ないようだ。僕にはもう、本当に何も…」


乾いた涙と止まらない笑みを浮かべて、時計盤に触れながら「あの時は…」と呟いて間もなく、ルヒは時計の針に手をかけた。赤く染まった両手で、思い切り引っ張り始めた。軋む針に、歪む表情が力を緩めなかった次の瞬間、時計の針は重い音と共にへし折れた。そしてルヒは、へし折れた衝撃に体勢を崩して、針と共に柵を壊して落下した。


へし折った針を抱きながら、ルヒは仰向けに動けなくなった。彼が見上げるその先にあるのは、ひしゃげた長針と残された短針だった。聳え立つ時計塔を墓標のように、ルヒの息は静かに途絶えていった。




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