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「あの、こんにちは!」
「え?あーこんにちは!」
女性は振り返って挨拶を返すと、果実を口に加えながら歩みを止めなかった。モネは彼女を逃がさまいと、駆け寄って後に続いた。そして女性がべたりと座り込んだ場所は、広場の隅にある見晴らしの良い場所で、大きな絵を描いている様だった。
「あの、あそこに積まれている食べ物、食べていいんですか?」
「え、あたしかじってるし、絵にもぶちまけてるわよ。ああ、あなたソムさんが言ってた客ね。
お好きなのをどうぞ」
女性は話し終わる前にモネから目を逸らして振り返り青い果実をかじると、口元から果汁を垂らしながらかじった青色を絵の一部として足していた。モネはそれ以上、声を掛けられなかった。女性と絵の空間を、自分という邪魔で汚してしまう事を理解したからだ。
仕方なく諦めて食材達の所まで戻ると、女性が食べていた青い果実を手に取った。見かけよりも柔らかく、そして重たかった。両手で持ってかじってみると甘酸っぱく、口元から果汁が零れた。樹面といおうか、床といおうか。どこか汚していないか見回すと、上着の袖に少し色が着いただけだった。ワイスに謝らなければと考えながら、広場からさらに奥へ進んで行くと、また建物が建ち並ぶ場所へ出た。そして少し歩いた所で、女性の声がした。
「ちょっとあなた!
あなたよ、待って!」
「私、ですか?」
「そう、あなたよ。
今はここから先、行っちゃダメ」
「え、そうなんですか。
ごめんなさい。私、知らなくって」
「どうしたんだいルネー」
女性の荒らげた声に、近くの建物からだらりとソムが出てきた。
「ああ、君だったか。
すまないねー、今はここまでにしておいて。
色々と明日の準備をしていてね。
次の暗がりには、君を招待するからね」
「食事会の準備ですか?それなら、私も手伝える事があればさせて下さい!」
「いやーいいんだ、お客さんなんだから。
明けた日の暗がりには、迎えに行くから楽しみにね」
「そうですか。
んー、それじゃあお言葉に甘えて。
お邪魔してすみませんでした」
「いやいや、それじゃあまたね」
少し頭を下げて、モネは来た道を戻って行った。彼女の後ろ姿が見えなくなると、ソムは安堵して息を吐いた。
「いやー引き返してくれてよかったよ」
「あの子、ソムさんが来なくても帰ろうとしていたよ?」
「え?私に許してもらってるとか言わなかったのかい」
「まったく」
「へえー、いやあ。
良い子というか、馬鹿というか。
やっぱり変わっているなあ」
「でもどうして?
手伝って貰えばいいじゃん。
さっき運ぶの面倒くさいってだらけてたのに」
「えーびっくりさせたいじゃないか。
どんな反応するかをみたいし。
楽しみだなあ」




