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「はあ、また君か。
何しに来たの」
小路の先にある裏通りに、ひっそりとした佇まいの古びたちっぽけな建物の前で、植木に水をあげているルヒが居た。彼はモネが近付くと、声を掛ける前に彼女に気付いた。気だるそうに彼女を見ると、直ぐに目を逸らした。
「この街から離れるから、挨拶しておこうと思って。たくさん案内もしてもらって、お世話になったから」
「それは構わないよ。
下の町へ帰るの?」
「いいえ。上の街へ行く事になったの。
それであなたにお礼をしようと思って、これを」
「これは…」
「それは私が祖父からもらった御守りなんだけれど、その中にはとても珍しい実の欠片が入っていたの。それでね、その実が病気に効くらしいと聞いて。病気を治して、また立派な建物を作ってほしくて」
「君は、これが何なのか知らないのか?
病気、病気って。
僕にはもう、何も無いって言っているじゃないか。それに上の街へ行くだなんて。
僕はやめた方がいいと思うよ。
街の皆が、思っているような場所じゃない」
「知らないけれども、私はもう行かなくちゃいけないから。上の街へ行くのを止められたのは、その御守りをくれたお祖父さん以来だわ。私はあなたに、また何かを作ってほしい。そして私に出来ることは、あなたの病気に効く可能性のあるこの実をあげることしか出来ない」
「だから…」
「あなたなら、また作れるはずよ。
だってこの街並みや時計塔、それに…。私はここへ来て、目を奪われたもの。お願い、もう何も無いなんて言わないで」




