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「あ、この帽子…」
モネの声に近寄った女性と二人が帽子の落ちていたその先を見て、漸く状況に気がついた。裏口を出た所で、このお店のお爺さんは樹に還っていた。涙を流す女性と共に、帽子と花を供えて二人はお店を後にした。
「私もここへ来たのは数年ぶりだったから。
もっと会いに来ていれば良かったんだけれど」
モネはその言葉に、お店のお爺さんが樹に還った時の様子を想像していた。樹には脈と言われるものがあり、その脈の流れへ乗せることで樹に還っていく。脈から遠い場所だと、そのまま硬くなり歪な樹の破片のようになってしまう。お店のお爺さんの様子は、少し歪になっていた。そして女性は気がついていたかは分からないが、自ら這った後が僅かに残っていた。モネはその状況を考えると、居た堪れない気持ちだった。
「もうすぐ街の入り口よ」
その案内に気持ちが入れ違うように、モネは上を見た。扉の様な場所に根が生い茂り、それを開くと中は薄暗かった。根の隧道の先に見える明かりへ進んで行くにつれて見えてくる景色に、モネの表情は笑みを浮かべていた。隧道を抜けると、落ち葉が敷かれているような道に、枯れて折れた木々が寄せられていた。茶色や色褪せた物で形作られたその場所でも、モネにとっては初めての景色で、彼女は女性に落ち葉を拾っても良いかと尋ねて、汚らしいものを見るような表情を押し潰して応えたそれを他所に、喜んで数枚懐へしまい込んだ。そして先へを進んで行くと、落ち葉が掻き分けられた道に出た。