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「よし、行ってくるね」
数日後、モネは荷物を鞄へ詰め込んで、お爺さんの形見になってしまった御守りを首から下げた。そして根から幹へと続いている道を登り始めた。その道はお爺さんから聞いていた印象とは違い、歩きやすく階段も作られていた。大きな葉の上で眠ったり、柔らかい苔の上で眠ったりを何度かして登って行った。すれ違う人は居ないものの、足取りは軽いものだった。辺りの葉の色も変わり始めた事に気付き振り返ると、星の降り注ぐ町から随分と遠くへ登ったようだった。豊かに彩色されている景色のように根元で広がる町並みに、モネは樹へ寄り掛かりしばらく眺めた。そして上を見上げると、道なりに登り始めた。間もなく出張った枝をくぐると、少し拓かれた場所に椅子や机が置かれていて、辺りを一望しながら休める所が作られていた。
「誰も、居ないのかな」
モネはお店のような造りになっているその場所を見渡して、声を掛けてみたが返事は無かった。彼女は椅子に腰かけて一休みする事にした。花や葉と茎、それらを水とともに筒に入れた後にきょろっと辺りを見渡すと、明るく光る蟲をひと救いして同じように入れた。温まった水から蟲を逃がすと、景色を眺めながらそれを飲んで一息ついた。思いついたように鞄から蜜を取り出すと、それを数滴垂らした。とても安らぐ香りとほんのりとした蜜の甘みに、モネが歌を口遊ながら足をぶらぶらとさせている様子に、くつろいでいるのが見て取れた。
「あら。誰か居るなんて珍しいわね」
後ろから不意に声を掛けられたモネが驚いて振り返ると、しなやかな女性が一人立っていた。彼女はモネから目を逸らすと、辺りに何かを探すようにしていた。
「あの、あなたのお家でしたか?
勝手に入ってごめんなさい」
「私のお店じゃないわ。
でも勝手に入ってたの?
帽子を被ったお爺さんが居たでしょ」
「ごめんなさい、声をかけたんだけれど。
誰も居られなかったの」
女性は困ったような顔をして、お店の奥へ歩いて行った。モネは慌てて後を追うように駆け寄ると、裏口のような所に帽子が落ちていることに気がついた。